384話 空羽と史菜とお家デート 1
「にゃー子ちゃ~ん、オモチ~、今日も可愛いっ! ふふっ」
「にゃー、にゃー」
「にゃ~、なゃ~~」
「灰川さん、今日は私と空羽ちゃんの申し出を受けてくれて、ありがとうございます」
「お礼を言われるような事じゃないって、まあゆっくりして行ってや」
現在は夜の7時過ぎくらいで、場所は灰川の居室のリビングだ。
空羽と史菜は灰川に、いわゆる『お家デート』がしたいと言い、灰川はそれを受けたという状態である。
夕食は灰川が作って振舞っており、男のつたない料理ではあったが2人は喜んでくれた。
空羽はにゃー子とオモチと戯れており、今日もご満悦の表情だ。猫たちが砂遊の部屋に居る時も普通に会わせてもらってるとの事だ。
「住む場所が一緒になりましたからね、空羽ちゃんもにゃー子ちゃん達に会いやすくなって嬉しそうです」
「ははっ、空羽は前からにゃー子とオモチが好きだもんな。逆に由奈はテブクロと福ポンに会いにくくなって悲しいって言ってたんだよな」
「ですがアパートの方にも行かれるんですよね? その時にいっぱい会わせてあげれば由奈ちゃんも満足してくれると思います」
由奈は両親に相談し、テブクロと福ポンを家に泊める許可を出してもらえたらしい。今度に泊めさせてあげて、いっぱい触れ合ってもらうとしよう。
桜は家が近くなったためマフ子に会いやすくなっており、たまにカームディ渋谷に泊まりに来てマフ子と一緒に寝たいとも言っていた。
「にゃ~、なゃ~…」
「オモチが眠くなって来たみたいだにゃ、せーちゃん、今夜はもう寝させるにゃ」
「そうか、なら仕方ないか。オモチが眠くなって来たから今日は触れ合いタイム終了だな、空羽」
「う~、今日も可愛かったよオモチ~、お休みなさいっ」
オモチはデカイので眠られてしまうと運ぶのに苦労する。寝てしまう前に猫の部屋に連れて行って、今日の猫タイムは終わったのだった。
「ふふっ、やっぱりにゃー子ちゃんとオモチ、それに他の子達とも簡単に会えるようになって嬉しいなっ。灰川さんのおかげだね」
「そりゃ何よりだ、でも暮らしてみて不便な部分とか出てきてないか? 設備が使いづらいとか、配信で不具合とかよ」
「特にありませんよ、心配してもらえて嬉しいですっ」
マンションでの生活は空羽も史菜も不便はなく、むしろ凄く暮らし心地が良いと語った。
広いし綺麗だし、仲の良い者達が近くに居るし、プライバシーの方面でも問題はなく、買い物などもカームディ渋谷で済ませられて便利だとの事だ。
学校にも通いやすいし事務所も同じ場所にあり、駅や他のショッピング施設にも地下通路などで直で行けて便利なのだ。
「ああ、そうだ。すぐに屋上庭園も完成するらしいし、マンションエントランスなんかも少し良い感じになるっぽい」
「なんだか至れり尽くせりだね、こんな凄い所に無料で住ませてもらえるなんて、なんだか悪い気がしてきちゃうかも」
「それはまあ慣れてくれよな、事情は知っての通りなんだし」
「はいっ、お父さんとお母さんが見に来た時は会社の寮と説明させてもらいました。ここの凄さに驚いていましたよ、ふふっ」
皆はそれぞれに引っ越しの事は家族に説明しており、新居を両親が見に来たメンバーも居る。その時はやはり豪華で広い部屋に驚いたとの事である。
「それとだけど、私と史菜ちゃんは彼氏が出来た事は両親には説明したよ。年上の人と付き合ってるってね」
「はい、最初は心配されましたが、ちゃんとした人だと説明したら安心してもらえました」
「そ、そうなのかっ? いや、その方が良いよなっ」
2人は両親に説明して納得してもらったが、彼氏は付き合ってる人が7人も居る事は言っていない。それを話すには早過ぎるというものだし、アヅチからも『それを話すのは待って欲しい』と皆は聞いている。
