表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

379/388

379話 カラオケで歌ったり怪談したり

「灰川さんってさー、カラオケとか大学時代に行ったりしなかったのー?」


「2年くらいまでは割と行ったな、同級の友達とかでハマってた奴が居たし、俺も楽しめてたしな。値段的に学生でも行きやすかったし」


 カラオケは安い場所は本当に安いし、昼間だと半額とかの店もあったりする。そういう場所を探しては『こっちの店は20円安いぜ!』とか言いながら、あちこちの店に行ったりしていたのだ。


「バイト代が出た日の夜とかはナイトタイムで入って声がガラガラになるまで歌いまくったりしたな、ははっ」


「やっぱそういう時って女の子とかも居たっ? 大学生とかってそーいうイメージある!」


「あー…それな、うん、女子と一緒に行っても俺は他の男子との繋ぎ役だったな。隆樹と増田さんを繋いだのは俺だし、トシヤと野田さんを繋いだのも俺だったな」


「灰川さんは恋愛キューピットの役目をしてたんだね~、優しいな~」


「やりたくてやってた訳じゃないけどな」


 灰川が行った大学は女子も普通に通う大学であり、カラオケにも何人かで行った事があった。


 そこで灰川は『○○君とセッティングして』『○○先輩が気になるから繋いで下さい!』とかの感じで、良いようにセッティング役をやっていたのだ。


 そのセッティングの場のカラオケは都合が良く、割と使ったという思い出もあったりする。そして自分には誰も言い寄って来ないという環境であった。


「後になって繋いだ子の女友達とかから、灰川君は将来性が全く無いし、絶対に負け組になるから眼中になかったって言われてたって聞いたぜ。はははっ」


「ええっ!? なにそれ!」


「そんな増田さんは今は隆樹と新婚生活で幸せいっぱいって前に友達から聞いたぜ! あれ以来、あんま好きじゃないけど、末永く幸せになってくれよな!」


 陰口も叩かれたものだが、灰川としてはそこまで気にしていない。ムカツクけど不幸になって欲しいとは思わないし、良い家庭を作って過ごしてくれと感じている。


「カラオケは良い思い出も悪い思い出もあるけど、ストレス発散にはもってこいだぜ!」


「そだねー、前に灰川さんと悪口叫ぶために入ったけど、あれでもイライラ解消になったもんね!あははっ」


「あ、到着したっすね。行きましょう!」


 やがて目当てのカラオケ店に到着し、雑談を切り上げて店内に向かう。




 受付を済ませ、4人が入るのに丁度良い部屋を宛がわれる。


 エレベーターで指定された部屋まで行くが、シャイニングゲートが所属者に推奨する店なだけあって良い所だった。


 カラオケボックスは法令で防犯のために、廊下側から室内がある程度は見渡せる窓をドアに設けなければならない自治体が多く、この店も例外ではない。同じく法令により鍵の設置も禁止である。


