第54話 友達を作っていただけ
リアネは少し俯いた。
宝物庫には静かな空気が流れる。
しばらく黙っていたが、
やがて照れくさそうに小さく笑った。
「私ね」
「文献に書かれてるみたいな、偉いことなんてしてないよ」
ソフィアは何も言わない。
ただ静かに耳を傾ける。
「友達を作って」
「一緒に旅をして」
「一緒に笑って」
「たまに喧嘩して」
「仲直りして」
「お酒を飲んで」
「……それだけ」
リアネは困ったように肩をすくめた。
「なのに」
「三千年経ったら、尾ひれが付きすぎちゃった」
「初代大聖女なんて呼ばれてるし」
「神様みたいに崇められてるし」
「いやいや」
「私、そんな立派な人じゃないから」
苦笑しながら首を横へ振る。
少し間を置いて、
本音をぽつりと漏らした。
「それにね」
「もし正体が知られたら」
「教会へ来てくださいって、絶対言われるでしょ?」
ソフィアは静かに頷いた。
否定はしなかった。
「きっと、お酒も自由に飲めなくなるし」
「旅も自由にできなくなる」
「遊びにも行けなくなる」
「結婚だって、自由に決められないかもしれない」
リアネは力なく笑う。
「私、今年やっとお酒が飲める年齢になったの」
「また飲めなくなるなんて、絶対いやだよ」
その一言に、
二人の間へ思わず小さな笑いが生まれた。
リアネは照れくさそうに頭をかく。
「結局ね」
「私」
「普通の女の子として生きたかっただけなの」
その言葉は、
世界中から崇敬される初代大聖女ではなく、
一人の十六歳の少女の、素直な願いだった。
やがてリアネは、
少しだけ不安そうな表情でソフィアを見つめる。
「ソフィアさん」
「こんな理由で正体を隠してたなんて聞いて」
「私のこと……」
「幻滅しちゃいました?」
その声は、
これまで見せたことのないほど弱々しく、
返事を怖がる少女のものだった。




