DAY5 おかえり、ベコ。文化祭には裏がある
午前八時五十六分。
国立天晴大学旧校舎の裏手に、妙な看板が立っていた。
『農業・畜産研究会 教育用試験区画/関係者以外立入禁止』
看板の下には、さらに小さな文字。
『動物の見学は担当者の指示に従ってください。勝手に餌を与えないこと』
「……昨日まで、後半の文章なかったよね?」
神谷莉央は、ギターケースを抱えたまま首を傾げた。
「昨日の夕方、追加されたよ」
隣で夜乃さとみ(よの さとみ)が答える。
「どうして?」
「牛男くんが、大学の管理担当の先生に三回お願いに行ったから」
「三回!?」
「一回目は牛の写真を持って。二回目は飼育計画書を持って。三回目は千堂くんを連れて」
莉央は空を仰いだ。
「最後の一回が一番効いてそう……」
実際、そのとおりだった。
畑の隣には、千堂俊雄が突貫で整えた仮設の動物区画があった。囲いの角は丸く処理され、通路と排水の位置も分かる。飼育設備というより、短時間の教育展示に使う見学区画だ。
ただし、許可されたのは大学側が確認した日時の、担当者立ち会いによる短時間の見学だけ。常時飼育ではない。夜は大学に動物を残せない。
「その条件でいいなら、連れてきていいってこと?」
「そういうことらしいよ」
さとみが言い終えた瞬間、遠くから聞き慣れた声がした。
「べこぉぉぉぉ! おかえりだべぇぇぇ!」
莉央が振り返る。
熊田牛男が、大学の許可を受けた農場スタッフの誘導に付き添いながら、牛を迎えていた。
牛はゆっくりと歩いてくる。
「モォ」
「会いたかったべぇ! オラ、毎晩おめぇの写真見てたべ!」
「モォ」
「寂しかったべなぁ!」
「モォ」
「……会話、成立してる?」
莉央の問いに、さとみは微笑んだ。
「たぶん、牛男くんの中では」
牛男は牛の首元を優しく撫でた。
「今度はちゃんと許可も取ったべ。千堂が作ってくれた立派な区画だべ」
「立派って言っても仮設だ。今日の見学が終わったら帰すぞ」
千堂が工具を片づけながら釘を刺す。
「分かってるべ!」
牛男は胸を張った。
「だから今日は、特別な友達も連れてきたべ!」
「……友達?」
区画の外に停まった運搬車の扉が開いた。
農場スタッフに連れられ、黒い小柄な豚が一頭、姿を見せる。
「ブヒ」
莉央は固まった。
「…………豚?」
「沖縄のアグー豚だべ!」
「何で!?」
「べこだけじゃ寂しいべ!」
「友達の種類、急に変わったよ!?」
豚は何食わぬ顔で鼻を鳴らした。
「ブヒ」
さとみがぽつりと言った。
「……かわいい」
牛男は、勝ち誇ったように頷いた。
「そうだべ!」
「いや、かわいいけど! だからって!」
「心配いらねぇべ。豚も見学許可を取ったべ。農場の人がついてるべ!」
莉央は目を丸くした。
「……ちゃんと取ったの?」
「取ったべ!」
「牛男が?」
「……千堂が」
「だよね!」
千堂は疲れた顔で空を見上げた。
「俺は図面を描いただけだ。許可を出したのは大学。管理するのは農場の担当者。そこは間違えるなよ」
莉央は、牛と豚を交互に見た。
初日の騒動から、まだ五日しか経っていない。
なのに旧校舎の裏には畑ができ、動物区画ができ、とうとう牛が帰ってきた。
「……この大学、変なところだけ仕事が早い」
そのとき、旧校舎の窓から、筋力トレーニング研究会のまっすること田中真摺の雄叫びが響いた。
「ぐおぉぉ! タンパク質の気配がするぅぅ!」
「まっする先輩は来なくていいからぁぁ!」
* * *
午前九時二十分 メイドと執事には理由がある
旧校舎一階の共用部室では、文化祭の出し物を巡る緊急会議が始まっていた。
机の中央には、前日に決めた十サークルの企画一覧。
皆から三重様と呼ばれる学生自治会副会長、三重晴美が鉄扇で紙を指した。
