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友達を作っていただけなのに、三千年後には初代大聖女と呼ばれていました!?  作者: Atelier Lotus


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第44話 夜の祭壇

 祭典二日目の夜。


 王城はすっかり静まり返っていた。


 昼間の賑わいが嘘のように、人影はほとんどない。


 教会の執務室で書類を整理していたソフィアは、小さく息を吐いた。


「明日は、いよいよ最終日ですね」


 明日は、エリアネ大祭最大の儀式。


 四種族の代表が集い、友好の象徴であるロザリオを祭壇へ奉納する。


 祭典を締めくくる、最も重要な儀式だった。


 ソフィアは静かに立ち上がる。


「念のため、祭壇も確認しておきましょう」


 葡萄酒。


 席順。


 贈答品。


 式典。


 祭典の重要な場面ばかりが狙われている。


 だからこそ、不安が拭えなかった。


(リアネさんは、お休みになられている頃でしょう)


(これ以上、お手を煩わせる訳にはいきません)


 一人で十分。


 そう自分に言い聞かせ、ソフィアは夜の王城を歩き始めた。


 やがて祭壇へ到着する。


 月明かりに照らされた祭壇は、昼間と変わらぬ静けさを保っていた。


 ソフィアはゆっくりと、ロザリオを安置する台へ近付く。


 細部まで丁寧に確認する。


 傷はない。


 細工された形跡もない。


 異常は見当たらなかった。


「……よかった」


 安堵の息を漏らす。


 その時だった。


 ――カタン。


 静寂を破る、小さな物音。


 ソフィアは鋭く振り返る。


「誰です!」


 柱の陰から、黒いローブを纏った人物が飛び出した。


 そのまま一目散に駆け出す。


「待ちなさい!」


 ソフィアも迷わず後を追った。


 王城の回廊を駆け抜け。


 中庭を横切り。


 裏庭へ。


 黒い影は迷うことなく走り続ける。


(速い……!)


 それでも、あと一歩。


 ソフィアは腕を伸ばした。


 ローブを掴む。


 さらに腕を掴んだ。


「捕まえました!」


 しかし次の瞬間。


 犯人は強引に腕を振り払い、ソフィアの体勢を崩す。


 その隙に闇の中へ姿を消してしまった。


「待ってください!」


 声だけが夜空へ響く。


 返事はない。


 静寂が戻る。


 ソフィアは息を整えながら周囲を見回した。


 ふと、月明かりに何かが光る。


「これは……?」


 拾い上げる。


 小さな金属製のボタンだった。


 中央には見慣れない紋章が刻まれている。


(教会の物ではありません)


(王国の制服でもありません)


(見たことのない紋章です)


 大切そうにハンカチへ包む。


 その時、視線が地面で止まった。


 昨夜の雨で湿った土には、逃走した犯人の足跡が鮮明に残っている。


「足跡……」


 ソフィアはすぐ近くにいた衛兵へ声を掛けた。


「この周辺には誰も近付けないでください」


「絶対に足跡を崩さないようお願いします」


「はっ!」


 衛兵たちは直ちに周囲を封鎖した。


 ソフィアは続けて命じる。


「教会所属の土魔法使いを呼んでください」


「この足跡を、そのまま証拠として保管します」


「承知しました!」


 しばらくして、一人の土魔法使いが駆け付ける。


「大聖女様、お呼びでしょうか」


 ソフィアは足跡を指差した。


「この部分だけ、崩さず切り出せますか」


 土魔法使いは一目見て頷く。


「可能です」


 足元に魔法陣が浮かび上がる。


 すると地面が静かに四角く持ち上がった。


 泥一つ崩れることなく、足跡だけが綺麗に切り出される。


 ソフィアは安堵の息を吐いた。


「ありがとうございます」


「これで証拠として保管できます」


 土魔法使いは恭しく一礼した。


「お役に立てて何よりです」


 ソフィアはボタンと足跡を見つめる。


(初めての手掛かりです)


(これなら……)


(犯人へ近付けるかもしれません)


 夜風が静かに吹き抜ける。


 ソフィアは証拠を大切に抱え、闇へ消えた犯人の逃走方向を見つめていた。


 見えない敵との戦いは、静かに終幕へ向かい始めていた。

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