380話 メスガキ御用達ショップに行こう 1
日曜日、灰川は午前中に桜を自宅に車で送って帰した。昨日から今日に掛けてマフ子といっぱい触れ合えて満足だけど、やっぱり離れる時は凄く寂しく、一緒に暮らしたいという思いが強くなったそうだ。
その後は午前に幾つか仕事をして、アリエルはハッピーリレースタッフに引率に付いてもらって佳那美と一緒にドラマの撮影があり、それぞれに仕事をこなした。
そして午後になり、カームディ渋谷のユニティブ興行事務所には何人かのメンバーが集まっている。
「ここがユニティブ興行の新事務所だ! スゲーだろ!」
「わぁ~、凄い広くて立派な事務所ですっ! こんなの友達に自慢したくなっちゃいますよ~! しないけど!」
「やっぱり大きい事務所ね!眺めも良いわ! わははっ!」
「くふふっ、来週にはシャイニングゲートとハッピーリレーも事務所が移動してくるんだよねっ」
「アーちゃん! こっちから新宿の方が見えるよっ!すご~い!」
ユニティブ興行の事務所には灰川、愛純、由奈、アリエル、佳那美が居た。
愛純は渋谷に買い物に来たついでに新事務所を見に来て、由奈はカームディ渋谷の自分のために用意されている部屋を見に来て、佳那美とアリエルは撮影終りに一緒に遊ぶ約束をしていてここに来た。
灰川は本日の仕事は日曜日という事もあって既に済んでおり、来週は余裕をもって動けるよう備えている。
「灰川さんっ、こんな高い所でお仕事なんて、足が震えてガクガクになっちゃいませんかっ?」
「俺は高所恐怖症じゃないっての、危険が無い高所なら平気なの。そもそも俺の今の自室はもっと高い所にあるしね!」
「そうなんですね! バカと煙は高い所が好きって言いますけど、そっちのタイプなんですね! 分かりましたぁ!」
「分かってな~い! 愛純ちゃん!俺は所長よ!? もっと俺を立ててよ!」
そんなジョークのやり取りをしつつ、愛純はセミロングの髪を揺らしてイタズラに笑う。こういうやり取りが好きな子なのだ。
「アリエル!佳那美ちゃん! やっぱりユニティブ興行の事務所ってスゴイわね! ハッピーリレーもこの場所に移るなんて更に凄いわね!」
「由奈ちゃんっ、ハピレに来たらユニティブ興行にも遊びに行けるね!あははっ」
「でもユナ、事務所にはハイカワやボク達が居ない事も多いよっ」
皆で新しい事務所が凄いとか高い場所だとか騒ぎ、愛純は本格的に活動が始まる前に凄い事務所になったと喜んでいる。
佳那美とアリエルも同じようにはしゃいでおり、広い事務所の中を由奈も交えて走り回ったり、所長室の椅子に座ったりしながら遊んでいる。
今日は他の皆は仕事だ何だと予定が埋まっており、誰かが会いに来るとかの事はない。
「灰川さんって来週末は忙しいらしいですけど~~……あっ!そうでしたっ!」
「うおおっ、いきなり大きな声出さないでよ愛純ちゃん!」
灰川と会話していた愛純が何かを思い出して声を出し、何事かと気になった由奈たちもデスクの周りに集まって来た。
「来週のMCT大会に必要な物を買いに渋谷に来たんですよ~! そろそろショップがオープンの時間なんです~!」
「例の大会かぁ、何やるかよく分かんないけど、買いたい物があったのか」
「MCT大会って何かしらっ? Vtuber関係の大会だったら私も出たいわね!」
「MCT大会は“メスガキ チャンピオンシップ トーナメント大会”の事ですよ~! 優勝者は有名なぬいぐるみ職人の制作した“メスガキテディベアのセット”がもらえるんです!」
来週に開かれる巷で話題の大会、日本で最も凄いメスガキを決める大会が開かれる。
大会には“我こそは!”と意気込む生意気で煽り癖がある少女たちが集い、頂点を決めるという大会だ。本戦出場者には移動費とか滞在費も出るらしい。
スポンサーは少し名のある製菓会社と製薬会社で、大会の収益とかは全額募金というチャリティー大会である。だが1位から3位までは割と豪華な賞品がもらえて、それ以下の選手でもTシャツとかの記念品が配られる。
「テディベアのセット!? どんなのなんだろう!フォーラみたいな子なのかなっ?」
「いや、たぶんニヤニヤした目付きのテディベアだと思うぞ、よく知らんけど」
