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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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382話 マイナス百物語に関する灰川の話 1

 月曜日の午後、シャイニングゲートとハッピーリレーの事務所移転が終了した後、ユニティブ興行の事務所に渡辺社長や花田社長と数名のスタッフが集まっている。


 今は3社の会議中であり、様々な事が話し合われていた。


「シャイニングゲートさんの派閥問題は徐々に良い方に向かっていますか、ならば3社間でのコラボ等の際に問題が波及する恐れは下がりましたね」


「はい、その事もあって、いわゆる所属者間での2軍3軍問題も解消に向かっています。ですが、こちらの問題は~…」


 シャイニングゲートの派閥問題はパーティーという名の死の仮想空間への対処の後に緩和が見られ、ネット障害明けに登り派閥とマイペース派閥でコラボ配信もされ、視聴者にも喜ばれたりした。


「ハッピーリレーは視聴者増加は今も順調に行っておりますが、所属者によって活動の時間が大幅に差があるため、押し出せる人材とそうでない人材の見極めの段階に入っています」


「3社間のコラボについては所属者の大部分が好意的に見ていますし、後は~~……」


 もう充分に3社の間の仲は深まった、特にトップ層の仲の深まりは凄く良いレベルであり、ナツハやエリスたち等は今となっては同じ場所に居を構える程になった。


 視聴者に対しても3社は仲が良いという告知は繰り返しており、もういつコラボをしてもOKという状態になっている。


 一応は過去に自由鷹ナツハと染谷川 小路のコラボ配信で、ヤバイ話をしようとしていた所を破幡木ツバサが乱入して止めるという事があったが、あれは流石に他社コラボとしてカウントされていない。


「ユニティブ興行です、ウチも仕事方面は順調に行ってまして、先程に説明した通り様々な仕事の打診が来ています」


「はい、プリコーダーズ製作委員会から劇場版公開に際しての宣伝を兼ねた公式許可配信、それに京都の新ホールのこけら落としイベントの開催の話は順調ですが、Vtuberを主題とした映画の作成の話は難航してるとの事でしたね」


 ユニティブ興行には伝手から大型の案件が舞い込んでおり、それらを3社に任せたいという話が多く来ている。


 これは伝手とか企業間の上下の話とかだけの話ではなく、3社に様々な意味での信頼が宿って来たという意味合いが大きい。シャイニングゲートとハッピーリレーは特に信用がある筈だ。


「ネットだけじゃなくテレビCMの案件も複数が来ていますが、やはり大きな仕事はトップ層に依頼したいという要望が圧倒的多数を占めますね」


「仕方ないですよ、そこは対応していくしかないです。灰川さんの所からは実原エイミさんと織音リエルさんにCMの依頼が多いそうですね」


「はい、海外企業からも2人には多数の高額な仕事依頼が来ています。有名ファッションブランドの子供服モデル、写真モデルなどです」


 ユニティブ興行も順調に軌道に乗っており、アーヴァス家の伝手もあって国外からの有力な仕事が来ている。


 CM案件なども有名企業のネットやテレビCMの依頼も来ているし、街頭のサイリウムモニターの広告、掲示物のキャラクター起用などの依頼も3社に来ている状態だ。


 大企業と呼ばれる会社からの案件はユニティブ興行を通して依頼される事が多く、これは四楓院グループとの繋がりが灰川が強いからである。


 もちろんシャイニングゲートには独自に大企業からの依頼も来るのだが、それらはユニティブ興行を通して依頼されるものと比べると制約が強かったり、収益率が低かったりする場合が多い。


