騙し合い
カルトの手法は、いつの時代も、どの世界でも驚くほど酷似している。
前世の私が図書館で読み漁った書籍には、そのおぞましい方程式が明確に記されていた。
彼らはまず、人生の転機や挫折、孤独といった人間の「心の隙間」に巧妙につけ入る。時には偶然を装って、出会いを演出することさえあるという。そして「あなたは優しい人」「あなたの力になりたい」と過剰なまでの優しさで包み込み、褒めちぎり、肯定し続ける。そうしてこの場所こそが真の居場所だと思わせるのだ。
さらに、慈善活動や運営の手伝いをはじめとする『共同作業』を頻繁に行わせることで、仲間同士の強固な結束や、共に尊い目的へ向かっているという一体感を演出する。
そうして十分に手懐けたところで、お前は特別な『選ばれし人間』だと言葉巧みに全能感を植え付け、仲間以外の人間を『正しくないもの、邪魔をしてくるもの』として認識させ、世間から孤立させていく。
結果、家族や友人が諭せば諭すほど、彼らは敵対心や猜疑心にまみれていくのだ。
物理的・精神的に引き離し、最終的には完全にコミュニティの中に閉じ込める。
そうして泥沼にはまらせたところで多額の財産や時間を投資させ、「これだけ尽くしたのだから、今さら引き返せない」という心理へ追い込み、抜け出せなくする。
この世界のあの『聖アリア教』が、本当にカルトに当てはまるかどうかはわからない。だが私の本能が怪しいと叫び続けている。
◆
決意の数日後、私は記憶の糸口となったあのポスターを頼りに、街外れにあるアストリッド教会へと足を運んでいた。
一歩足を踏み入れた礼拝堂。窓を彩る見事なステンドグラスには、神の奇跡を謳う荒唐無稽な物語が美しく描かれている。
高く設計された天井、厳かな雰囲気――これらすべては、人間の五感を圧倒し、思考力を麻痺させるために計算し尽くされた舞台装置だろう。
「おや、こんな町外れの教会に麗しいご令嬢がいらっしゃるなんて珍しい。この国の始まりの物語に、ご興味がおありですか?」
現れたのは、いかにも人好きのする、柔和でお人好しな雰囲気の、やけに美麗な神父だった。
その優しげなヘーゼルの瞳には、一切の薄暗さも感じさせない。
私は、泣きだす前の迷子の子供のような表情を作り、気丈に振る舞う令嬢というイメージを思い描いた。
「学園でこちらの奉仕活動のポスターを拝見したんです。私に、薬草園の手伝いや、子供たちへの指導をさせていただけないでしょうか」
その言葉に、「良い鴨が自らやってきた」と内側で歓喜しているであろう神父を、私は内心冷ややかに眺めていた。
神父は奥の小さな部屋に私を案内すると、わざとらしく質素な素焼きの器に注がれたハーブティを差し出してきた。
あえて傷のついた器を使って清貧をアピールするのも、人手不足で困っていると言って馬鹿正直なように見せるのも、自分の弱みを先に開示し隙があるように見せ、相手に弱みを吐き出しやすくさせるための演出に過ぎない。
私は器を両手で受け取り、怯える令嬢のように俯いたまま、そっとその湯気の匂いを嗅いだ。
――蜂蜜の甘い香りの奥に、ツンと鼻腔をくすぐる、わずかな青臭さ。そして、脳の奥を微かにクラリと痺れさせる、嫌に爽やかな香り。
……間違いない。きっとこれは精神作用を引き起こすハーブの類だろう。これを日常的に飲ませて理性を奪い、現実世界の認知を少しずつ歪ませていく気なのだ。
絶対に一滴も口にしないよう細心の注意を払いながら、私は悲しみを抱えた令嬢の芝居を続けた。
神父は私の様子を観察しながら、慈愛に満ちた笑みを浮かべ、決定的な一言を口にする。
「僕で良ければ、お話を聞きますよ。救世主様のように世界を救うことはできませんが、共に神に祈ることはできましょう。――あなたの悲しみの半分を、僕に分けてください」
白々しい。どこまでも白々しく、虫唾が走るセリフだった。
前世の私の人生をめちゃくちゃにして、今世の私の大切な家族をも地獄へ引きずり込もうとしている元凶どもが、どの口で「神」を、どの口で「救い」を語るのか。
「っ……!」
その瞬間、胸の奥からせり上がってきた激しい憎悪が溢れそうになった。私の青い目から、神父を今すぐ八つ裂きにせんばかりの剥き出しの殺意が伝わってしまわないよう、私は咄嗟に顔を両手で覆い隠した。
都合よく、神父はその様子を「優しさに触れて感極まった、悲しみによる涙」と受け取ったようだった。
蜘蛛の巣にかかった哀れな獲物を愛でるような、気味の悪い笑顔を顔に貼り付けて私を見つめている。
顔を覆う手の隙間から、私は教会の冷たい床をじっと睨み据えていた。
早く、私をその巣穴の奥まで引きずり込むがいい。
教団を潰すには、末端の駒をいくら叩いたところで意味がない。
私はこの教会のさらに奥、最高司祭、そしてその上に君臨するモンテーニュ公爵夫人を引きずり出すための「完璧な信者」に、何を投げ売ってでもなってやる。
青い炎が、私の胸の中でどこまでも静かに、激しく燃え盛っていた。




