第68話 届かない光
魔素火災は、なおも勢いを増していた。
騎士たちは懸命に消火活動を続ける。
「急げ!」
「水を運べ!」
大量の水が炎へ浴びせられる。
しかし。
炎は消えない。
火を消したはずの場所からも、再び真紅の炎が噴き上がる。
周囲の魔素を燃料にしながら、炎は静かに燃え広がっていった。
「駄目です!」
「まったく止まりません!」
王都には混乱が広がる。
「子どもたちを避難させろ!」
「負傷者を教会へ!」
騎士団は住民を誘導し、教会関係者は怪我人の救護へ奔走する。
しかし。
炎は容赦なく街を飲み込んでいった。
ソフィアは一歩前へ出る。
「皆さん、下がってください」
両手を胸の前で組む。
眩い光が、その身から溢れ出した。
「浄化」
純白の光が炎を包み込む。
燃え続けていた魔素が次々と分解され、一角の炎が静かに消えていく。
「おおっ!」
「流石、大聖女様だ!」
「消えたぞ!」
王都に歓声が上がる。
誰もが希望を抱いた、その瞬間だった。
ゴォォォォッ!!
周囲の魔素が炎へ吸い寄せられ、消えたはずの場所から再び火柱が立ち上る。
「そんな……!」
ソフィアはさらに魔力を高める。
「浄化!」
純白の光が再び王都を照らす。
炎は一瞬だけ勢いを弱める。
しかし。
魔素は次々と炎へ流れ込み、その勢いは止まらない。
ソフィアは歯を食いしばった。
「でしたら……」
「光結界」
巨大な光の結界が展開される。
結界内の魔素は次々と浄化され、炎は徐々に鎮まり始めた。
「すごい……!」
「流石は大聖女様!」
人々の表情へ再び希望が宿る。
だが。
結界の外では、なおも炎が燃え広がっている。
王都全体を覆うには、あまりにも範囲が広すぎた。
ソフィアは必死に結界を維持する。
額から汗が流れ落ちる。
呼吸も乱れ始めていた。
やがて。
結界が小さく揺らぐ。
「……っ」
光は静かに消えていった。
ソフィアはその場へ膝をつく。
リアネが慌てて駆け寄った。
「ソフィアさん!」
ソフィアは悔しそうに炎を見つめる。
「駄目です……」
苦しそうに首を横へ振る。
「私では……」
「分解しきれません……」
その一言に。
王都から希望の色が消えた。
現代最高峰の光魔法使い。
大聖女ソフィアですら止められない。
その事実が、人々へ絶望を与えていく。
燃え広がる魔素火災は。
なおも静かに、王都を飲み込み続けていた。