 この店の窓は大き過ぎずプライバシーは一定以上は守られる造りになっており、防犯とプライバシー保護にバランスの良い構造となっていた。


「バリアフリーはそこまで良いって訳じゃないな、桜は歩く時は足元に気を付けてくれよ」


「大丈夫だよ~、慣れてるからね~」


「この機種だと私らの曲あるかも! よーし歌っちゃうよっ!」


 皆で席に着いてデンモク(電子目次)などを触りつつ、自分たちの曲や知っている曲を探したりする。桜には灰川たちが歌いたい曲は何かを言って代理入力する形となった。


「カラオケってよ、この狭さが何とも言えない落ち着きがあるんだよな。狭いと音もガンガン響くし」


「そうっすね! 他とは違う味がある空間だと思うっすよ」


「ねぇ灰川さーん! 私の曲が2曲しか入ってないー!ショックなんだけど! まあオリジナル曲はそんなにないんだけどさー」


「私の曲は3曲だね~、ナツハちゃんは8曲で、れもんちゃんは12曲だね~、後はデュエット曲とかユニット曲が幾つかだよ~」


 染谷川 小路は歌はそこまで強く押しておらず、ナツハはそこそこ押され、れもんは歌が上手いと評判な事もあってナンバー2だがナツハより多く曲を出している。


 ハッピーリレーはシャイニングゲートほど知名度も無いが、それでもエリスの曲は入っていた。ミナミの曲もあり、灰川としては驚く気持ちがある。


「灰川さんって私らの曲って聞いた事あります?」


「あるぞ、雪国スカイとか、ウォーターマーカーって曲」


「あんまり知らない? もっとちゃんと聞いてよー!」


「いや聞いてるって、少なくとも皆の曲は一通りは知ってるぞ。でもカワイイ系の曲が多いから、怪談とか読む時のBGMに適してないんだよな」


「むふふ~、ホラー好きな人と私たちの歌は、親和性が低そうだね~」


 明るく可愛い曲はホラーに合わない、仮に皆の曲がホラー映画の主題歌に使われるなんてなった日には、灰川としては嬉しさよりズッコケが勝つだろう。


「まあ良いじゃん、とにかく歌おうぜ! トップバッターは誰にするよ?」


「あー、うん、そだねっ」


「え、えーと、自分はまだ曲を決めてないっすね」


「私は緊張しちゃうから~、最初じゃなくて良いよ~」


 カラオケで発生しがちな問題、誰が最初に歌うか問題がここでも発生する。一番手というのはカラオケの空気が出来上がってない中で歌うため、どうしても2番手以降とは心持ちが違うものになる。


「じゃあ俺が行くか、カラオケにするかって言ったの俺だしな。カラオケバーで初手に歌うのよりは緊張せんしよ」


「灰川さん頼もしいねー、じゃあお願いしまーす、あははっ」


 最初は灰川という事に決まり、デンモクで曲を探して入力した。


 イントロの間に音量やマイクとかの調節をして、カラオケの準備が整う。


「灰川さんの選んだ“シャドウ・ウイスキー”って曲、自分は知らないっすねっ」


「女子ウケする曲でもないし、来苑の年代だと知らなくて普通だぞ。俺が小学校の時に少し流行った曲なんだよな」


 知ってる曲とかは人や年代によって千差万別、そんな中で知らない曲を聞いて気に入る曲を発掘したりするのも楽しさの一つだ。


「ジョーカーを引きそうな夜は~♪ グラスに揺れるライトの光の奥に~♪」


「う~ん、知らない曲だけど~、普段は聞かない曲調だから新鮮だよ~」


「カッコイイ曲っすねっ、前に聞いた灰川さん作詞作曲の歌と違う感じだけど、こういうのも好きっすよっ」


 来苑は7人ミサキから助けられた時に聞いた灰川の曲を覚えており、それを打ち込んで音源にして、Vフェスで試作曲としてトップの3人で歌った事があった。


 その曲は今は原曲から大幅に変更とアレンジを加えられ、その内に竜胆れもんの新曲としてリリースされる予定である。もちろん灰川は快く了承した上での話だ。


「よしっ、音量とかはこれで良さそうだな。次は誰が歌う?」


「じゃあ私が行くねー、もう入れちゃったしさっ。曲は三ツ橋エリスの“スウィート オレンジフラワー”だよー」


 2番手は三ツ橋エリスの中の人こと、市乃が歌う事となる。明るいイントロが流れ始めたと思った時だった。


「おお! プロモーション映像だかMVが付いてるじゃん! 3Dモデルのダンスとかアニメとかの!」


「そういえばカラオケってこういうのあったっすね! シャイゲも似たような感じでプロモ映像が入ってるのあるっぽい!」


 カラオケにありがちなアニメや映画やゲームのプロモ映像がモニターに流れるというヤツで、最近はVtuberの曲にも映像が入ったりする物もあったりする。


 カラオケ機材の会社などによっても映像が入ってるか否かはあるが、今回は入っていた。


 市乃たちもこの事は知っていたのだが、あまりカラオケには来ていなかったため頭から抜けていたらしい。映像が追加されたのは最近だったというのも理由の一つだ。


「うわぁ、なんか皆に見られるの恥ずかしいかもっ! エリスって金髪だし、私と全く違うしさー、あははっ」


「違うように見えるけど共通点っていうか、雰囲気とかが似てる部分はあるけどな。お、Aメロ始まるぞ」


「太陽ってオレンジを思い出させる~♪ 今日は甘いことがありそうな~♪」


 市乃はしっかりと歌いつつ、灰川と来苑はモニター映像を見たりして、桜は市乃の歌をじっくり聞いたのだった。


 映像には三ツ橋エリスが笑顔でダンスしながら歌う3Dライブ映像や、プロモーション映像などが流れて雰囲気を盛り上げる。明るく可愛らしいMV映像であり、なかなか見応えがあった。


