#11
とりあえずはバイクから目を離さないでおいて……なんて答えるべきだ? こういうときは。
「え、えらい、か?」
「あはは。お兄ちゃん、キョドってる」
キョドる。挙動不審ってやつだっけ? いや、バイクを気にしているだけなんだが……完全に舐められているな。
だがターゲットに信頼されるってのはいいことだ。
それに舐められるにしてもこれでこうぐっと来る色気たっぷりの美女だったら申し分ないんだけどな……たとえばあんな。
サイドミラーに映っているバイクがかなり大きくなっていた。乗っている女のバストサイズが分かるくらいに。
黒のバイクスーツに身を包んで……革素材かな、ぴっちりとしているから体のラインがぐっと浮き出ている。
プロポーションはかなりいい。などとチラ観しているうちにどんどん近づいてくる。
……まさかこいつ『ママ側』か?
やがてサイドミラーからは消え、すぐ横を併走しはじめた。
フルフェイスのヘルメットで顔は見えないがこの身体、いい女に違いない。どこか都会の臭いがする。池袋でこんな子見たら、とりあえずうちの店にって男が群がるだろうな。
ん? 今、ちょっとだがこちらを見たか?
探った方がよいのか関わらないほうがいいのか難しいところだが、助手席の紀子のことを考えるとこれは一も二もなく後者だろう。
速度を若干落とし、追い抜かせて見送ったバイクはそのままだんだん小さくなってゆく。
とりあえず、少し時間を空けたほうがいいかもな。
よし。次のガソリンスタンドでいったん休憩しとこうかな。
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「ああいうのが好みなの? ぱっつんぱっつんの格好したバイク女、けっこうじっくり見てたでしょ? スッケベェ!」
「おいおい。何でスケベになるんだよ。追っ手かもと警戒していただけで」
「分かってるもん。男はみんなそうなんだから。はぁぁ」
男はみんなってお前、高二の分際でどれほどの男を知っているんだ……って言いたいところをぐっとこらえる。
そう、紀子の父親はミンクちゃんとあんな仲だったってこと、おそらく知っているのだろう。
下手に言い逃れしてもなぁ……ここはおちゃらけてかわしておくか。
「あのなぁ。男にどんな理想を抱いているか知らないが、スケベじゃない男は病気だぞ」
「言い訳!」
紀子は心なしかふくれているような。
まずいな。機嫌損ねてる……
「次のスタンドでガス入れるから休憩しますよ。珈琲とジュースと何がいい?」
「ありがと……珈琲にしておく」
ジュースって響きは子どもっぽいのよ、紀子の目がそう訴えている。
ガソリンスタンドの看板を見つけ、ウインカーを点灯させる。
セルフスタンドか。まずは車を降りて自販機へと向かう。
……と、そこで気付く。
さっきのバイクだ。
待ち伏せか?
動きやすいようにゆるやかに体の力を抜く。あれだけのプロポーション、武道のたしなみがあってもおかしくはない。というかどこに居る?
その時、トイレから黒革つなぎの女が出てきた。
ヘルメットはしていない。
美人だ。ちょっと垢抜けていない気がするが、まあ夜の池袋じゃないんだ。ミンクちゃんだって非戦闘モードの時はそれなりだし。
いかんいかん。ここで鼻の下伸ばしてどうするよ?
依頼主の奥方も同じように三島紀子を探しているのは確かなんだ。この女が探偵でって可能性もないわけじゃない。
ただでさえ今、機嫌を損ねかけているかもしれないってのに。
様子はうかがいはするが、こちらからのアクションはしない。
俺は女を無視して自販機で珈琲を買う。無糖ブラック。ブラックなのに無糖って断るあたり怪しさ満点だな。ブラックってのは何も入れないことをだな……とか考えているフリをしつつ、いつでも車へ戻れるようつま先から気を抜かない。
「ねえ」
うっは。向うから声をかけてきたよ……しかもなんか、胸元少し開いている気がするし……。
「は、はい? 私……でしょうか?」
キョロキョロと周りを見渡すフリ。あくまでも警戒していない風に。
女はじっと俺を見つめる。
深い瞳の色。黒のようでいてもっと奥があるような。
「どこかで会わなかった?」




