SS 第2話 久しいな
白竜の背中へ乗り、リアネは空を飛んでいた。
眼下には雪化粧した山々が広がっている。
冷たい風が吹き抜ける。
すると。
前を飛ぶ白竜が穏やかに声を掛けた。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「うん?」
「……その」
少し言い淀みながら続ける。
「エリアネ様……なのですよね?」
「えっ」
リアネの身体がぴくりと固まった。
「え、えっと……」
「それは、その……」
しばらく言葉に詰まる。
そして観念したように苦笑した。
「人間の世界って、色々しがらみがあるからさ」
「まあね」
白竜は優しく微笑む。
「やはり、そうでしたか」
リアネは首を傾げた。
「ところで」
「いつ気付いたの?」
「魔素火災の時です」
白竜は迷うことなく答えた。
「あの光を見れば、エリアネ様と面識のある方なら、皆様お気付きになられたと思います」
「そっかぁ……」
リアネは照れくさそうに頭をかく。
白竜は懐かしそうに目を細めた。
「もっとも」
「私が初めてエリアネ様へお会いした頃は、まだ幼竜でしたが」
リアネは思わず笑顔になる。
「大きくなったねー」
白竜も嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
その時。
冷たい風が一段と強く吹き抜ける。
「あっ、寒いですよね」
白竜は魔力を巡らせた。
「風よ」
「道を開きなさい」
柔らかな風の膜が二人を包み込む。
冷気は遮られ、まるで春のような暖かさになる。
「これで大丈夫です」
「アルカ=ヴェル竜皇国は極寒の地ですので」
「わぁ」
「便利!」
リアネは感心したように頷いた。
しばらく飛び続けると。
白銀の大地の先へ、巨大な城が姿を現す。
白竜皇国アルカ=ヴェル。
世界最古の竜王国。
白竜たちの故郷だった。
城門を抜け。
リアネは白竜皇城・謁見の間へ案内される。
そこには。
懐かしい人物が立っていた。
「久しいな」
白竜皇オルド。
その隣には、美しい白竜皇妃エイルが微笑んでいる。
「久しぶり」
リアネも自然と笑顔になる。
エイルは楽しそうに笑った。
「今日は、ゆっくり楽しんでいってくださいね」
「こんなにオルドがわくわくしているのを見るのは、本当に久しぶりなんですよ」
リアネは思わずオルドを見る。
「相変わらず綺麗な奥さんだね」
オルドは少しだけ視線を逸らした。
普段は無表情な彼が、ほんのわずかに照れている。
その様子を見たエイルはくすりと笑う。
「あら、あなた」
「たまにはあなたも褒めてくださっていいのですよ?」
オルドは小さく咳払いをした。
「……行くぞ」
リアネは思わず吹き出す。
「相変わらずだね」
オルドは何も言わず歩き始める。
二人は光に包まれた。
次の瞬間。
亜空間に存在する五大竜王会議場へ姿を現す。
「久しいな」
「久しぶり!」
黒竜王ゼノン。
紅竜王ヴォルカン。
碧竜王レヴィアス。
そして。
見慣れない若い竜王が立っていた。
リアネは辺りを見回す。
「あれ?」
「アルヴェインおじいちゃんは?」
静かな空気が流れる。
オルドが穏やかに答えた。
「百五十年ほど前に旅立った」
「寿命だった」
「……そっか」
リアネは少しだけ目を伏せる。
「寂しいな」
その時。
若き竜王が一歩前へ進み、深く一礼した。
「初めまして」
「翠竜王エメリオ・シルヴァ=ヴェルです」
「父が、生前大変お世話になりました」
リアネは優しく微笑み返す。
「よろしくね!」
新たな翠竜王も、ほっとしたように笑顔を浮かべた。