 そんな映像が流れながらカラオケは三ツ橋エリス本人が歌うという、なんとも豪華な構成だ。灰川としては凄く嬉しいし、何か得した気分になる。


「自分のVモデル映像が流れるカラオケで歌うのって恥ずかしいかもー! すごく嬉しいんだけどさっ」


「座ったままで上手く歌えるの凄いな、サビは結構激しい感じなのによ」


 市乃は自分のVモデルの映像への気恥ずかしさからパフォーマンスを発揮しきれなかったと言うが、灰川からすれば凄く上手い歌だった。


 歌手が自身のMVとかが流れるカラオケは恥ずかしいなんて話もあったりするが、それはVtuberという媒体でも存在するらしい。


 自分とは違う姿なのに自分という不思議な感覚が、何か普通とは違った今までに無い恥ずかしさとかを想起させてしまうのかもしれない。


「お、来苑の曲も始まったな。これってサニーRUNじゃん、学祭の時に来苑の友達が言ってた曲の」


「そ、そうっすね! あうぅ~…MVが付いてるっすねっ…! 市乃ちゃんが恥ずかしそうにしてた理由が分かるっすねコレっ…!」


「サニーRUNのMVってカワイイよねー! れもんちゃんのニコニコ笑顔も良いし、スポーティー女子って感じで良いんだよねー!」


「曲も元気で良いよね~、私もれもんちゃんのサニーRUN好きだよ~」


 竜胆れもんがカラオケ映像の中でニッコニコで楽しそうにダンスしながら、スポーティーなPVアニメとかも流れる。


 業界2位のVだけあって映像は凝ったものであり、シャイニングゲートの明るさや可愛さが全面に押し出された造りになっていた。


「晴れた日はRUNな気分が高まるね~♪ 足に伝わる地面の硬さが心地良いかもって~♪」


「歌の明るさに反比例するように来苑の顔が赤いな、やっぱ恥ずかしさがあるもんなのか」


「むふふ~、来苑ちゃんは恥ずかしがり屋さんだよね~、元気だけど照れ屋さんなんだ~」


 MVは凄く明るく可愛いし、竜胆れもんの3Dモデルのダンスも可愛らしいのだが、やはり本人である来苑は恥ずかしそうだ。映像の竜胆れもんがウインクした時に凄く声が上ずり、市乃と同じような恥ずかしさを感じていたようだった。


 もしこれが収録とかだったらNG撮り直し確定だし、ライブステージとかだったら後でマネージャーに怒られるレベルだ。


 灰川としては凄く可愛く感じるし、なんだか新鮮な気持ちで聞けたのだった。


「あははっ、歌の上手さに定評あるれもんちゃんのミス連発の歌、すっごい新鮮だった! カワイイっ!」


「あぅぅ…灰川さんにPV見られながら歌うのって、メチャ恥ずかしい気持ちになったっすよ~…!」


「でもやっぱ声が綺麗だし、歌が上手いっての分かる歌い方だったよな。いいもん聞けた!」


「恥ずかしいのが分かる声だったけど~、音程はあんまり外れてなかったもんね~」


 歌が上手い竜胆れもんの本領発揮とはならなかったが、それでも可愛さが感じられる歌だったので灰川としては大満足だ。PVも可愛かったし、見応えがあったのもグッドである。