「私のお母さんは初彼氏が出来たのは中学生の時だったって言うし、あんまり心配はしてないみたいだよ。良かったね灰川さん、ふふっ」
「活動の事もあるので誰かに言ったりしないと約束してくれました、これで安心です♪」
「ま、まあ、それなら良かった。でも先々は思いやられる部分はあるんだよなぁ…」
先の事を考えても仕方ない、こうなってしまった事に変わりはないのだから、精一杯に皆と仲を深めて行くしかないのだと灰川は思う事にする。
「そういう訳だから、ここからは彼氏彼女の時間だねっ? 楽しいお家デートにしたいな」
「市乃ちゃん達の初デートはカラオケで、私たちの初めてのデートはお家デートですっ」
「そうだな、まあゆっくり過ごしながら話でもしていくか」
家デート、自宅でゲームをしたり映画とかyour-tubeを見たり、話したり一緒に居たりして仲を深めるというデートである。
外に行って楽しく遊ぶだけがデートじゃない、じっくり話したり、ゆっくり過ごしてリラックスして互いの理解を深めるというのも立派なデートだ。
外とかで遊んでばかりだと疲れる時もあるし、常日頃から忙しくて身バレとかも気にしなくてはならない活動者には、良い形のデートとも言えるだろう。
「最近は配信とかは上手くやれてる? 俺は相変わらずバズってもなけりゃ視聴者も増えてないけど」
「灰川さんの配信、最近は行けてなくてゴメンね。ちょっと時間が合わなくて」
「前に市乃ちゃんから聞きましたが、灰川さんの配信は調子は変わらずとの事でしたので安心しましたっ」
「おいおい史菜、そこはバズってなくて残念とか言ってくれよ。ははっ」
灰川メビウスの相変わらず面白くなく、最近は配信頻度も低いし皆は時間が合わず、視聴者も増えていない。
だが趣味配信なんてそんなものだし、灰川も最近は忙しくなってきた。配信における心構えも趣味に切り替えてるし、今となっては特に気にしていたりはしない。
「私たちも配信は変わらずかな、でも配信って私たちにとっては普通の日常だし、上手く行ってもそうじゃなくても過剰に反応したりはしないかも」
「はい、余程に変な事を言って炎上したりしなければ、良い出来でも悪い出来でも、あまり気にしません」
「そういうもんか、俺みたいなのとは根本から違うんだな」
空羽たちは今さら視聴者が多少増えたり減ったりしても、過度に気にしないという精神が出来上がっている。
もちろん全く気にしない訳ではないが、気の置き方は灰川のような者とは違い、あくまで日常の事として捉えている。誰だって日常生活の中で小さな嬉しい事や悪い事くらいあるが、そのくらいの事に考えているということだ。
「そういうのを強く気にしてたらネット活動なんて出来ないかな。毎日のようにやる事なんだから、一喜一憂しないって決めたしね」
「私は北川ミナミと白百合 史菜は別だと考えて、活動と私生活は切り離しています。そうじゃないとメンタルが持ちませんので」
今さら小さな事では過剰に喜んだりヘコんだりしないと決めて、今は自身の心を陽の方向のフラットに保って配信する事を空羽や史菜は心掛けている。
現在は配信以外にも番組や企業コラボ、その他の仕事も多いので配信やネット活動だけに心を向けている訳にも行かない。
様々な仕事を高いレベルで成功させ続けなければならない、仕事で組んだ相手方に利益や話題性をもたらさなければならない。仕事に影響が出ないよう精神はフラットに高く保つことが大事だ。
皆はそれらの事を意識的や無意識的に理解しており、自信を活動者として保つ精神性がある。
「むしろ今は配信が前より楽しいって思えてるかも、番組撮影とか他の仕事と違って自分の思い通りにやれる部分が多いから」
「他のお仕事は仕事先からの要望も大きいので、自分の思い通りには出来ませんしね」
「new Age stardomもディレクターからの指示とか要望は多いらしいもんな、面白い番組を作るのには欠かせないんだろな」
