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19.勇者とクードヴァン

 夕暮れ時、フェリシアン隊は冒険者ギルドへと帰還した。

 その手には57株の薬草と、リットーゲイルのたてがみの毛がある。


 それらを受付嬢のゾーイに手渡すと、まず彼女は右手の親指と人差し指で丸を作ってから、鑑定を始めた。

「……いかがでしょうか、依頼人様?」

「…………」

 彼女は依頼人とテレパシーで会話を進めると、やがてこちらを見た。

「依頼人様からパーフェクトと、お褒めの言葉をいただきました。鑑定を進めさせていただきます」


 ゾーイは隣にいた、別の受付嬢に薬草鑑定を依頼すると、同時に持ち帰ったリットーゲイルのたてがみの毛を眺めた。

「さて、問題はこちらですね。あいにくですが私には、ウマの毛なのかユニコーンの毛なのか……区別できません」

 さすがのベテラン受付嬢のゾーイでも、たてがみの毛だけでウマなのかユニコーンなのかを区別することは難しいようだ。


「こちらは、依頼人様に判断して頂くしかありませんね……しばらくお時間がかかりますがよろしいでしょうか?」

 フェリシアンは横目でクードヴァンを見てきた。クーは目だけで構わないと思う。と返事をすると、フェリシアンはすぐに答えた。

「わかりました。では……今日はこれで……」


 そう言いながらフェリシアン一行が立ち去ろうとしたとき、クードヴァンは目を丸々と開いていた。

「……!!」

 なんと入り口には、かつてクードヴァンの本体でありリットーゲイルを追放した張本人。勇者の姿があったのである。

 フェリシアン一行が慌てて道を開けると、勇者はフェリシアンたちなど見えてはいないかのような表情のまま、冒険者ギルドへと入って行き、受付嬢のゾーイに詰め寄った。


「おい、女……」

「勇者様ですね。何か御用でしょうか?」

 彼女は凛とした様子で勇者を見ていたが、よく指先に注目すると震えていた。

 様々な冒険者を見ている彼女でさえも、勇者は異質な存在のようだ。

「お前は前に……ゴリモーリの連中にさらわれたそうだな」

「個人的な話にお応えすることはできません」

 きっぱりとゾーイは断ったが、勇者は目をぎらつかせながら身を乗り出した。

「うるせえ、答えろ!」


「やめないか! 嫌がっているだろう!!」

 そう言いながらフェリシアンが詰め寄ると、勇者は「あ?」と言いながらフェリシアンを舐めるように睨んできた。

「なんだBランクのゴミ……テメエに用はねーんだよぉ!」


 勇者の眼力は相当なもので、冒険者ギルドの休憩室にいた多くの冒険者たちは下を向いていた。

 フェリシアンと仲の良い友人冒険者たちも、気まずそうにフェリシアンを眺めていたが、当の本人は一歩も引くつもりはないようだ。

「確かに僕は貴方よりも弱い冒険者だ。だけど、女性に対しての礼儀くらいは弁えている」

「はぁ? そんなのが戦いの何の役に立つってんだクズ! 身の程を弁えろ格下ぁ!」


 ギルドメンバーの何人かは、勇者ではなくクードヴァンの方をチラチラと見始めていた。恐らく、過去にギルドメンバーのヤ・ラーレがねじ伏せられたことを思い出したのだろう。

 勇者がフェリシアンを突き飛ばし、更に危害を加えようとしたとき、勇者は驚いた表情をしていた。


「いい加減にして頂けませんかね……? これ以上は、僕が許しませんよ」

 勇者は、いつの間にか背後を取っていたクードヴァンの存在に気が付いたらしく、こめかみのあたりに青筋を走らせた。

「て、てめぇ!」


 バシバシババババババババ、バンババババババ、ヒュン!



 勇者とクードヴァンは、わずかな間に無数の拳や魔法を撃ち交わし、電光石火のように火花を散らしたが、この勝負はクードヴァンの方に分があったようだ。

 勇者は仰向けのまま尻もちをついており、クードヴァンは、指先2本を勇者の眉間に近づけたまま言った。

「ご退場ねがいます……勇者殿」

「お前……名前は?」

「クードヴァン。僕はフェリシアン隊で最弱」

「けっ……せいぜいクビを洗って待ってろ、クー坊!」

 勇者は舌打ちすると、手でクードヴァンの手を払い除けてから入り口まで歩いた。

「テメーもだハーレムヤロー! どっちも俺様がぶっ潰す!!」


 そう言い放つと、勇者は自分の首に親指を向けてから爪先で切る動作をして去って行った。

 受付嬢のゾーイは、へなへなと床に崩れ落ち、慌てて近くにいた受付嬢たちが介抱している。

「大丈夫ですか、ゾーイ先輩!?」

「え、ええ……」



 そしてフェリシアンもまた、絞り出すような声でクードヴァンに言った。

「師匠……僕では、とうてい……歯が立たない。次元の違う相手でした……」

 彼は震える手を握りながら、悔しそうに唸った。

「どうすれば、どうすれば……僕のようなものが……もっと強くなれるのでしょうか?」


 クードヴァンは、険しい顔をしたまま答えた。

「僕だって運よく、今の姿になれただけさ……それ以前は、毎日のように重い荷物を背負って、精一杯に毎日を生きて……悩んで苦しんで、それでもわからなくて……」

 彼の瞳がフェリシアンを映した。

「そんな中で、ある日……気が付いたら、今のようになっていた。だから……」


 フェリシアンがじっとクードヴァンを見ていると、クードヴァンは言った。

「一緒に悩もう。僕にしてあげられることは……それしかない」


 フェリシアンが深刻そうに入口を睨んだまま「そうですか……」と、残念そうに答えたとき、クードヴァンは俯きながらゲス顔をしていた。

「多分だけど、これで正体もバレただろうな……人間は相変わらず嫌いだけど、手は打っておこう」

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