第43話 違和感
式典が無事に終了した夜。
王城内に設けられた教会の執務室。
ソフィアは一人、机へ向かっていた。
机の上には数枚の資料が整然と並べられている。
懇親会の発注記録。
四種族代表会談の席順表。
贈答品の管理記録。
そして、式典会場の被害報告書。
ソフィアは一枚ずつ静かに目を通していく。
「葡萄酒……」
最初の出来事。
教会が正式に発注したのは葡萄酒だった。
しかし、存在しない司祭を名乗る人物によって、葡萄ジュースへ変更されていた。
「席順……」
続いて、四種族代表会談。
提出された正式資料そのものが改ざんされ、代表者たちの席が入れ替えられていた。
「贈答品……」
本来保管されていた贈答品は姿を消し、捜索が始まると祭典資材倉庫へ戻されていた。
そして今日。
「式典……」
開始直前。
祭壇の燭台や装飾が破壊されていた。
ソフィアは静かに目を閉じる。
(葡萄酒)
(席順)
(贈答品)
(式典)
一つだけなら偶然。
しかし――
(四件)
ここまで重なれば、偶然では説明できない。
ソフィアは静かに息を吐いた。
(誰かが……)
(祭典を狙っています)
しかも。
狙われるのは決まって、祭典の最も重要な場面ばかりだった。
もし、リアネがいなければ。
懇親会は混乱し。
四種族代表会談は対立へ発展し。
贈答品は用意できず。
式典も中止になっていたかもしれない。
(ですが……)
(その度に、リアネさんが場をまとめてくださいました)
笑顔で。
誰も責めることなく。
自然と人を繋ぎ合わせてしまう。
ソフィアは小さく微笑んだ。
(本当に、不思議な方ですね……)
しかし、その笑みはすぐに消えた。
視線は再び資料へ戻る。
(このままではいけません)
(次は、もっと大きな事件が起きるかもしれません)
ソフィアは白紙を一枚取り出し、静かに羽根ペンを走らせた。
事件発生時刻。
現場。
被害内容。
関係者。
目撃証言。
共通点。
一つひとつ丁寧に整理していく。
やがて、羽根ペンを置いたソフィアは静かに頷いた。
(まずは共通点を探しましょう)
(そして……)
(必ず犯人を見つけ出します)
教会はまだ何も知らない。
王国も。
祭典実行委員会も。
だが、一人だけ。
大聖女ソフィアは確信していた。
(この祭典は、何者かによって狙われています)
その夜。
誰にも告げることなく。
ソフィアは密かに独自の調査を開始するのだった。