 後はユニティブ興行の新規Vtuberデビュー者の愛純と、小学生プロゲーマーのミナソンがデビューするなども改めて話した。


 ミナソンは現在はネットニュースやゲーム雑誌などにも急遽に掲載され、様々な好奇の目を向けられており今週末の活躍が期待される状況である。


 良いニュースや良い先々の展望の話が出て来るが、同時に界隈にとって暗いニュースも出て来たりもした。


「ネット配信の事務所の廃業や倒産が相次いでいますね、一時期に乱立しましたからね……」


「ライクスペース倒産の後から一気に増えましたよね、流行りに乗った甘い展望の経営をしていた所や、中小企業の税金対策事務所が次々と潰れていますよ」


「悪質な事務所も多くなりましたし、こうなる事は自然な動きだったでしょう」


「収益構造が不安定なまま経営して痛い目を見たとか、スタッフ不足のまま大きな企画を打ち出して失敗とか、色々とあるようですね」


 配信事務所の倒産や撤退が相次いでおり、ネット配信の収益競争は過渡期を迎えている。それに際して元から高くなかった業界の信頼性も更に揺らいでいた。


 3社は信頼性の低い界隈から抜け出し、3社揃って特別と見られるステージに行くために今も尽力している状態だ。


 一見すると上手く行ってるように見える3社だが、実際にはトップ層とその他の所属者では知名度や仕事内容、収益に大きな開きがある。しかし、これ自体はどんな業界でも同じだろう、仕事はトップに偏るものだ。


 良い話も悪い話もされて行き、今後の活動や経営の展望や事業展開を話し合った。


 これからは3社のコラボをするとか、その初回にプリコーダーズの関連配信を当てるとか、色んな案が出されたり決められたりしたのだった。


 やがて会議で話すべき議題も終わり、3社での情報交換のような話に内容が移り変わる。


「そういえば灰川君、エリス君から灰川君に少しばかりクレームが入っていたぞ、はははっ」


「クレーム? ど、どんな内容っすか花田社長っ」


 まさかの発言に会議の出席者は興味深そうに灰川と花田社長の方を向く、ハッピーリレーの三ツ橋エリスは灰川とはそこそこ仲が良いというのは会議に出ている者達は知っていた。


 灰川はハッピーリレーの所属者とは仲が良い者が多いし、三ツ橋エリスも同じだと分かっている。そんな所からクレームなんて何があったのかと、全員が興味を引かれた。


 だが花田社長は冗談めかして言ってるのは明らかであり、深刻な苦情とかではないのは全員が理解する。


「ホラー配信に使いたいと思って灰川君に教えてもらったスポットが、ことごとく(いや)なタイプのスポットで配信とか動画に使いづらいという話だそうだ。ワガママを言わせてすまんね、灰川君」


「あ~、それですか。本人から言われましたよ、俺の紹介する場所って何か独特の厭さがあるって」


「そもそもの話としてこちらから出した条件が厳しいからね、そんな中でも紹介してくれた灰川君には感謝しているとも言っていたよ」


 ホラー配信や動画に関してハッピーリレーが出した条件は、人が本当に死んだりした場所ではないこと、凄惨な噂などが無い場所など割と多い。


 そんな条件の中で独自に知っていて撮影許可も下りる複数の心霊スポットなどを灰川は案内したのだが、どうにも使いにくい場所ばかりだったのだ。


 灰川は今でこそユニティブ興行の所長という肩書があるし、それまでにもブラック企業勤務者とか無名配信者とかハッピーリレーのバイトとか色々とやって来た。


 その一方で時期によって程度の差は有れど、現在に至るまで霊能活動を行って来た霊能者という側面もあり、誰も知らない本物の心霊スポットなどを多く知っていたりもする。


「俺が関わったオカルト案件って厭な内容が多いんすよ、まあ心霊とかのお祓いは大体がそういうもんですけど」


「そこは仕方ないのだろうな、明るい心霊スポットなどは聞いた事がない」


「私たちには全容が分からない世界ですからね、ホラー系の動画制作や配信は引き続き考慮が必要でしょう」


 灰川の知る独自のスポットはどうにも動画に向いた場所が少なく、何か独特で視聴者ウケが悪そうな所が多い。配信に向いてない性格がこういう所にも影響しているのだろうか?