「あ~、私の番だね~、染谷川 小路にはMVってあるのかな~?」


「MV付いてるぞ、業界3番手だし、やっぱ付いてるのが普通なのか」


 画面に銀色の髪の女の子、染谷川 小路が映されて曲が始まる。


 曲名は『音のある星』で、ゆったりとした優しい曲である。


「今日も~♪ 優しい音が聞こえるよ~♪ とっても静かな雨の優しい音色だね~♪」


「なんか…めっちゃ心地よくて眠くなる声と歌だなぁ…、MVもゆったりで落ち着くぜ」


「小路ちゃんの歌は優しい曲調が良いっすよね! カラオケに入ってない曲で1つは激しい曲もあるっすけどっ」


「カワイイし聞きやすいよねー、癒しソングだから聞いてて心地いいしさ」


 小路のMVはアニメーションが多く、背景などが綺麗で癒し効果が強いタイプのものだった。


 桜は目が見えないため自分のMVは見れないが、もし見れていたなら満足の出来だったことだろう。


 目を瞑った銀色の髪の少女が、尻尾が長くてフサフサの猫と出会ったり、色んな場所を旅するMV映像で、郷愁と優しさを強く感じさせる曲だ。


 映像の猫のモデルは当然ながらマフ子であり、この映像は2か月ほど前に初めてマフ子に出会ってから急遽に作ってもらったとの事である。


「すごいイイ感じだったぞ桜、癒しが強い曲だったな!」


「むふふ~、灰川さんに聞いてもらえてるから~、ちょっと力が入っちゃったかもだね~」


「小路ちゃんの歌って良いっすよね! オリジナリティもあって癒しが強いっす!」


 こうして4人が歌い終わり、次の曲を入力して行こうとなる。


 1回ずつ歌えば気恥ずかしさや緊張も消えるもので、皆からもリラックスした雰囲気が立ち昇ってきている。


「一巡しちゃったな、次はどうすっかな。あえてメタルとか歌ってみっかな」


「折角だから面白い歌とか聞きたいなー、そういうの何かないの灰川さんっ」


「面白い歌? コミックソングとかギャグ歌とかか、何個か知ってるけど歌ってみるか。下ネタソングとかはナシな」


「どんな歌なのか気になるね~、知らない曲を聞くのって楽しいな~」


「コミックソングって自分は漫画の歌だと前まで思ってたっすよ! 面白い歌って意味だったんすね!」


 灰川が知ってる面白い歌を入力し、次の歌が始まった。


「曲名は“必殺技は札束アタック!”だ! 金の力で勝つ世の中を皮肉った歌だぜ!」


「聞いた事ない面白そうな曲きたー! ロクでもなさそうな曲名!」


「成金趣味の俗っぽい名前っすね! 自分も知らない曲っす!」


「むふふ~、お金こそ正義って歌なんだね~、面白そうだね~」


 灰川が学生時代に知ったコミックソングが始まり、勢いに任せたまま灰川は歌い出す。


 3人は普段は聞かないジャンルの曲であり、新鮮味を感じながら聞いてみるのだった。


「Pay to Win!! Pay to Win!! 世の中金だ!金こそ全て! 必殺技は札束アタック!人間だったら誰にでも有効だ!」


「すごい内容の曲だー! あははっ!」


「全方位にケンカ売ってる曲っすねっ!」


「でもデメリットもあるぜ~♪ 札束アタックは使えば使うほど性格悪くなるんだぜ! ご利用は計画的にってな~♪」


「行き過ぎた資本主義のアンチテーゼの歌でもあるんだね~、こんな歌は初めてだよ~」


 明るくカッコイイ感じの曲調が笑いを誘い、ぶっ飛んだ歌詞が3人を笑わせる。


 コミックソングは世の中に色々とあり、お笑い系、皮肉系、風刺系、意味不明系、下ネタ系など数が意外と多い。


 お笑い芸人の歌ネタが流行って本格的なコミックソングを出す事もあるし、普通に活動していたバンドとかが突然に変な歌を出したりして話題になる事もある。


 灰川の選んだ歌は3人に大いにウケ、狭いカラオケルームの中に笑いを巻き起こす。


「今度はナツハちゃん曲を歌っちゃうよー! そこに何かがある気がしたよ~♪ 笑顔になれる何かが~♪」


「ナツハのPVもあるな!女向けのカッコイイ系PVだぞ!」


「自分は前に同時視聴配信で見たアニメの主題歌にするっすね! 過ぎ去りし日々の中にあった未来への希望は~♪」


「シャイゲの人達が割と同時視聴してたよな! ジャパンドリンクがスポンサーしてるアニメだったから、許可も取りやすかったって聞いたぞ」


「私は何かのタイアップ曲を歌うよ~、何の曲だったかは忘れちゃった~。懐か~しい、本のページをめくった先にある世界~♪」


「この曲はスロットの秘宝回胴伝説のタイアップ曲だぞ! 桜と仲良くなった馬のヒホーデンの名前の元ネタだぜ!」