テレビ番組の撮影ではレギュラー陣であるナツハ達は、最初はカメラとかマイクとか照明機材の多さに驚いたと言う。Vtuberの番組だから、そんなにカメラとかは多くないだろうと思っていたのだ。
しかし蓋を開けてみればスタジオは大きいしカメラは20台近くある時もあったし、スタッフも多くて『今までとはレベルが違う』と感じた。
そのレベルというのは『自分たちが背負う責任』というものだ、番組のメインとなる自分たちが良い物を提供できなければ、スタッフや会社やスポンサーなどに損をさせるという事に他ならない。
その責任を感じるからこそ本気で取り組むし、配信やSNSで炎上なんてしたら大迷惑になるため、変な事を言うような精神にならないようにしている。
「やっぱ色々と考えて活動してんだな、俺には無理だぞ。つーかそれが出来てたら俺は今頃はnew Age stardomに出演する側だったかもな!」
「もしそうなってたら、いきなり番組に男の人が出て来てファンの人達は驚いてたかもだね? ふふっ」
「シャイニングゲートは特に男性関係に気を付けていますしね、絶対に驚かれたと思います」
灰川は何気なく言ったのだが、話の内容が男の事に向かってしまった。
皆はもう彼氏持ちという身の上になっており、それは視聴者にとって望ましくない感情を抱かれる状態というのは間違いない。
だが皆も意思を持った1人の個人であり、感情だって人並にあり、様々な事を考えた末で今に至っている。
「まあ何だ、俺としては空羽や史菜みたいな人気のVと付き合うなんて、本当に良いのかって思う気持ちもあるんだよな。ほんの少しだけファンに悪いっていうかよ」
「私もそういう気持ちは少しあるけど、でも気にしないで欲しいな。ファンの人達は現実に私たちと付き合ったら、思ってたのと違うって感じて、別れたいって感じると思うから」
「私もよくミナミちゃんと史菜ちゃんて割と違うよねって言われますし、同じような結末になってしまうと思います」
お互いに思ってる事や考えを正直に言ったりもして、灰川は多くのファンが居る活動者の皆と付き合うのに少し罪悪感もあると語った。
だがファンはファンであり、身近な人は身近な人という気持ちを皆はしっかりと持っている。
「事務所からも言われてるけど、ファンにあまり感情移入するなって教えられるよ。それって色々な意味で危険なの」
「好意的に感じていたファンの人がアンチになったりする事もありますし、他のVを沢山推してる人も居ますから、活動者がファンに執着するとメンタルをやられると色んな人から聞いています」
「推し変する人も普通に居るし、私たちがファンの行動や精神を縛れないのと同じように、ファンも私たちの事は縛れないって考えてるからね」
「確かにそうだよな、ファンって活動者の生活とか仕事に対して責任はないし、私生活とかに口を出されても困るだけだしな」
「はい、ですから私は灰川さんに好きだと告白させてもらいました。私生活と活動は別と考えています」
今まであまり大きくは話してこなかった『活動者が誰かと付き合うのは良いのか?』という問題も話したりする。
これには色んな意見や考えが人によってあるだろうが、空羽や史菜はV活動と私生活や個人感情は全く別と考え、灰川に告白する事を決めたと語った。
異性と付き合ったらファンに言うべきと考える人も居るが、そんな事をする人はほとんど居ないだろう。そうする義務もないし、それは活動に対する足枷にしかならない。
ファンに言えという意見も何処か正論染みた部分はあるかも知れないが、それは人の感情を『ファン居る奴が恋愛するのは悪』という考えで縛る論じ方でしかないと灰川は思う。
ファンは推しに何の責任も持てない以上、余程の建設的な意見でもなければ何かを聞き入れる必要はないし、深く考慮する意味もない。
