エピローグ どうしてくれるんですか?
エリアネ大祭から数日後。
ベル商会。
店番を終えたリアネは、机の上へ置かれた新聞を何気なく手に取った。
大きな見出しが目に飛び込んでくる。
『教会史上初 特別位「聖王大聖女」創設』
『大聖女ソフィア・アルテミス、初代聖王大聖女へ就任』
「おぉ」
思わず声が漏れる。
紙面には、魔導転写された一枚の写真。
純白の聖衣を纏ったソフィアが、教皇から叙任を受けていた。
記事にはこう記されている。
五年前の魔王因子事件。
そして今回のエリアネ大祭。
四種族融和への歴史的貢献。
その数々の功績を称え、教皇ならびに各国からの要望を受け、教会史上初となる特別位『聖王大聖女』が創設された、と。
さらに。
教皇の言葉も掲載されていた。
『大聖女ミュゲの再来』
『初代大聖女エリアネの再来』
リアネは感心したように頷く。
「へぇー」
「ソフィアさん、すごいなぁ」
記事を眺めながら笑う。
「なんか名前まで増えちゃったよ」
「聖王大聖女って、何する人なんだろ」
ふと、笑みが少しだけ柔らかくなる。
五年前も。
今回も。
本当なら、自分が受けるはずだった評価だった。
それを全部、ソフィアが笑って引き受けてくれた。
リアネは照れくさそうに頭をかき、小さく呟く。
「……なんか、ごめん」
きっとソフィアなら。
『気にしないでください』
そう笑ってくれるのだろう。
リアネも、つられるように微笑んだ。
そのまま新聞をめくる。
「…………」
リアネの手が止まった。
別の紙面。
そこにも魔導転写された写真が掲載されていた。
魔素火災。
王都全体を包み込んだ、あの優しい光。
そして。
その光の中心へ立つ、自分の後ろ姿。
「あっ」
「これ私じゃん」
リアネは思わず頭を抱えた。
「こんなの撮らないでくれよー!」
その時。
母が店の奥から顔を覗かせる。
「リアネ」
「お手紙が届いていますよ」
「私に?」
「ソフィア様からです」
「え?」
リアネは首を傾げながら封を開く。
中には、一枚の便箋。
書かれていた文章は、たった一行だった。
『どうしてくれるんですか?』
「…………」
リアネは静かに手紙を見つめる。
そして。
両手を合わせた。
「ごめん」
その姿を見た母は、不思議そうに首を傾げる。
窓の外では、今日も穏やかな風が街を吹き抜けていた。
友達を作る。
ただ、それだけのつもりだった。
けれど、その出会いは。
三千年前から続く優しい絆を、この時代へ繋いでいた。




