第65話 異変
事件は解決した。
大会議室に張り詰めていた空気もようやく和らぎ、祭典関係者たちは安堵の表情を浮かべていた。
エドモンド・バルテール子爵は衛兵に護送され、王城を後にしようとしている。
その時だった。
――ドォォォォン!!
王都中へ地鳴りのような轟音が響き渡る。
直後。
カン、カン、カン、カン――!
火災を知らせる警鐘が鳴り響いた。
「火事だ!」
「王都で火災が発生しました!」
騎士の叫び声が廊下へ響く。
会議室は一気に騒然となった。
ソフィアは真っ先に立ち上がる。
「皆さん、外へ!」
リアネも頷く。
「はい!」
祭典関係者。
四種族の代表たち。
騎士団。
全員が王城の外へ駆け出した。
城門前へ出ると、そこには護送の途中だったエドモンドの姿もあった。
誰もが王都へ目を向ける。
裏路地のあちこちから、真紅の炎が噴き上がっていた。
しかし。
その炎を見たソフィアの表情が変わる。
「……違います」
「あれは普通の火災ではありません」
炎は周囲の魔素を巻き込みながら、まるで生き物のように勢いを増していく。
空気そのものが赤く染まり、濃密な魔力が王都中へ広がり始めていた。
ソフィアは息を呑む。
「魔素そのものが燃えています……」
「魔素火災です」
その言葉に、ラグナスが険しい表情を浮かべた。
「魔素火災……」
「そんな馬鹿な……」
エルヴィンも驚きを隠せない。
「王都で、そのような災害が起こるとは……」
ボルドも拳を握り締める。
「一体、何が起こっとるんじゃ……」
その時だった。
「ち……違う……」
震える声が響く。
護送されていたエドモンドだった。
街を覆う炎を見つめるその顔からは、みるみる血の気が失われていく。
「私は……」
「私は、こんなことをするつもりでは……」
ソフィアは鋭く振り返る。
「エドモンド子爵」
「何かご存じなのですか」
エドモンドは力なく首を振った。
目には涙が滲んでいる。
「エリアネ様……」
「信じてください……」
「私は……」
「私は、こんなことをするつもりでは、なかったのです……」
その震える声だけが、燃え広がる王都を前にした静寂の中へ、虚しく響き渡った。




