第75話 また来年
リアネは困ったような表情でソフィアを見つめた。
「そんなぁ……」
ソフィアはくすりと微笑む。
「もう約束しましたから」
リアネはがっくりと肩を落とした。
「うぅ……」
「来年は平和だといいなぁ……」
すると。
ソフィアはそっとリアネへ歩み寄る。
そして誰にも聞こえないよう、小さく耳打ちした。
「あなたの正体」
「皆さんへ話してしまってもいいんですよ?」
一瞬。
時間が止まった。
リアネの顔から、みるみる血の気が引いていく。
「えーーーーっ!?」
「そ、それだけは勘弁してください!」
ソフィアは思わず吹き出した。
「ふふっ」
リアネは慌てて両手を合わせる。
「お願いします!」
「来年も案内役やりますから!」
「だから、それだけは!」
ソフィアは楽しそうに笑う。
「そういえば」
「魔素火災を鎮火した光魔法も、私が使ったことになっていましたね」
リアネは勢いよく頷いた。
「そう!」
「そうなんです!」
「全部ソフィア様です!」
「私は何にもしてません!」
ソフィアは肩を震わせながら笑う。
「分かりました」
「分かりましたから」
その優しい返事に、リアネはようやく胸を撫で下ろした。
「よかったぁ……」
ソフィアは改めてリアネを見つめる。
目の前にいるのは、どこにでもいるような商人の娘。
けれど。
その正体は、三千年前に四種族を結び、世界へ平和をもたらした初代大聖女。
それでも本人は。
名誉よりも、お酒。
英雄よりも、友達。
そんな生き方を選んでいる。
ソフィアは、その在り方が少し羨ましかった。
「ふふっ」
リアネは頭を抱えながら叫ぶ。
「もうこりごりだよーーー!!」
二人の笑い声が。
祭典を終えた穏やかなリリア王国へ、いつまでも心地よく響き渡っていた。




