第62話 真相
大会議室は静まり返っていた。
ソフィアは一人の男へ静かに視線を向ける。
「祭典実行委員」
「王国祭典運営局長」
「エドモンド・バルテール子爵」
名を呼ばれた男の肩がぴくりと震える。
会議室中の視線が、一斉に彼へ集まった。
エドモンドは額に汗を浮かべながらも、必死に首を振る。
「ち、違う!」
「こんなの偶然じゃないか!」
震える声で叫ぶ。
「たまたまボタンが取れただけだ!」
「たまたま同じ靴を履いていただけだ!」
ソフィアは静かに問いかける。
「その靴ですが」
「国内でも流通数の少ない特注品だったと記録しております」
「それでも偶然だとおっしゃいますか」
エドモンドは一瞬言葉を詰まらせる。
しかし、すぐに声を荒らげた。
「あ、ああ!」
「そうだ!」
「偶然だ!」
「こんなの証拠にならない!」
さらに机を叩きながら叫ぶ。
「これは名誉毀損だ!」
「横暴だ!」
「大聖女だからといって、こんなことが許されるわけがない!」
「もし私が犯人でなかったら!」
「訴えてやるぞ!」
会議室がざわつく。
追い詰められた末の、精一杯の自己防衛だった。
しかし。
ソフィアは怒ることもなく、静かに頷いた。
「……分かりました」
その一言に、エドモンドは目を見開く。
「あなたのご主張を認めます」
会議室がどよめく。
エドモンドの肩から力が抜けた。
(助かった……)
(押し切れた……)
そう思った、その時だった。
ソフィアは静かにエドモンドを見つめる。
「でしたら、一つだけ、お聞かせください」
エドモンドは息を呑む。
「あなたは、そのお言葉を」
一拍置く。
「大聖女エリアネ様へ誓えますか」
その瞬間。
エドモンドの表情が凍り付いた。
会議室は、水を打ったように静まり返る。
一方その頃。
リアネは心の中で大慌てだった。
(えぇぇっ!?)
(なんで私の名前が出てくるの!?)
(恥ずかしいからやめてよぉ……!)
もちろん、その心の声が誰かへ届くことはない。
エドモンドは唇を震わせる。
「わ……私は……」
目から一筋の涙が零れ落ちた。
やがて膝から力が抜け、その場へ崩れ落ちる。
「エリアネ様に……」
震える声が漏れる。
「エリアネ様にだけは……」
「嘘を申し上げることはできません……」
会議室に衝撃が走る。
エドモンドは深く頭を下げた。
「エリアネ様……」
「申し訳ございませんでした」
涙が床へ落ちる。
「私は……」
「嘘を申し上げました」
ゆっくりと顔を上げる。
「……私です」
「すべて、私がやりました」
静まり返る会議室。
ソフィアは静かに問いかける。
「理由を、お聞かせいただけますか」
エドモンドはしばらく俯いていた。
やがて、観念したように口を開く。
「私は……王権派です」
その言葉に、会議室がざわめく。
「近年、教会への信頼は急激に高まりました」
「五年前、大聖女ソフィア様が魔王因子を破壊されて以降、その傾向はさらに強まっています」
「今や教会と教皇への支持は国境を越えて広がり……」
エドモンドは苦しそうに拳を握り締めた。
「このリリア王国においても、その影響力は年々増し、王家を凌ぐほどの求心力を持ち始めています」
重苦しい空気が流れる。
「ですが」
「国を統べるのは王です」
「民を導く中心は、教会ではなく王であるべきなのです」
自嘲するように笑う。
「私は、その考えに賛同する王権派の同志たちと共に、この計画を実行しました」
「祭典で混乱を起こし」
「教会への信頼を失墜させる」
「それが目的でした」
そして力なく項垂れる。
「懇親会の葡萄酒」
「代表会談の席順」
「贈答品の盗難」
「式典会場の破壊」
「昨夜の祭壇への侵入」
一つ一つ、罪を噛み締めるように口にする。
「……すべて、私の犯行です」
その告白に、会議室は深い静寂に包まれた。