「まず、会場の調整について二件、変更をお願いしたいのですわ」
「変更?」
莉央が顔を上げる。
「テニスサークルのミニテニス体験は、体育系の体験企画と場所が重なりましたの。旧校舎組が使える屋内の区画では、ラケットを振るのも危険ですわ」
「えー。じゃあ、うちは何すんの?」
チャラ男こと藤澤千荒が椅子にもたれた。
「それと、軽音楽部のライブ。演奏時間は確保できても、単独のステージ枠は足りません」
「そんな!」
莉央は立ち上がった。
「新曲、練習してるのに!」
「演奏をやめろとは言っていませんわ。飲食企画の共用スペースなら、小規模なアコースティックライブが可能です。ただし音量と時間、食品の取り扱いは別途確認が必要ですわ」
さとみが小さく手を挙げた。
「……だったら、喫茶店と一緒にする?」
「喫茶店?」
「お客さんに座ってもらって、歌を聴いてもらうの。飲み物は許可の取れた提供方法にして」
莉央の表情が明るくなる。
「それ、いいかも! ライブ喫茶!」
その瞬間。
「デュフフ……」
部屋の隅から、嫌な笑い声がした。
アニメーション研究会のラブこと込家羅武が、眼鏡を押し上げていた。
「喫茶店といえば、衣装が必要でござるなぁ」
「……ラブ先輩」
莉央の目が細くなる。
「また変なこと考えてるでしょ」
「滅相もない! 前回の反省を生かし、今回は企画者の同意を第一に――」
「第一に?」
「第二に撮影映えを――」
「第一だけでいい!」
映像制作研究会のアキこと白澤秋がカメラを構えた。
「でも、衣装が揃うと画面に統一感が出る。旧校舎の文化祭記録としてもいい素材だ」
「アキ先輩も、また組んでる!?」
「今日は本当に撮影許可を取る。昨日は怒られたから」
「当たり前だよ!」
さとみは、二人を見て考え込んだ。
「メイド喫茶……とか?」
莉央が振り向く。
「えっ」
「お客さんが来てくれそうだし、ライブも付けられるし。衣装は嫌なら別の制服にしてもいいよ」
莉央は腕を組んだ。
少し悩んでから、ぽつりと言った。
「……ステージがなくなるよりは、ずっといい」
「じゃあ?」
「やる。軽音楽部はメイド喫茶、ライブ付き! ただし衣装はぼくたちが選ぶ。ラブ先輩は勝手に触らない!」
「デュフ……承知でござる」
「今、舌打ちした?」
「してないでござる!」
チャラ男が勢いよく立ち上がった。
「待って。じゃあ俺たち、執事喫茶やるわ」
「なんでそうなるの!?」
「メイド喫茶の隣に執事喫茶があったら、絶対盛り上がるじゃん。テニス体験できないなら接客で勝負する!」
三重様が鉄扇を口元に当てた。
「……屋内企画なら、会場の条件には合いますわね。飲食の手続きは同じく必要ですけれど」
「よっしゃ!」
チャラ男は襟を正し、芝居がかった一礼をした。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
莉央は即答した。
「軽い!」
「えっ、今の結構よくない?」
「チャラい執事って何!?」
「お嬢様、ラケットをお持ちいたしましょうか?」
「ラケットしまって!」
さとみがくすくす笑う。
結局、前日の一覧には赤字で二つの変更が書き込まれた。
軽音楽部:メイド喫茶(ミニライブ付き)
テニスサークル:執事喫茶
下には三重様の筆跡で、さらに一行。
※いずれも食品衛生・会場・音量の承認を条件とする。
「三重様、字まで厳しいね」
「ルールは字の美しさと無関係ですわ!」
* * *
午前十時四十五分 科学研究会、汚名返上
「でゅふふ……ついに拙者の出番なのである」
科学研究会のハジメこと理科野発は、作業台の上に小さな白い箱を置いた。
箱の上には丸いランプ。横には液晶画面。
「本日の発明品、その名も『文化祭よろず案内機・一号』!」