 色んな歌を歌い、知らない歌や面白い歌を聞き、3人のカラオケはデートらしからぬ賑わいの雰囲気を感じさせながら過ぎて行く。


 市乃たちの持ち歌であるVtuberソング、灰川の歌うコミックソングやバンドミュージック、アニメソング、流行曲、特撮ヒーローの映像付き主題歌、様々な歌が広がった。


「特撮ヒーローってカッコイイっすね! 派手で迫力あるっすよ!」


「桜ちゃんって英語の曲もイケるんだねー! ゆったりしてて可愛いー!」


「あんまりロックって知らなかったけど~、バラードの曲はゆったりしてて優しげだね~」


「猫の手も借りたいって言うけど~♪ 実際に借りたら大変な事になるだけだから止めとけ~♪」


 笑顔が溢れてワイワイ騒ぐが、ここは騒いでヨシのカラオケボックス、咎める人など来たりはしない。


 たまに店員が室内に異常はないかドア越しに覗いて来るが、そこまで頻度も高くないから気にならない。


 楽しい時間を過ごしていたが段々と喉が疲れて来たし、皆は声が重要となる活動者だから程々にしようという事になって、歌うのは終了となった。





「あと30分くらい残ってるっすね、でも喉も大事にしなきゃだし、後は皆でトークでもしてるっすかね?」


「それが良さそうだね~、灰川さんも喉が疲れてる声になってるしね~」


「それで良いか、まあドリンクでも飲みながら何か話すか」


 カラオケは楽しく、皆のPVやMVを見ながら歌を聞くというのは灰川には新鮮な面白さがあった。


 あの曲が良かったとか、この曲が面白かったという話をしているのだが、何となくトークの内容が定まらず浮ついた時間になる。


「灰川さん、カラオケに関する都市伝説とか怖い話ってないのー? あったら聞きたいかもっ」


「定番で言えば使われてない個室に幽霊が出るとか、呼び出しの電話が鳴るとかだろうな。あとはドアのガラスから幽霊が覗いてたとか、逆にトイレから戻ったらドアガラスから部屋の中に誰かが居るのが見えたとか」


 カラオケにまつわる怪談は割と多く、バリエーションも豊かである。


 入力していない曲が何度も流れるルームの話とか、スピーカーから誰かの声が聞こえたとか、色んな話が全国に散らばっているのだ。


「じゃあ俺が前に聞いた話をするかな、昔に聞いた話なんだけどよ~~……」


 残り時間は灰川が怪談を披露する事になり、市乃たちは耳を傾ける。




  カラオケマシンに入っていた謎の歌


 とある霊能者、中崎(なかざき) 吉鷹(よしたか)という人が関わった話である。


 地方都市に出て家庭を持ちつつ仕事をしている吉鷹は、ある時に仕事関係の知り合いから妙な話を聞く。


 知り合いの友人が店長をしているカラオケ店のマシンで、何か変な曲が入っているというのだ。


 その曲は他のマシンには入っておらず気味の悪い曲だそうで、不吉な感じがするので霊能力がある人とかに見てもらいたいとの事らしい。


 吉鷹は以前にその知り合いに霊能力の事は知られており、試しに見て欲しいと言われて行く事になった。


「これがその曲なんですよ、曲名は“手遅れ”です」


 吉鷹と知り合いとカラオケ店長がルームに入り、狭い室内の中で曲が再生される。


 事前に霊視などもして問題は見抜いていたのだが、曲が始まった辺りから急激に室内の霊状態が悪くなった。


 空気が重く濁り、寒気が強くなり、嫌な気配や不吉な感覚がそこかしこに漂い始める。


 曲も変で、何の楽器とも付かない音が不協和音のように鳴らされている。カラオケだから歌は付いていないのだが、メロディーラインも付いておらず、モニターにも歌詞などは表示されていない。


「ちょ、吉鷹さん、モニター映像が……」


「あ~、酷いねコレ…この部屋で何かあったんかね…」


 モニターに表示されている映像は、最初は日の当たる窓辺で男性が本を読んでいる映像だったのだが、いつの間にか顔の見えない女が何処かの部屋の中を歩き回る映像になっていた。


 しかもスピーカーから流れて来る音に声が混ざり始め、もう手遅れだ!、嫌だぁーー!、なんで俺がぁー!、なんて声が入り込んでいた。


「吉鷹さんっ! まだお祓い出来んのか!? コレはマズイって!」


「まあ待ってくれって…そろそろ元凶が顔を出す頃だからよ…」


 音量を上げていないのに音が大きくなる、画面の女の動きが速くなる、そして決定的な事が発生した。フロアの電気が一斉に切れ、カラオケマシンとモニターとスピーカーだけが動いている状態となった。