「俺としては他のyour-tuberみたく、何の曰くも無い家とかをスポットに仕立て上げて、ヤラセでホラー撮影とかでも良いと思うんですけどね」


「灰川さん、それだとバレた時に問題になっちゃうよ。というか、やはりヤラセが多いのか…」


「俺はホラーでヤラセは肯定派です、怖さを楽しみたいですし」


「まあ、ヤラセや造りをして動画を製作するかは、またの機会に考えようじゃないか」


 こうして会議は終わり、スタッフ達はユニティブ興行の会議室から出て行った。


 ハッピーリレーが当初に企画していたホラー系配信や動画投稿などの企画は中断となりかけており、最近はあまり重要視されていない。


 やはり明るい方面で活動した方が良いだろうという判断からのものではあるが、三ツ橋エリスなどは怪談配信などが好きになって今も継続している。


 灰川としてはホラーに限らずヤラセはアリという考えなため、どこぞのエセ心霊スポットで仕込みありで動画撮影でもすれば良いのにと思うが、色々な問題もあるため実現には至っていない。


 意外とホラーというのは縛りが多いし、企画を実行したり継続して行くのも簡単ではないのだと灰川は思い知った。


 企画というのは実行力や継続性、良い物が撮れるような環境が無ければ逆効果になるのだと分かったのだ。


 企画を打ち立ててイザやってみたら面白くない内容になったとなれば、そこに掛けた金や時間や労力が無駄になる。そんなギャンブルをするよりも配信してコンスタントに稼いでいた方が良いという事情もあるだろう。


 頑張った企画がボツになって落ち込んだ所属者が、配信にも影響してしまったりする場合も考えられる。


 会議は完全に終了してスタッフはそれぞれ戻って行ったが、渡辺社長と花田社長は残った。


「そういえば我々は灰川君が今までどのようなオカルト案件に関わって来たのか、深く聞いた事はなかったな」


「多少は聞いてましたけど、花田社長も詳しく聞いてなかったんですか? もし良かったら教えてくれないかい、灰川さん?」


「え? あ~、まあ良いですけど、あんまり気持ちの良い話でもないもんですよ」


 灰川の生い立ちなどは社長達も知っており、霊能者の家系に生まれて強い霊能力を持ったという事情は知っている。


 両親の関係だったり人づての依頼などでオカルト案件に関わる事があったとか、そういう事も知っているのだが、どのような事に当たって来たのかは詳しくは知らないのだ。


「灰川家は陽呪術っていう系統の術を使うんですが、これって世の中には凄く少ない系統の呪いなんです」


「ふむ、そう聞いているな。効果のほどは所属者やSSP社の方々に聞いて知っているぞ」


「でも、その存在を知って頼って来る人って変わった人も多くて、そのせいかお祓いに関しても変わった内容のモノが多いっていう、灰川家の特徴があるんですよ」


「なるほど、変わった術の元には変わった依頼が来るという感じなんだね」


 灰川家は陽呪術という人の力を上げる術の行使に長けた家である。しかし今となってはオカルト界からも忘れられた系統の術であり、現在では全くの無名の家である。


 灰川家を1から全てを語るには時間が掛かり過ぎるし、ここは灰川が受けた依頼に纏わる話をしようと決めた。社長達もそれを望んでいる。


「折角ですし配信とかに関する怖い話をしますか、配信企業の社長のお2人が居るんですしね」


「それを言うなら3人だと思うよ灰川さん、ユニティブ興行の所長じゃないか」


「言われてみればそうっすね! でもまだ所長を名乗れる程の貫禄はないですって、はははっ」


 枕噺のような前置きをしつつ、灰川はどんな話をするか決めた。


「今から話すことは灰川家は関係ないんですけど、ちょっと変わったオカルト相談が来た事があったんです。っていうか現代は灰川家に限らず、割と変わったオカルト依頼も多いそうなんですけどね」


