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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
六章

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43.

ディラン視点の後編です。

 ――数十分後。


「ご無沙汰しております、ランチェスター公爵閣下」


 ディランの前にはブランドナー侯爵家の次男、シリル・ブランドナーがいた。


 ちょうど王宮内で仕事中だったところを、急に王妃の間に呼び出されたシリルに対し、ディランは謝罪する。


「約束もなく申し訳ない。なにぶん、緊急事態なもので」

「存じております。母や兄もひどく心配しています。それに、監査で王宮へ来ているところでしたから。全然問題ありませんよ」


 冷静かつ慇懃に応じるシリルは、アカデミーを出てすぐに王宮で補佐官を務めた後、今はアカデミーの上位機関にあたる国家会計局に勤めている。


 エイヴリルの実家アリンガム伯爵家の没落時にも一役買ってくれた有能な人物だ。彼を前にディランは早速切り出す。


「端的に言う。シュクレール商会の金の流れについて洗ってほしい」

「……我が国でも有数の大商会ですね」


 興味深そうにして眼鏡をかけ直したシリルに、ディランは頷いた。


「だが、グレーな噂の多い商会だ。恐らく裏社会との取引があるだろう。加えて、もし十一区にある娼館『ベル・アムール』との間に不正な金の流れがあれば、すぐに教えてもらいたい」


「なるほど。ランチェスター公爵夫人の誘拐事件にシュクレール商会が大きく関わっていて、不正を口実としてシュクレール商会の主を逮捕すれば、ご夫人の身の安全が確保されると?」

「そういうことだ」


 十一区に法律などあってないようなもの、と言われるのは、裏で牛耳っている組織があまりにも暗く巨大すぎるからだ。法律を過信して中途半端な手出しをすれば、手痛いしっぺ返しを食らうことは想像に難くない。


 ディランが今回の件で動きづらいのもそのせいだ。何より、エイヴリルは正当な手段で買われてしまっている。


 この国で人身売買は禁止されているが、特殊な形態で成り立つ十一区だけは別だ。となれば、直接ベル・アムールとは関係ない部分をついてエイヴリルを救出するのが最短ルートになる。


(エイヴリルは十一区自体を変えることを目標にしているようだが、それは後からでもできる。今は何よりも、彼女を取り戻すことが最優先だ)


 一晩考えた結果、ディランは不正な金の流れを理由にシュクレール商会を囮にし、その取引先であるベル・アムールを営業停止に追い込むことを思いついたのだった。


(あの店が捜査の対象になれば、自ずとエイヴリルが買われた経緯まで調査が進むはずだからな)


 キトリー・ボードレールの関与について、エイヴリルの証言のほかに全く関係ないところから疑惑が浮上すれば、ボードレール侯爵家もさすがにしらを切るわけにはいかなくなるだろう。


「国では、十一区に対して人身売買を認めている以上、金の流れを詳細に管理する権利がある。誘拐事件として捜査し、いつまでも解決しないのをイライラしながら見ているよりは、多少の巻き添えを食ってでも脆い場所を突くべきだ」


 ディランの言葉に、シリルは意外そうな表情をした。それからニヒルな笑みを浮かべる。


「いつも冷静なお方が手段を選ばなくなることの恐ろしさを、彼らは知ることになりそうですね。とにかく、承知いたしました。私が所属する国家会計局なら、シュクレール商会の会計資料は容易に探れるでしょう。王妃陛下からのご命令でもありますし、今すぐに着手します」


「頼む」

「承知しました」


 シリルがもう一度慇懃に頭を下げ、会話はそこで終わったはずだったのだが、一連の話を静かに聞いていたアレクサンドラが立ち上がる。


「シュクレール商会。それなら、うちからも手を回して打撃を与えることはできそうね」


 あまりにも低く、怒りを帯びた声音に、ディランとシリルは顔を見合わせる。


「……王妃陛下? 別に、ご実家のリンドバーグ伯爵家が経営する大商会を動かしていただく必要はありません。妻を救出するため、シュクレール商会を通じて娼館『ベル・アムール』に揺さぶりをかけることが目的ですから。シュクレール商会自体には大打撃を与える必要はない」


 不穏な雰囲気に焦ったディランが進言したものの、エイヴリルを心配するアレクサンドラは全く抑えが利かない様子だった。


「先ほどお伝えしましたでしょう? エイヴリル様のためになるのなら、どんなことでも力を貸させていただきますわ。言っておきますが、これはランチェスター公爵のためではなく、エイヴリル様のためです。止めても無駄ですわ?」


 言葉選び自体は上品で理性的だが、背後には噴火寸前の火山が見えるようだ。


 ブランヴィル王国の王妃であり、豪商の娘であり、随一の才媛である彼女が、敵方ではなく味方であることのありがたさをディランは思い知った。


「……お力添え、感謝申し上げます」


(ここまでの協力が得られることを予想していなかったな)


 感謝しつつ、ディランはエイヴリルが築いたアレクサンドラとの絆に驚くばかりだ。


 一方、アレクサンドラの友人としてここに呼ばれたシリルは、さっきのニヒルな笑みとは違う類の苦笑を浮かべているのだった。


「お若い頃、とはいっても数年前ですが……その面影が出てきてしまいましたね。意外と情に厚いお方です」


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