莉央は三歩下がった。
「……爆発しない?」
「しないのである!」
「シャッターも同じこと言ってた」
「今日は千堂殿に電源を確認してもらったのである!」
千堂が頷く。
「低電圧で動く。外部の扉にはつながっていない。非常停止スイッチも付けた」
「……そこまで聞くと安心する」
「本来は初日からそうするべきだったのである」
「自分で言うな!」
ハジメは説明を始めた。
「文化祭は十サークルが同時に動く。しかも我々は午前九時から午後五時まで立てこもり中。受付、出し物、見学者の誘導、混雑、時間変更……人力だけでは破綻するのである」
「たしかに」
「そこで! 各部の予定と会場の空き状況を入力すると、案内を表示するのである。音声でも答える!」
さとみがボタンを押した。
『ご案内します。軽音楽部のライブは、午後一時からです』
「わあ。普通にしゃべった」
「普通に動く発明もできるのである!」
「その言い方、悲しくならない?」
ハジメは次のボタンを押した。
『テニスサークルは、執事喫茶へ変更されました』
「おおっ!」
チャラ男が感心する。
「じゃあ、俺の魅力も案内してよ」
ハジメがキーボードを叩いた。
『執事喫茶の責任者は、接客中の私語に注意してください』
「なんで俺だけ注意されるの!?」
莉央が笑った。
「ハジメ先輩、これ便利だよ! 各部の出し物を変えてもすぐ更新できる!」
ハジメは眼鏡の奥で目を輝かせた。
「……便利、であるか?」
「うん。すごく!」
それは、ハジメがこの数日で初めて聞いた、まっすぐな褒め言葉だった。
「でゅふふ……でゅふふふ……!」
「照れてる?」
「照れてなどいないのである!」
だが、案内機のランプは、なぜか赤く点滅し始めた。
『警告。警告。責任者の心拍数が上昇しています』
「なんで心拍数まで測ってるの!?」
「追加機能なのである!」
『原因候補:褒められ慣れていない』
「余計なことを言うなぁぁぁ!」
部室が笑いに包まれた。
ハジメは慌てて音声を止めた。
そのとき、液晶の隅に小さな表示が現れた。
『屋外センサー:見慣れない端末を検知』
ハジメは首を傾げた。
「……む?」
千堂が覗き込む。
「何だ、それ」
「校舎裏の環境観測用に置いたセンサーが、近くの無線信号を拾ったようなのである。機器の種類までは分からぬが……」
莉央が窓の外を見る。
畑の向こう、フェンスの陰。
見慣れない男が、スマートフォンをこちらに向けていた。
* * *
午前十一時三十分 見学者には見えない男
男は、灰色の作業着に帽子という格好だった。
大学の職員にも、学生にも見えない。
旧校舎の窓、畑、動物区画を順番に撮影し、時折誰かにメッセージを送っている。
「……文化祭の下見かな?」
莉央が言う。
「それなら受付に来るはずですわ」
三重様が鉄扇を閉じた。
「今は許可を取った動物の見学時間です。立ち入り範囲も決まっていますのよ」
ハジメは案内機の画面を指した。
「同じ場所に二十分以上いるのである。これは機械の記録だけでは断定できないが、気にはなるのである」
千堂は窓を開けずに、男の動きを見た。
「畑じゃなくて、建物の出入口を撮ってるな」
「じゃあ、大学の警備の人に連絡しよう」
莉央が言った。
その判断は、珍しく全員一致だった。
ほどなくして、大学の警備担当が男に声をかけた。
男は何かを言い訳し、足早に立ち去ろうとした。
だが、旧校舎の騒動を気にして巡回に来ていた警察官二人が、ちょうど通りかかった。
「すみません。少しお話を聞かせてください」
「いや、俺は別に……」
「大学の方から、不審な撮影があると相談を受けています」
男は周囲を見回した。
窓から莉央たちが覗いている。
牛も覗いている。
豚まで鼻を突き出している。
「ブヒ」
「……何だよ、この大学」
男は呟いた。
警察官は男の説明を聞き、大学側の担当者と確認を取ったうえで、さらに事情を聞くため同行を求めた。男は渋々ついていった。
「……連れてかれた」
莉央がぽつりと言う。
「怪しかったですもの」
三重様が答える。
アキはカメラを下ろした。
「撮影って、許可が大事なんだな」
「アキ先輩が一番言われる側でしょ!」
ハジメは案内機の記録を保存した。
「役に立ったのである……」
千堂が肩を叩く。
「よく気づいたな」
ハジメは小さく胸を張った。
「でゅふふ。科学は、世界を少しだけ便利にするのである」
「今日の先輩、ちょっと格好いい」
莉央が言った。
『警告。責任者の心拍数が――』
「黙るのである!」
* * *
午後零時十五分 和色建設の昼休み
大学から少し離れた駐車場。
男が置いていった社用車の助手席で、スマートフォンが震えていた。
画面には、何度も同じ名前が表示されている。
『和色建設 現場主任』
やがて電話は留守番電話に切り替わった。
『おい、何やってる。学生が何人いるか、搬入口はどこか、写真だけ撮って帰ってこいって言っただろ。余計な騒ぎは起こすなよ』
通話が切れた。
車内は静かだった。
ただ、助手席の足元には、折り畳まれた一枚の紙が落ちていた。
『天晴大学旧校舎再整備計画 現地確認メモ』
その右上には、株式会社和色建設の社名。
誰も、まだそれを知らない。
* * *
午後一時四十分 副学長の営業活動
「いやぁ、先生! 今回の新校舎構想は、ぜひ先生のお力をお借りしたく!」
「うおっまぶし!」の通称を持つ副学長、禿山光は、大学本館の応接室で深々と頭を下げた。
向かいに座るのは、施設運営に関わる教授の一人だった。
「学生の活動場所が減る件は、どう説明するんですか」
「もちろん代替案を検討中です! それに新施設には、先生の研究分野にも役立つ共同利用スペースを――」
「まだ図面も固まっていないでしょう」
「ですから、先生のお知恵を!」
副学長はにこにこ笑う。
教授は腕を組んだ。
「学長は何と?」
「学長先生も、大学の発展はお望みでしょう」
「それは承認したという意味ですか?」
「いえ、その、方向性としては……」
「副学長。学生への説明を先にしてください」
教授は立ち上がった。
「それと、施設の安全評価を正式な手順で。私は名前だけ貸すつもりはありません」
副学長の笑顔が固まった。
「……承知しました」
教授が去ると、副学長はハンカチで額を拭いた。
「まったく……どいつもこいつも」
スマートフォンが鳴った。
画面には、和色建設の担当者の名前。
「もしもし? ……何? 偵察に行かせた者が警察に?」
副学長は椅子から立ち上がった。
「馬鹿者! 何をやっている!」
しばらく相手の説明を聞いたあと、声を落とす。
「……余計なことは話させるな。いや、違う。正規の確認作業だったと説明すればいい。とにかく、こちらの名前を出す必要は――」
そこで扉がノックされた。
「副学長先生、次の面談の方がお見えです」
副学長は受話口を手で覆い、瞬時に笑顔を作った。
「はーい! ただいま!」
扉の向こうへ向けた声は、さっきまでとは別人のように明るかった。
* * *
午後三時十分 文化祭の出し物は誰のため
旧校舎では、文化祭準備が本格的に始まっていた。
軽音楽部の机には、メイド喫茶のメニュー案とライブの曲順。
テニスサークルの机には、執事喫茶の接客台本。
その隣では、まっするが腕を組んで悩んでいた。
「プロテイン試飲が難しいなら、我々は何を提供すれば……」
「体力測定でしょ」
莉央が答える。
「ぐおぉ! それではタンパク質が足りない!」
「文化祭の企画にタンパク質は要らない!」
窓の外で牛が鳴いた。
「モォ」
まっするが、ぴたりと動きを止めた。
「……ん?」
牛を見る。
さらに、その横のアグー豚を見る。
「……良質な……」
「まっする先輩?」
「……タンパク質……」
口元に、きらりと何かが光った。
牛男が窓の外から叫ぶ。
「べこを見る目がおかしいべぇぇぇ!」
「違う! 俺はただ、栄養学的に――!」
「豚も見るなぁぁ!」
莉央は両手で顔を覆った。
「もう、ほんとに……」
けれど、笑い声の絶えない部室を見渡して、少しだけ表情を緩めた。
昨日までは、文化祭に参加できるかさえ分からなかった。
今日は、出し物を変えてでも全員が参加しようとしている。
自分たちの居場所を守るために。
そして、ただ楽しいことをしたいから。
どちらも、きっと本当だった。
* * *
午後四時五十九分 また明日、の重み
「それじゃ、今日はここまで!」
莉央の声に、学生たちが一斉に帰り支度を始めた。
ハジメは案内機の電源を落とす。
チャラ男は執事の練習をしながら帰る。
ラブは衣装の寸法表を抱えて、アキと小声で打ち合わせている。
牛男は、農場スタッフが迎えに来た牛と豚を名残惜しそうに見送った。
「また来るべな……」
「モォ」
「ブヒ」
「明日も来るの?」
莉央が聞く。
「毎日は無理だべ。許可の出た日だけだべ」
「……ちゃんと分かってるんだね」
「べこを守るためだべ」
その声は、いつもの牛男より少しだけ静かだった。
莉央は頷いた。
「そっか」
午後五時。
定時制の立てこもり、五日目が終了した。
* * *
午後五時二十五分 誰が見ていたのか
旧校舎裏の畑で、ヘルシーこと優居減子と、稲森穂乃が、最後の水やりを終えていた。
「小松菜、そろそろ採れそうだね」
「うん。移植のとき傷まなくてよかった」
ほのは葉の一枚をそっと持ち上げた。
「……ここ、最初はただの草むらだったのに」
「ね」
二人はしばらく、風に揺れる畑を眺めていた。
そこへ雨宮すみれ(あまみや すみれ)が現れた。
「お疲れさま。今日は賑やかだったわね」
「すみれさん、牛と豚、見ました?」
「ええ。ずいぶん人気者だったわ」
すみれは笑った。
「それから、知らない人が校舎を撮っていたそうね」
「はい。警備の人が対応してくれました」
「そう。よかった」
すみれは、それ以上聞かなかった。
だが二人が帰ったあと、畑の外に立っていた御来光と呼ばれる学長、照日富士夫に声をかけた。
「先生。今日の件、大学の警備記録には残るそうです」
「ほっほほ……それは大事なことじゃ」
「学生たちには、まだ何も知らせない方が?」
学長は夕暮れの旧校舎を見上げた。
「憶測で若い者を怖がらせることはない。じゃが、確かなことが分かれば、隠してもいかんのぉ」
すみれは頷いた。
「では、確認できるところから」
「頼んだぞい」
学長は穏やかに笑った。
「ほっほほ……しかし、牛の次は豚とはのぉ」
「次は羊かもしれませんね」
「……それは少々、困るのぉ」
二人の笑い声が、誰もいなくなった畑に小さく響いた。
そのころ、本館の副学長室では、副学長が和色建設社長、和色貴史の名刺を見つめていた。
株式会社和色建設 代表取締役 和色貴史
「……学生どもめ」
副学長は名刺を机に伏せた。
「文化祭が終われば、流れは変わる」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。
旧校舎では、明日のためにハジメの案内機が静かに充電されていた。
画面の端に、小さな文字が残っている。
『本日の記録:保存済み』
その記録が、のちに何を意味するのか。
まだ、誰も知らなかった。
* * *
DAY5 おわり
次回 DAY6へ続く




