#13
結局、紀子……いや「みのり」の、サブ携帯ってのを持たされることで車泊を許可される。
本当の理由はタバコ吸いたいからだなんて言わないというか冗談でも言えない雰囲気だった。
喫茶店へ移動し、打ち合わせをしながら少し遅めの昼飯を食べる。
「うわー。このピザトーストって、パンじゃない?」
「ピザトーストなんて、そんなもんだろ」
「パンに乗ったピザなんて初めて! それに、ナポリタンあるなんて!」
「みのり……もう大学生なんだから、少し落ち着けよ」
「んー。お兄ちゃんこそ。いまだにパスタのことスパゲッティなんて呼ぶなんて。あり得ないし」
「メニューに書いてあるだろ。郷に入りては郷に従えって言ってな。百軒店では『カレー』じゃなく『ムルギー』って言うんだぞ」
「あー。それ、大槻ケンヂやオザケンの好きな伝説のカレー屋でしょ?」
「知ってるのか? けっこう昔のネタだぞ?」
あなどれん。さすが、インターネット世代。年齢にとらわれずにたくさんの事を知っている……
「お兄ちゃん。今度、連れて行ってよ」
「なんで俺に頼むんだよ」
「お金いっぱい入るんでしょ? いいじゃない」
ミンクちゃんの顔が浮かぶ。同じこと言うな。自分の方がたくさん稼いでいるくせにな。
「それにお兄ちゃんなら安心だし」
ふむ。だいぶ信頼度が上がっている。ここは乗っておくか。
「じゃあ、さっさと帰って食いに行こうか」
「だめ」
紀子の表情が一変して硬くなる。
「ここまで来て、仲間も居て、チャンスなんだから」
「そんなにたいそうなものか? その都市伝説が」
「謎を解き明かすってのがどんなに素敵なことか……」
「謎を? 都市伝説なんて元からウワサだろ?」
「ないってことを証明することで、世の中の欺瞞を一つ暴けるの。この世から嘘を一つ消すのよ? ロマンの分からない男ね」
ふむ。
両親へのかまって心、両親の不倫。それを『嘘』と解釈していたら、世の中の『嘘』ってやつへの漠然とした怒りもあるんだろうな。危険な場所へ行くことで不安をも煽りたい……そんなところかな?
「……ロマンってのはなそんなに安っぽいもんじゃないんだ」
「じゃあ、どんなのが、よ!」
紀子の声が少し大きくなる。
「そうだな……失うものもなしに何かを得ようだなんてのは、ロマンじゃない、ってとこかな」
危険だってことを、少し心構えさせておいたほうがいい。
「命賭けってこと?」
「命とまでは言わないが……それにな『ないこと』を証明するのはロマンじゃない。『あること』を証明することこそが、ロマンなんだ」
そう。
ないことの証明ってのは簡単だ。途中で逃げ出しても「なかった」と言い張れる。逃げても成し遂げたとイコールになるなんておかしい話だ。俺はそんなの認めねぇ。
「本当にあったら……命賭けよ。守ってね」
「依頼主だしな」
「もう! お兄ちゃんでしょ!」
「ごめんごめん」
やはり、寂しさを抱えてるのには違いないんだな。
懐かれるのもそれほど悪くはない……が。
「で。最終的にはどこへ?」
地図を広げる。
「このあたり……」
紀子が指したあたりをよく見る。
このへんか。確かにその道の先は海辺につながっている。
「海辺に工場?」
「そうよ。噂の工場は海辺にあるの」
海辺の工場。
なんだろう。この嫌な感じは。
思い出せないということもまた嫌な感じだ。
そのとき紀子の「あ、」という声が聞こえた。
目を上げた先に一人の男が走っていくのが見える。
反射的に追いかける。そいつが抱えているのが、紀子のリュックサックだからだ。
後ろから「パソコン壊れないように!」と紀子の声。
タックルする分けにもいかないか。とりあえずカバン優先……集中する……周囲の景色がゆっくりと流れてゆく気さえする。
入り口まであと3秒。
2秒。
伸ばした俺の手の先、そいつは……




