第64話 安らぎの光
事件は解決した。
祭典を揺るがした一連の騒動は終息し、エドモンド・バルテール子爵は衛兵によって連行されていく。
こうして三日間にわたるエリアネ大祭は、無事にすべての日程を終えた。
大会議室を後にしながら、ソフィアはふと足を止める。
少し離れた場所では、リアネが町の人々と楽しそうに話していた。
その姿を静かに見つめながら、ソフィアは心の中でそっと呟く。
(分かりました)
(初代大聖女エリアネ様)
(『安らぎの光』とは、魔法ではありません)
文献には残されていない。
だからこそ、誰にも分からなかった。
けれど。
リアネと過ごしたこの数日間で、ソフィアはその答えへ辿り着いていた。
(人を想い)
(人に寄り添い)
(人と人を繋ぐ)
(その優しさこそが)
(『安らぎの光』だったのですね)
三千年前。
初代大聖女エリアネが世界へ遺した奇跡。
それは光魔法ではなく。
誰かを思いやる心だった。
その優しさは人から人へ伝わり。
やがて種族を越え。
世界へ平穏をもたらした。
その頃。
「終わったーー!」
リアネが大きく伸びをする。
「打ち上げだー!」
「今日はいっぱい飲むぞー!」
満面の笑みで両手を上げる。
「懇親会の時は、急いでいて全然飲めなかったもん!」
そして、何かを思い出したように手を叩いた。
「あっ!」
「皆さん!」
三種族の代表たちが振り返る。
リアネは嬉しそうに笑った。
「懇親会の時は急いでいたので、お出しできませんでしたけど」
「うち、麦酒だけでもいっぱいありますよ!」
ボルドの目が輝く。
「ほう!」
「普通の麦酒もありますし」
「小麦で造った白い麦酒もあります!」
「それから!」
「麦芽を蒸留したお酒もあるんです!」
「三十年物の樽を一本、大事にしまってあるので、お祝いですし、白竜の皆さんも一緒に飲みましょう!」
ラグナスが思わず微笑む。
「三十年物ですか……」
「それはぜひ、ご相伴にあずかりたいものです」
リアネは満面の笑みで頷く。
「もちろんです!」
続いてエルヴィンへ向き直る。
「エルフの皆さんは果実酒の飲み比べしましょう!」
「葡萄酒に林檎酒、桃酒、それから木の実のお酒もありますよ!」
「きっと気に入っていただけます!」
エルヴィンも穏やかに笑った。
「楽しみにしております」
リアネは嬉しそうに拳を握る。
「決まり!」
「今日は宴会だー!」
「朝まで飲むぞー!」
その一言で。
町の人々も。
四種族の代表たちも。
教会関係者も。
皆が笑い始めた。
「はははっ!」
「よし!」
「今日は付き合うぞ!」
「最後まで楽しもう!」
笑い声が王城へ響く。
その輪の中心には、いつもリアネがいた。
人を笑顔にして。
人を繋ぎ。
気付けば、誰もが笑っている。
その光景を見つめながら、ソフィアは思わず吹き出した。
「ふふっ」
「本当に、不思議なお方ですね」
その笑顔を見ているだけで。
心が穏やかになり。
自然と人が集まり。
争いさえ忘れてしまう。
――きっと。
これこそが。
初代大聖女エリアネが三千年前に世界へ遺した、本当の『安らぎの光』なのだろう。
そして当の本人は。
「今日は飲むぞー!」
と、誰よりも嬉しそうに酒場へ向かって駆け出していた。