「ついでに言うなら、ファンの人達だって彼氏も彼女も居る人は多いよねって思う。自分たちは恋愛を楽しんでるのに、私たちはダメっていうの不公平だと思うな」
「そうですよね! コメントでも彼女とそのゲームやったとか書かれますし! そういう事を書かれる彼氏が居ないVの気持ちだって考えて下さいって思ってました!」
「あー、確かにそうだよな。ファンにだって普通に彼女が居る人も多いだろうし、そう考えると更に言われる筋合いないって思うぞ」
お前らにだって彼氏彼女が本当は居るんだろ?、Vは恋愛禁止なんて言っておきながら自分らは恋愛を楽しむなんてどういう事だ?、そんな風にも考えているとの事だ。
私の配信を見て好きとか書き込んでも、可愛い子に告白されたらイエスって言うんだろ?、私じゃないリアルの誰かを好きになって自分から告白するんだろ?、普通はそのように考える。
だったらファンを恋愛対象として見る事は出来ないし、ファンだってVを真面目に恋愛対象としてなど見ていない。
ファンと活動者の間にプライベートを報告する義務もなければ、互いを縛る権利もないのだ。芸能人ですら結婚報告はしても、恋人が居ますなんて記者会見を開いたりはしない。
ファンを大事にするのと自分を明かす事は別問題だ、ファンと活動者の関係性は『活動する側』『見て楽しんだり、離れたりする側』という関係である。
ネット配信だって他の芸能やエンターテインメントとそこは変わらず、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
直スパチャ要求などをしている場合は違う事情があるかも知れないが、皆はそういった行動はしていない。
「シャイゲ所属者でも彼氏持ちの人は居るし、会社にも隠してる人も多いって聞いてるよ。そういう話は前から裏でいっぱいあったしね、ふふっ」
「ハピレも同じですよ灰川さん、なのでお気になさらず私たちとお付き合いしてくださいね?」
「他の芸能事務所とかの噂も聞くし、やっぱ世の中は裏と表アリって所だよな。俺も実はそこら辺の部分は、そんなに気にしてないしな」
灰川も業界に入ってから様々な話を聞いており、芸能人とかインフルエンサーなどの恋愛裏話なんかも耳に入って来た。そういった事を隠す力が不足している人も多いらしい。
灰川たちは誰かに口外するような事はしないと堅く約束しており、万が一に情報が漏れてしまっても安心してくれと、英明や陣伍やアヅチから言われている。何かしらの方策があるようだ。
「正直に言って俺もファンに悪いとかの感情は薄いんだよな。好きって言ってもらえたのが嬉し過ぎて、あんまそういう気持ちで皆を見れないって言うかさ」
「それって嬉しいかも、だって私たちを個人として見てくれてるって証拠だもんね」
「全くゼロという事はないのでしょうけど、そう感じてくれて私も嬉しいですっ♪」
空羽は以前は灰川の事が気になり始めても、自分の立場を考えて感情を無視していたが、完全に抑えきれなくなって告白となった。
空羽は自分を個人として見て尊敬してくれて、様々に活動をサポートしてくれて、時には霊能で人助けもする灰川を本気で好きになったのだ。その気持ちは活動の縛りでは抑えられなくなったのである。
史菜は以前から灰川に好意を示していたが、イザ付き合うとなったら自分の立場で恋愛をするという事に罪悪感はあった。
しかし市乃や皆と話す内にその心は清められて行き、今の話で完全に心が軽くなった。
これらの事は灰川には言わない、今更に言うのは何となく恥ずかしい気がするのだ。
「でもね、これも割と聞く話なんだけど、恋愛とかを感情で抑圧してた人って、それが弾けた時にスゴイ事になっちゃう時があるんだって」
「やはり心の片隅に罪悪感とかが少しは残ってしまうそうで、そこがもたらす心の効果などもあって、スゴイ事になっちゃう時があるそうですよ♪ ふふっ」