 真っ暗な場所でモニターだけが気味の悪い映像を映しながら輝き、怖い声や不協和音が混ざった“手遅れ”という曲名の何かが大音量で流れる。もし1人で部屋に居たなら発狂物の事態だろう。


「ちょ!! うあぁぁ!!」


 カラオケマシンの横にいつの間にか誰かが立っている、ソファーの後ろに誰かが顔を覗かせている、それは明らかに幽霊だった。


 知り合いが腰を抜かしながらドアに駆け寄るが開かない、カラオケルームのドアは鍵を掛けれないのにも関わらずだ。その時になって吉鷹が動く。


「南無阿弥陀仏っ!! 邪気よ霧散せよぉっっ!! であぁぁっ!!」


「ぐっ…! ごぁぁっぁ…!!」


 吉鷹が祓いを向けたのは幽霊でもなければカラオケマシンでもなく、店長だった。


 店長が突然に苦しみだし、ソファーの上で藻掻いてから動きが止まると電気が復旧する。


「…この店長さん、従業員を死なせたな……。仕事中に怪我をした従業員を労災隠しで病院に行かせず、後になって脳出血か何かが出て死んだんだろう。その恨みの呪いが掛かっていたんだ」


「そ、そんなっ…! マジですか吉鷹さん…!?」


 店長はあまり性格が良い人物ではなく、本社から良い評価をもらうために従業員に無理をさせたりするような人物だったのだ。


 下の者には高圧的な人物という事であり、会社は下の者の意見を聞く体質ではなく、問題は発覚してこなかった。


 だが知人や友人には人当たりが良いというタイプでもあり、吉鷹の知り合いは店長のそういった面を知らなかった。


「店長に憑いていた霊は危険だったから強制的に祓ったけどさ…たぶん他にも恨みを買ってるだろうから、先の事は保証できないよ」


「そうですか…ありがとうございます…っ」


 後から吉鷹が聞いた話だが、店長は電気工事士資格が無ければやってはいけない作業を部下にやらせて感電事故を起こしたり、極度の疲労状態にある従業員に高所作業をさせて転落事故を起こしていた事が分かったそうだ。


 それらの事故は『その程度で病院とか甘えんな!』とか言って、労災を隠していたらしい。


 結局は知り合いも店長との縁は切れて会わなくなり、吉鷹もその後の事は分かっていない。


 楽しいカラオケ店の裏側にある嫌な事情が引き起こしたオカルト現象、謎の歌が入っていたカラオケマシン。


 恐らく呪いを受けた店長が空き時間などに聞かされるという形で呪いを強め、心身への影響が出たのだろうと吉鷹は見ている。


 だが、吉鷹にも分からない事が1つあった。


 カラオケマシンの横に立っていた影は酷い憎しみを抱いていたが、それは店長に向けたモノではなく、知り合いに向けられていたような気がしたのだ。


 その知り合いは仕事での関係もあるため深くは聞けず、結局は今も保留状態となっている。




「うわー…想像したら怖いかもっ…!」


「知り合いの人も何かしたんすかね…? う~…分かんないっす…!」


「人は見かけによらないの悪いパターンだね~、私は見えないんだけどね~」


「色んな話があるよなぁ、でも創作怪談っぽいから真に受けたりしないでくれよ?」


 幽霊話でも人間話でも怖い話は多いし、吉鷹のような人間の嫌な話と幽霊話が混ざったタイプの出来事も多いものだ。


 一見すれば人当たりは良いけど下の者は人間扱いしないみたいな人は世の中に普通に居るし、下の者にも上の人にも慕われて良好な関係を作れるけど家庭がボロボロなんていう人も居る。


 良い人か悪い人か一概には決められない世の中だが、吉鷹の会った店長は悪い方に傾いてしまった人なのだろう。罪悪感はあったのだろうが、労災隠しなどで責任を逃れられる立場に居て、精神が変わってしまったと予想される。


