表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/35

信者の正義

 帰り道、茜色に染まる街道を、エマは心地よい余韻に浸りながら歩いていた。


 先ほどまで頭を包んでいたクラクラとするような白い霧は、いつの間にか綺麗に消え去っている。代わりに残ったのは、これまでにないほど巨大な使命感だった。


(私が、聖女……ええ、もっともっと、頑張らなくては!前世の私とは違うわ!)


 胸の奥が、熱い達成感でじわじわと満たされていく。もう、誰の言葉に惑わされることもない。





「――おい。おい、そこの女」


 物陰から、ぬっと一人の怪しげな男が姿を現した。深くフードを被り、鋭い眼光を放つその男は、エマの前に立ち塞がると、低く気怠げな声で声をかけてきた。


「お前がエマ伯爵令嬢か。……チッ、あの噂話は本当だったというわけか」


 男は教会の建物を忌々しげに睨みつけると、エマに一歩詰め寄り、脅すような低い声で囁いた。


「おい、忠告だ。こんなろくでもないところからは一刻も早く足を洗え。お前、洗脳されてるんだよ。そこの奴らは、お前が思っているような聖人でもなんでもない、ただの詐欺師だ。さっさと逃げないと、取り返しのつかないことになるぞ」



 前世の記憶を取り戻す前のエマであれば、その不穏な警告に我に返ったかもしれない。


 だが、エマは笑顔を消し、冷徹な令嬢の顔に戻ると、不遜な男をまっすぐに見据えて冷ややかに言い放った。


「……私の事も、教会の事も、何一つよく知らないくせに。名乗りもせず、随分と不躾な方ですのね。あいにく、面白可笑しく記事にできるような事柄などございませんので。お引き取りください」


「は?おいっ……」


 男は焦ったように、エマの華奢な手首を掴もうと、節くれだった手を伸ばしてきた。



「話を聞けって――」


「無礼者。触らないで」


 エマの声音は、夜の底のように冷たく、そして鋭かった。男の手を払い拒絶すると、毅然とした態度で言葉を重ねた。



「身元の不確かな方からの、根拠のない中傷に耳を傾けるつもりはありません。ご心配いただいたようですが、他人からの口出しは無用です。失礼します」


 男の言葉を完全に突き放し、エマはドレスの裾を翻した。そして、フンと鼻で笑うようにして、その場を悠然と歩き去る。


「おい! 待てって! 痛い目を見てからじゃ遅いんだぞ……!」



 背後で男が苦々しく舌打ちし、呼び止める声を完全に無視しながら、エマは一度も振り返ることなく歩みを進めた。




(私の邪魔をする奴は、誰であれ許さないわ)


 夕闇が迫る街のなか、エマの瞳には、どこか底冷えのする冷たい光が宿っていた。



 私が、皆を守ってみせる――。

 

 エマの胸は、心地よい歩調と共に、どこまでも歪んだ使命感で満たされていくのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