燃え尽きた心
そんな日々の中で、エマにはどうしても気になる存在がいた。
子供たちが集まる部屋の片隅、あるいは薬草園の木陰。
いつも一人でぽつんと座り、何も映していないかのような、酷く虚ろな目で宙を見つめている一人の少年がいた。
他の子供たちが楽しそうに笑い声を上げていても、彼だけは決して感情を動かさない。
周囲の賑やかさから完全に切り離されたその姿は、まるでそこだけ時間が止まっているかのようだった。
ある日の作業の合間、エマは冷たい井戸水で手を洗いながら、ラファエルにそっと尋ねた。
「あの……あそこにいる男の子ですが、いつも一人でいるのですね。彼はどうしたのですか?」
神父はエマの視線の先を見つめ、ふと哀切の色をにじませた。
「ああ、レオンのことですね……。彼は今から五年前……彼が三歳の頃のことですが、不慮の事故で両親を同時に亡くしましてね。不運なことに、彼はその凄惨な現場を見てしまったようなのです。その時の精神的なショックで、その日以来ずっと心を閉ざしたままで……」
神父の悲痛な告白に、エマは胸を締め付けられるような感覚を覚えた。
(凄惨な現場……。突然の、理不尽な死)
それは、前世の同窓会で急に呼吸ができなくなり、孤独とパニックの中で命を落とした自身の「あの瞬間」の恐怖と、どこか重なるものがあった。
世界から突如として突き放され、誰も信じられなくなる絶望。
彼が抱える孤独が、とても他人事とは思えなかった。
それから数日、エマは遠巻きにレオンの様子を観察し続けた。
彼は差し出された食事こそ口にするものの、やはり感情の起伏が全くない。
(無理に話しかけても、きっと意味はない……)
ある日の事。エマは黙って立ち上がると、ゆっくりと警戒されないように少年のもとへと近づいた。
レオンの前にしゃがみ込み、視線の高さを合わせる。
レオンは、目の前にエマの影が落ちても、やはり虚ろな目を向けたまま微動だにしない。長い睫毛の奥にある瞳は、まるで深い湖の底のように暗く沈んでいた。
エマは何も言わず、ただそっと彼の小さな手に自分の手を重ねて寄り添った。
言葉による慰めなど、今の彼には届かないと分かっていたからだ。
体温を伝えるようにじっと重ねられたエマの手を、レオンは拒むこともせず、ただ受け入れていた。
そして、エマはポケットの中から、持参していた小さな包みを取り出した。エマが実家から持ち出していた、黄金色にきらめく一粒の蜂蜜飴だ。
「これ、すごく美味しいの。食べてみない?」
エマは優しく微笑み、少年の手のひらにそっと飴を載せた。
少年は、自分の掌にある見慣れない飴を、不思議そうにじっと見つめた。
綺麗なガラス細工のようなそれをどう扱っていいか分からない、といった様子だった。
エマは自身も一つ手に取り、包み紙を剥がすと、飴玉を口に放り込んだ。
レオンはその様子を見て、しばらく自分の手にある飴の包みを眺め、それからそっと包み紙を開くと、それを口へと運んだ。
カロ、と少年は飴玉を口の中で転がした。
少年はしばらくぼんやりと包み紙を眺めていたが、徐々に少年の虚ろだった瞳に、じわりと鮮やかな光彩が蘇った。
口いっぱいに広がる濃厚な甘みが、凍りついていた彼の心をかすかに溶かしたのだろうか。
そしてハッと息を呑むと、強い意志を宿した瞳で、じっと、エマの目を真っ直ぐに見つめ返すのだった。