 だが、どんな考察をしようと怪談は創作という気持ちを忘れてはいけない、あまり気にし過ぎたら良い事はないものだ。


「じゃあそろそろ出るか、丁度良い時間だしな」


「夕方くらいだねー、ご飯とかどうする?」


「皆で食べて行くっすか? 桜ちゃんもどう?」


「私はどうしようかな~、皆と一緒に食べたい気もするよ~」


 会計を済ませて駐車場に行きながら夕飯をどうするか等を考える、明日は3人とも配信や仕事があるという都合も考えつつ歩く。


「あ、そうだ! 明日は桜は午前中は休みだよな? だったら明日の午前までカームディ渋谷に泊まって、マフ子と遊んでったらどうだ?」


「~~! それ良いね~、マフ子と一緒に寝たいな~、むふふ~」


「両親に説明を上手くしないといけないけど、市乃たちも居るから完全に1人な訳じゃないし大丈夫だと思うぞ」


 灰川は春川家の両親から信頼されており、宿泊とかも友達なども一緒だったら構わないという形になっている。


 だが両親は娘も友達も丸ごと灰川のカノジョになってる事までは知らない。カミングアウトの際は各所から強烈な援護が入る事が確約されている。


「自分も桜ちゃんの部屋に遊びに行くっすよ! マフ子ちゃんとも触れ合いたいし!」


「だったら灰川さんっ、私もギドラと一緒に居たいんだけど良いよねっ?」


「大丈夫だぞ、じゃあ今日は女子会って感じで過ごすと良さそうだな」


 この日は桜はカームディ渋谷に用意されている部屋の案内も兼ねて宿泊が決まり、マフ子といっぱい触れあう事が決定したのだった。


「じゃあ夕ご飯と桜の着替えとか買って帰るか、ちょっと短いデートだったけど皆は明日も予定があるんだしな」


「そうだねー、灰川さんとしては私たちの胸と触れ合い出来なくて残念だったねっ? あははっ」


「そんな下心抱えて来とらんわ! じゃあ出発するぞっ」


 駐車場に停めていた車に乗り込んで発進させ、安全運転で裏通りを進んで行く。


 カラオケは楽しかったしストレス発散にもなり、皆としては新たな歌とかの発掘にもなって新鮮な気持ちになれた。


 今夜は桜は市乃や来苑、そして空羽や史菜といったメンバーで夜更かしをするのだろう。そこにはマフ子とギドラ、そして恐らくオモチも一緒になる。


 そんな中で3人が何やら灰川に聞こえないように会話をして、すぐにイタズラっぽい笑みや照れている赤面を見せながら、信号待ちしている灰川に語り掛けた。


「灰川さん、私たちが歌ってる時に~…胸のほう見ちゃってたのバレバレだよ~? あははっ、でも嫌だとか全然思ってないから安心してねっ?」


「そ、そのぉ…自分もっ、嫌じゃないっすからねっ…! だってっ、もう灰川さんのカノジョですしっ…! えへへっ」


「むふふ~、灰川さんが歩行介助が前より上手くなっちゃったから、お胸を当てられなくなっちゃったよ~。たまにはちょっと下手なフリして欲しいな~」


「ちょ…! 俺はそんな、だなぁ…!」


 灰川にも全く自覚が無い訳ではなかった、実は皆の胸に目が行ってしまった瞬間はあったのだ。


 見ようと思って見た訳ではなく、邪な考えもなかったが、どうしても3人の豊かな胸に目が行ってしまう瞬間があった。


 皆としても灰川のその視線は嫌ではなく、今はちゃんと女性として見られている事が分かって嬉しい気持ちがあった。他の男性にそういう目で見られるのは嫌でも、彼氏にそういう目で見られるのは良いという女性心理である。


 皆は元から灰川に異性として好意があったし、前の灰川はそういう目で皆を見てないか見ないようにしていたのは分かっていたため、心持ちの変化を灰川が迎えたのは喜んでいる。


「あははっ、私は灰川さんがちょっと手が滑ったー!なんて言ってくるかって思ったけどねー?」


「それはイカンだろが!」


「むふふ~、私は灰川さんの手が滑っちゃったら~、ちゃんと受け止めてあげたいな~」


「え、えっとっ…! 自分はぁ…そのぉ…、…ぅぅ…なんか心臓がバクバクいってるっす…」


 そんなこんなで3人との初デートが終わり、灰川としては楽しかったやら動悸がするやらの1日となったのであった。


 市乃や桜たちはその日の夜は猫たちとたっぷり触れ合い、皆で女子トークをしたりしながら楽しく過ごした。

 378話で佐嶋が有り得ない事を言っていましたが修正しました。

 元の予定では衛花はRIKAMの紹介でユニティブ興行に所属という形にしようと思っていたため、その名残で変な内容になってしまっていました。

 現在は修正済みなので、衛花は佐嶋の紹介という形に収まっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