第63話 仲直り
大会議室は静まり返っていた。
エドモンド・バルテール子爵の自白を受け、衛兵たちが静かに歩み寄る。
「エドモンド・バルテール子爵」
「祭典妨害ならびに関連する罪状により、身柄を拘束いたします」
衛兵が腕へ手を伸ばした、その時だった。
「待ってください!」
透き通るような声が、会議室へ響く。
全員が振り返る。
そこには、リアネが立っていた。
「リアネさん……?」
ソフィアも驚いたように目を見開く。
リアネはエドモンドの前まで歩み寄る。
そして、優しく微笑んだ。
「悪いことをしたら、責任は取ろう」
その言葉に、エドモンドは静かに俯く。
「はい……」
涙が床へ落ちる。
リアネは穏やかな声で続けた。
「でも」
「仲直りもしよう」
会議室の誰もが息を呑む。
リアネは一人ひとりを見渡した。
「憎しみは」
「新しい憎しみしか生みません」
静かな声だった。
けれど、その言葉は会議室の隅々まで真っ直ぐ届いていく。
「もちろん」
「今回のことは、とても悪いことです」
「だから、きちんと償ってください」
「罪から逃げちゃ駄目です」
エドモンドは涙を流しながら何度も頷く。
「……はい」
リアネは再び微笑んだ。
「そして」
「全部償い終えたら」
「また笑って会える日を待っています」
その優しい言葉に、エドモンドの瞳から涙が溢れ出す。
リアネは少しだけ照れくさそうに笑った。
「きっと」
「エリアネ様も、そう思われると思います」
その言葉を聞いた瞬間。
エドモンドは嗚咽を漏らした。
「エリアネ様……」
「申し訳……ございません……」
「私は……私は……」
言葉にならない。
ただ涙だけが止まらなかった。
その姿を見つめるソフィアの胸にも、熱いものが込み上げる。
(……これが)
(初代大聖女エリアネ様が遺された融和)
(人を裁くだけでは終わらせない)
(憎しみの連鎖を断ち切り、人と人を再び結び直す)
それこそが、三千年前に世界を変えた奇跡だったのかもしれない。
エルヴィンは静かに目を閉じ、小さく頷いた。
「……エリアネ様らしい」
ボルドも腕を組んだまま、どこか嬉しそうに笑う。
「まったく」
「嬢ちゃんは、本当に昔のあの人によく似とるわい」
ラグナスも静かに微笑んだ。
「罪は裁かれなければなりません」
「ですが、その先に和解を願う心こそ、エリアネ様が最も大切になさっていたことでした」
会議室にいた誰もが、その言葉へ静かに頷く。
リアネだけは照れくさそうに頭を掻いていた。
(うぅ……)
(だから私の名前を出さないでってば……)
(恥ずかしいよぉ……)
もちろん。
当の本人だけは、自分がその「エリアネ様」であることを誰にも明かせずにいた。