 ここからは社長達があまり知らない、灰川の霊能者としての側面が語られる。自分たちが今もあまり知らない世界の話に、社長達は興味をそそられた。


「俺が大学時代にバイト先の知り合いの伝手で受けた相談で、変わった事に関するモノがあったんですよ。マイナス百物語って感じの事です」


「マイナス百物語? それは怖い話を100すると怖い事が起きるというアレの逆という事かね?」


「明るい話をするという意味かい? なかなか面白そうなものだけど」


「少し説明しますと、オカルト的に見れば100個も一定の方向性の話をした場合、場の空気や人の精神はその方向に引っ張られます。それが降霊とかに繋がるという理論が百物語なんですよ」


 100個も怖い話をすれば、どんなに茶化そうとしても場の空気は陰の方向に振れるものだ。


 不自然な寒気などを感じさせるような空気感になり、居もしない何かが居るような気配がしたり、何か悪い事が起きる予感が強くなったりすれば、その時点で霊を引き寄せる条件は整っている。


 百物語をすれば絶対ではないが、心霊現象に遭遇する確率は高くなる。多くの暗い話をして場所や参加者の気というモノを、霊現象を引き寄せやすくするという降霊術のような物なのだ。


 灰川の口ぶりが怪談を話す際のソレになり、ユニティブ興行の会議室の中に先程までとは違う感じの緊張感が走る。


 渡辺社長と花田社長は、マイナス百物語という今まで聞いた事のない話に興味をそそられ、耳を傾けた。


「大学の時にバイト先の人の知り合いの人の友達がやってるyour-tuberグループが、心霊現象か何かに遭遇してるっぽいから見てやってくれないかって言われたんです」


「つまり灰川さんの知り合いの知り合い、赤の他人グループが心霊現象に遭遇したということだね」


 そのグループは幾つかの大学の生徒が5人ほど集まって出来たグループで、男が5人のグループyour-tuberだった。


 全員ともイケメンとまでは言わないが典型的な陽キャで、ネットで一発当てて稼いでやろうという気持ちから活動を開始した、どこにでも居るぽっと出のグループである。


 しかしチャンネル登録数は200人くらいで、話題に上れず人目に触れない日々が続いていた。


 動画の投稿数も1週間に2本くらいで、編集も素人っぽさが強いし、動画の企画や内容にしたって目新しいものは無い等、バズる要素はなかった。


「そこでメンバーの1人が百物語とかウケんじゃね?って言い出して、普通の百物語じゃ伸びないから面白くて明るい話を100個する逆百物語、名付けてマイナス百物語をしようって話になって実行したんですね」


「your-tuberをやっていたんだね、でも明るくて面白い話なら変な事は起こらなさそうなものだけど」


「普通なら起こらなかったと思います、少し変わってるけど過剰に奇抜な事でもないですしね」


 変わった企画とは言っても現実的な範疇の奇抜さであり、彼らはバズるために迷惑行為をしたり、有名人にSNSで喧嘩を吹っかけるとかのような非常識な事はしなかった。


 活動にしても楽しみながらやりつつ、何かの拍子に話題になれば良いなという部分も強く、本気とエンジョイが入り混じったグループだったのだ。


「your-tuberで稼いで有名になりたいという普通の男子学生たちが、何気なしに思い付いた企画です。実行も簡単ですし、難しい目標とかもなかった」


「ふむ、なのに何かが起こってしまったという訳かね」


 灰川が学生だった頃に相談されたオカルト案件、ただ明るい話や面白い話を100個していくという企画、そんな楽しそうな事が思いもよらない現象を招いた事例があった。


 your-tuberを志望しつつエンジョイしながら活動していた男子大学生たちが体験した話、そこに関わった霊能者の話が始まる。


 問題ないと思ってやったことが大きな事故に繋がったり、一見すると何ともない行動が何かの悪い事に繋がってしまうなんて世の中にありふれた話だ。


 それはオカルトの世界でも時折にあり、何気ないことがオカルト現象に繋がったりする事もある。


 無名の若者男子グループyour-tuber、彼らの軽い企画が思いもよらない事象を呼び寄せてしまった。

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