空羽と史菜の雰囲気が少し変わるが、今までそういう事に頓着が無かった灰川は気付いていない。
「スゴイってアレか? 浪費癖とか衝動的な言動とかだよな」
「違うよ灰川さんっ、ふふっ」
「そういった方面の精神性がスゴイ事になっちゃう人も居るかと思われますが、私たちはそうではないみたいですっ」
変化しつつあった空気を灰川の発言がぶち壊す、しかしその程度の事は空羽も史菜も予測済みであったため動揺したりはしない。
空羽と史菜は目配せして『ここで決めちゃおう?』『では手筈通りに行きましょう』というアイコンタクトを行った。そういう意思疎通は女子はお手の物な人も多い。
2人は仲の良い企業のVtuber同士、同じ男性を彼氏に持つ者同士という部分以外にも、同じ高校に通う生徒という共通点がある。
実は今夜の事は学校や帰り道で話し合っており、灰川が自分たちに持つ意識をより濃くしてもらいたいという相談をしていたのだ。
2人は学校の昼休み時間に忠善女子高校の誰も居ない教室に入り、鍵も掛けた上で室内の確認もした上で小声で話した内容はこうだった。
「空羽先輩っ、灰川さんとキスしたいですっ。もっと言うならキスを気軽に出来るくらいの彼氏彼女の関係になりたいですっ」
「史菜ちゃんもそうなんだね、私も同じ気持ちだよ。でも灰川さんは私たちは年下だからそういう事は早いって思ってそうだし、奥手な人だから簡単じゃないと思うの」
「それも分かっています、学生年代の子とそういうのをするのはダメと考えていると感じます」
「中高生のカップルだってキスするけど、それとは訳が違うって灰川さんは思ってるだろうしね」
灰川は社会人であり、皆は高校生から小学生の年代である。そういう事はダメだという気持ちが大きいのは分かるし、特に由奈やアリエルには強いだろうという目算が皆にはある。
だが空羽も史菜もそういったスキンシップや愛情確認の行動には興味が強いし、実際にしたいという気持ちも灰川と付き合い始めたら更に強くなった。
「以前から灰川さんを見たりお話したりするとドキドキしてたのですがっ、最近は前よりもっとドキドキしちゃう時があるんですっ」
「でもそのドキドキが凄く気持ち良くて、もっと灰川さんとドキドキしたいって思っちゃうんだよね? 私もそうだから分かるよ、ふふっ」
「やっぱりそうなんですねっ! お付き合いが決まったのは先日でしたが、灰川さんを好きだったのはもっと前からでしたので、その分だけそういう気持ちが強くなっちゃってますっ」
「うん、凄く分かるよ。前は自分がこんな気持ちになるなんて思っても無かったから、凄く意外だって思ってるの」
空羽も史菜も好意を持って付き合う事になった灰川にしか向けられない感情や、灰川にしか満たしてもらえない気持ちというものを持っている。
付き合い始めたのは最近ではあるが、それまでに抱いていた気持ちや抑えていた感情というものがある。そのため現時点でもイチャイチャしたい欲求や、今よりちゃんと彼女として見てもらいたい気持ちは高くなっている状態だった。
こんな気持ちを誰かに抱いたのは初めてだし、その気持ちが少し苦しくもあり、なのに凄く心地いい感情なのだ。
しかし、現状の関係では史菜たちが灰川に求めるスーパーイチャイチャは不可能だと理解している。
「灰川さんは、私たちの事をまだしっかり彼女だと認識されていないのかも知れません。告白のお返事も空羽先輩の予想通りの“明らかに断られる事を前提にした返答”でしたし」
「それはあると思う、私たちの事を彼女だって思ってくれているし、好きだって思ってくれてるけど、心の底では私たちに不義理な関係を持っちゃってるって後ろめたさがあるんだとも思うしね」
その灰川の気持ちを払拭し、自分たちとしっかりと恋人同士としての感情を持ってもらいたい。
後ろめたい感情とか引け目という心を取り払った上で、自分たちも他のカップルと同じような事をしたいと思っている。