「ハイカワっ、そもそもMESUGAKIって何なのさっ? ボクには女の子に対する悪口のように聞こえるよっ」
「私たちの言うメスガキは悪口じゃないですアリエルちゃん! メスガキというのは煽りや少し悪い笑顔とかを駆使して人をからかったりする属性の女の子で、様々な種類や形の~…」
「そうなのね! 愛純ちゃんはメスガキということね!私も生意気っぽい所があるって言われるから、メスガキ属性かも知れないわ! わははっ!」
そこから愛純のメスガキという概念の講義が開かれ、皆である程度は理解したのだった。
「つまりメスガキというのは、様々な目的や思いがあれど誰かを煽ったり見下したりして、でも心に傷を負わせるのとは違う、悪いだけではない何かの心を同時に搔き立てるという存在なんだね!」
「ザコとかキモーイとかの言葉をただ言えば良いだけじゃなくてっ、メスガキ女の子からしか得られない何かが付け加えられているという事ね! 分かったわ!わははっ!」
「色んな属性があって、王道型のニヤニヤ見下し煽りメスガキ、クールにキツイ言葉を放つ冷やしメスガキ、明るく笑顔で欠点を容赦なく突いて来る自信崩しメスガキとかっ、いっぱい居るんだね!あははっ!」
「そうです! そして私は超激甘・優しさ全開メスガキの属性です! 他にもいっぱい属性はあります!メスガキの人数だけ属性があると言っても過言ではありません!」
「みんな物分かりが良すぎだろ! そんなこと詳しく知らなくて良いからな!」
この場に居た全員がメスガキに対する造詣が深くなってしまったが、そこは取りあえずは気にせず話は進む。
「アーちゃん、私たちはキッズファッションショーがあるからMCT大会に出られないよ~、でもどんな大会なのか気になる!」
「ボクもメスガキテディベアのセットが気になるけど、ボクにはフォーラが居るから満足さ。ちゃんとキッズファッションショーを真面目にする!」
来週は佳那美とアリエルは仕事があるためMCT大会には出れないし、そうでなくともエントリー期間は終わっている。
本戦出場はネット審査で決められ、今年はVtuber枠があるらしく16人の本戦出場者の内の3人ほどはVなのだそうだ。
愛純はVtuberとしての出場であり、来週にはVモデルも完全に出来上がるため出場には問題ない。もし完成しなかったら生身でも出るとの決意だったが、その必要はない状態だ。
「メスガキのお買い物がしたいのね! 何処に何を買いに行けば良いのか分からないわ!」
「そもそもVで出るのに必要な物とかってあるの? マイクとか?」
「マイクは既にメスガキ活動に最適な物を持っていますっ、でも他に幾つか必要な物があるのでメスガキ御用達ショップに行かなくちゃいけません!」
「この数分で何回のメスガキ発言が出たんだ!? だんだん頭の中が変になって来たぞ!?」
もう灰川にはよく分からない世界と界隈だ、大会とかショップとか意味が分からない。
だが意味が分からない界隈とか業界なんて幾らでもあるし、これもそういった種類のモノの1つでしかないのだと納得はする。
「誠治!私もショップに行ってみたいわ! 今から皆で行くわよ!わははっ!」
「灰川さん!私も行ってみたい~! どんなお店なのか気になるもん!」
「ハイカワ!ここはボクたちの見識を広げるためにも、最低限でもショップには行くべきだと思うんだ! メスガキのお勉強も先々で役に立つかもしれない!」
「お…おいおい…、まあ良いか、どうせ暇だし」
結局は皆に説得される形で愛純の言うメスガキ御用達ショップのリトガチーキーという店に行く事になり、5人で渋谷の街に繰り出すのだった。
「今日は日曜だから人が多いなぁ、道路も渋滞してるし」
灰川は車を出して皆を乗せてショップが入っているビルに向かう。
歩いても余裕で行ける距離ではあるのだが、佳那美とアリエルはモデル活動をしてバズりの経験もあり、名前が通ってスマホを向けられる頻度が増えて来たため車を使う頻度が高くなってきた。
もちろん常に車移動している訳ではないし普通に街を歩いたりもするのだが、今日は人が多いため安全のためにも車を使おうという事になったのである。
「メスガキ界隈とか大会って言うけどさ、俺は愛純ちゃんくらいしか知らないんだけど、他にも誰か居るの?」
