第66話 想定外
ソフィアたちは急いで火元へ向かった。
王都の裏路地。
燃え盛る炎を前に、騎士たちが必死に消火活動を続けている。
「水を運べ!」
「急げ!」
大量の水が炎へ浴びせられる。
しかし。
ジュウッという音すら立たない。
炎は消えるどころか、さらに勢いを増していく。
「なっ……!」
「どうして消えないんだ!」
騎士たちの間に動揺が広がる。
ソフィアは炎の中心へ歩み寄った。
その視線の先。
路地裏の物陰には、小型の魔導装置が設置されていた。
赤く輝く魔法石。
複雑に刻まれた魔法陣。
火属性の魔粒子を刺激する術式。
ソフィアは静かに頷く。
「なるほど……」
「火の魔粒子だけを刺激する魔導装置ですね」
騎士たちが息を呑む。
「魔導装置だと……?」
ソフィアは装置を見つめながら説明する。
「本来であれば、小規模な火災を発生させる程度の代物です」
「祭典終了後に火災を起こし」
「教会の管理責任を問う」
「そのような目的だったのでしょう」
その説明を聞いたリアネは、思わずエドモンドを振り返る。
「エドモンドさん!」
「それ、先に言ってよー!」
エドモンドは力なく俯く。
「……申し訳ありません」
「まさか、このようなことになるとは思っておりませんでした」
リアネは苦笑した。
「まあ……」
「ボタンが取れてることにも気付かなかったくらいだもんね……」
その場にいた者たちから、思わず苦笑が漏れる。
しかし。
次の瞬間。
ゴォォォォッ!!
炎が一気に吹き上がった。
路地を越え、隣の建物へ燃え移っていく。
ソフィアの表情が険しくなる。
「……おかしいですね」
「本来、この程度の魔導装置でここまで燃え広がることはありません」
騎士の一人が焦ったように叫ぶ。
「では、なぜ消えないのですか!」
ソフィアは燃え盛る炎を見つめながら静かに答えた。
「普通の火とは違います」
「この炎は、周囲の魔素を燃料として燃え広がっています」
その場にいた全員が息を呑む。
「魔素を……燃料に?」
ソフィアは頷いた。
「本来、そのような現象は起こりません」
「魔素は火・水・風・土の魔粒子が集まってできています」
「通常の火では、魔素が燃えることはないのです」
一拍置き、魔導装置へ視線を向ける。
「ですが、この魔導装置が火の魔粒子だけを異常に刺激しています」
「その影響で魔素が燃料へ変化しているのでしょう」
「だから炎は、消えるどころか周囲の魔素を取り込みながら燃え広がっているのです」
騎士たちは顔を見合わせた。
「そんな……」
「だから水でも消えないのか……」
エドモンドは燃え広がる炎を見つめたまま、その場へ膝をつく。
「エリアネ様……」
涙が頬を伝う。
「信じてください……」
「私は……」
「私は、こんなことをするつもりではなかったのです……」
その懺悔は、燃え盛る炎の音に静かに飲み込まれていった。




