第55話 幻滅なんて
ソフィアは優しく微笑んだ。
「いいえ」
「全く」
その答えに、
リアネは思わず顔を上げる。
ソフィアは静かに首を横へ振った。
「むしろ」
「私は嬉しかったのです」
リアネは目を丸くする。
「文献の中の初代大聖女様は」
「あまりにも偉大すぎました」
「世界を救い」
「四種族を融和へ導き」
「数々の奇跡を起こした聖人」
「まるで神話の中の存在です」
ソフィアはふっと笑う。
「ですが」
「私が出会ったリアネさんは違いました」
「嘘がつけなくて」
「お酒が大好きで」
「友達思いで」
「困っている人を見ると放っておけなくて」
「いつも周りを笑顔にしてくださる」
その優しい声には、
敬意と親しみが込められていた。
「だから私は」
「こちらのリアネさんの方が」
「ずっと好きです」
リアネは思わず息を呑む。
ソフィアは続けた。
「私」
「ずっと不思議だったことがありました」
「『安らぎの光』です」
リアネは静かに耳を傾ける。
「文献には」
「人々の心を癒やし」
「争いを鎮め」
「世界へ平穏をもたらした奇跡と記されていました」
「ですが」
「光魔法に、そのような術式は存在しません」
ソフィアは穏やかに微笑む。
「今なら分かります」
「リアネさんは」
「前世を思い出してからも」
「一度も光魔法で人の心を動かしてはいません」
市場でも。
港でも。
教会でも。
懇親会でも。
リアネはただ、
相手を思い、
寄り添い、
笑い合っていただけだった。
「それでも」
「皆さん自然と笑顔になり」
「安心して」
「争いは収まっていきました」
ソフィアは静かに結論を口にする。
「『安らぎの光』とは」
「魔法ではありません」
「きっと」
「リアネさん、あなたのお人柄そのものだったのでしょう」
リアネの瞳が揺れる。
言葉にならない。
胸の奥がじんわりと熱くなる。
ソフィアは優しく微笑んだ。
「ですから」
「私は幻滅なんてしません」
「むしろ」
「今のリアネさんを知ることができて、本当に良かったと思っています」
リアネは泣きそうになりながら、
必死に涙をこらえるのだった。