「ふふんっ、もちろん居ますよ。界隈には強敵が目白押しですっ」
愛純が言うには界隈で知られているメスガキが何人か居るらしく、情報のやり取りとかがされているらしい。
関東には“ぬくもりの嘲笑少女”、九州からは“逆転を逆転せし小娘”、東北からは“ニッコリ罵り雪娘”、四国からは“オスのタタキ職人”といった強豪が大会に出て来るらしい。
「去年は関西から“煽り舞妓”の二つ名を持つ強豪が出場していたんですが、今年は受験で忙しいので出場できず、妹の“煽り舞妓2世”が“脱力デバフ巫女”に敗北して~…」
「ゴメン愛純ちゃん!ぜんぜん分かんねぇや! 到着したから行ってみようぜ、まさか107の中に店があるなんてなぁ」
「ノンギルティインナーを買いに来た時以来ね! 売り切れてたけど!」
「由奈ちゃんもノンギルティインナー持ってるんだ! 私もキッズノンギルティインナー買ってもらったんだ!えへへっ」
「それって話題になってるインナーとアウターの中間の服だよねっ、ボクも欲しいな~」
近場の駐車場に車を置いて107のビルの中に入って行った。
1階のバッグや衣服の売り場を通ってエスカレーターに行き、上に行って売り場を抜けて奥まった所に進む。
灰川としては場違い感が否めず少し居たたまれないが、チラホラと家族連れや親戚連れと思われる客も居るため、特に奇異な目は向けられない。
「ここがメスガキ御用達ショップのリトル・ガーリッシュチーキー! 略してリトガチーキーですよ!ふふんっ」
「なんで愛純ちゃんが得意気なのか知らんけど、店構えからして生意気そうな雰囲気が漂ってるな」
「ツインテールの女の子のイラストがあるわね! 私は同じ髪型だから仲間意識を感じちゃうわ!」
「なんだか面白そうなお店だよカナミ! ここでボクたちもしっかりメスガキのお勉強をさせてもらおう! 新しいモノを知るチャンスさ、くふふっ」
「中学生くらいの女の子のお客さんが多いよアーちゃん! 小学生くらいの子も居るー!」
リトガチーキーは107の上の階の奥まった場所にあり、立地的には107の中でそこまで目立つ方ではない。
しかし店外の壁には『出店10周年記念!』と書かれたポスターが貼ってあり、店の歴史を簡単に説明する貼り紙もされており、実は割と長くやっている店なのであった。
どうやら店主は生意気盛りの女の子に向けたファッションやグッズを、ポリシーを持って製作したり販売したりしている人物らしく、変な店に見えて実は手堅さと誠実さを併せ持った商売をしているらしい。
そのポリシーや想いといったモノが客層である生意気な性格の女子、この店に来る勇気はないがそういった女子のグッズを好む人達に支持され、通販などでも割と儲けていたりする。
「ちょっと前に友達の朝画緒 夜風ちゃんと来たんですが、MCT大会に向けてもう1回来れて良かったかもしれませんねっ」
「そうなの? ってか結構人気あるんだな、小さい店なのに客がそこそこ入ってるみたいだし」
店自体は小さいが、店内には衣服や書籍や雑貨などが色々と売られている。
そんな店内で小学生くらいの子から高校生くらいの女子が色々と商品を見ており、何か独特な活気のようなものが感じられた。
「このニーハイソックス良い感じにザコが見て来そう~! 透け感がマジでキモイ目線とか引きつけちゃいそうかも~!」
「文字Tシャツ買っちゃおうかな…。お兄ちゃんキモいけど及第点❤って書いてあるシャツ、良いと思うんだけど」
「あー!コレ欲しかったんだよね! カラーコンタクトの地雷系メスガキシリーズ!」
「え~?お兄ちゃん、可愛い妹が買ってってお願いしてるのに買ってくれないの~? お財布よっわぁ❤」
「メスガキ茶道セットは高いって! バイト代が入ったら考えるからよ!」
なんていう声が店内から聞こえて来て、中々にカオスな店である。
だが面白そうな店に入るのが楽しみな由奈たちには聞こえていないようで、灰川も意を決して店内に入るのだった。
体調が完全に戻ってないようなので、今回は文字数が少なめになっています。そもそもこの位の文字数の方が良いかもですね。
次回かその次くらに何らかのメスガキ怪談を載せようと思いますが、なかなか良い感じの話が思い付かないです。