普通のカップルとは違った関係だが、それでもそういった事は求めてしまう。
「ですので、やっぱり積極的かつ大胆な施作は必要不可欠ですっ。私は灰川さんと、すっごくイチャイチャしたいです!」
「そうだよね、でもイチャイチャするだけでも灰川さんはハードル高いって思ってるかもだから、どうにかしないとだね」
同級生の彼氏持ちの子の話とか聞いたり、SNSのカップル情報とか見たり、ネットのカップル体験談とかを読んだりすると、自分たちも同じようにしてみたくなるというのが道理だ。
そうできるための精神的ハードルを下げる、それは灰川が自分たちに持つ引け目の感情の除去にも繋がるが、それこそが難しい。
一気に7人もの異性と付き合う事になったのだから、負い目や引け目を感じて当然だ。
「ここはやっぱり、私たちから少しセンシティブなお話とかして、そういう事に抵抗感が低くなるようにしてあげなきゃダメだよね」
「はい、女子だって彼氏さんとイチャイチャしたいって思うのを理解してもらうのと、私たちとはそういうお話をしても良いんですと分かってもらうために出来る事ですねっ」
「じゃあ今夜は灰川さんは予定空いてるし、私と史菜ちゃんで彼女アタックして、灰川さんの心の壁を少しでも薄くしちゃおうね? ふふっ」
「灰川さんといっぱいイチャイチャしたり、いっぱいキスするためには必要不可欠ですねっ♪」
実は空羽と史菜が話している事は、市乃や来苑や由奈たちも感じている事であり、付き合い始めとはいえ勝手知ったる仲なのだから、もっとカップルらしい事をしたいと思っている。
2人は灰川が自分たちに作っている壁を取り払い、皆と彼氏彼女という関係意識を気兼ねなく持ってもらうために動く事に決めた。この事は皆にもアナウンス済み。
方策としては『友達から聞いたキス話』『多少のセンシティブ内容を含んだネットのカップル話』などをして、灰川にもイチャイチャに興味を持ってもらおうというものだ。
「そうだ灰川さん、せっかくだから家の中をもう1回、ちゃんと見させてもらいたいかも。こんなに凄いルームなんだしね」
「私も見させて頂きたいですっ、とっても広いから1回見ただけでは分からなかったですしっ」
「もちろん良いぞ、じゃあ色々と見て回るとするか。俺もリビングと寝室と猫部屋の他はあんまり見ないしな」
灰川の住むペントハウスは広いが、生活スペースとして使っている部屋は少ない。リビングと寝室とパソコンを置いてる部屋くらいしか、まともに使っていないのだ。
今夜のお家デートは映画とか動画観賞ではなく、お部屋鑑賞となって3人はソファーから立ち上がった。
その際に空羽と史菜はアイコンタクトを取り『準備OK』と伝え合う。
今夜の2人のファッションは肌の露出は少ないタイプで、灰川に気を遣わせたりしなくて良い装いである。
空羽は膝下丈のスカートに青のシャツと軽めのパーカートップスのファッションで、過度な刺激はない服装だ。
史菜は長めのスカートにイラスト付きの白のシャツと私服ブラウスという、落ち着きのある服装だ。
だがこういうのが男心をくすぐるという情報を仕入れており、逆にこういう服装の時に変わった話をしたりするのが効果的だとも聞いたりした。
「メゾネットの上の部屋から行った方が良いか? 1階部分はちょくちょく見てるだろうし」
「ふふっ、灰川さんにお任せしちゃいたいなっ。エスコートよろしくねっ」
「マスターベッドルームも凄く広くて、ウォークインクローゼットやバスルームもあって凄かったのを覚えていますっ」
「皆の部屋も色々あって凄かったよな、こんな所に俺が住むなんて宝の持ち腐れだぜ! はははっ」
こうして灰川と空羽と史菜のお家デートの2幕に行き、ルーム内探索しながら仲を深めつつ、何処かのタイミングでゆっくりして2人の策を実行しようという事になったのだった。




