第42話 式典
祭典二日目。
いよいよ、エリアネ大祭最大の行事――式典の開式が目前に迫っていた。
王城前広場には、四種族の代表をはじめ、各国の来賓、巡礼者、町の人々が集まり、厳かな雰囲気の中、その時を静かに待っている。
その時だった。
「た、大変です!」
一人の実行委員が血相を変えて駆け込んできた。
「祭壇が……!」
その言葉に全員が祭壇へ視線を向ける。
そこには、無残な光景が広がっていた。
燭台は倒れ。
花瓶は砕け散り。
色鮮やかな花々は踏み荒らされ。
祭壇を彩る装飾も、あちこちで壊されている。
会場が騒然となった。
「何ということだ……」
「誰がこんなことを……」
「式典開始まで、あと十分です!」
責任者は顔面蒼白になり、力なく膝をつく。
「もう……間に合わない……」
その時だった。
「大丈夫です!」
明るい声が会場へ響いた。
リアネだった。
彼女は迷うことなく祭壇へ駆け寄る。
「みんなで直しましょう!」
実行委員たちは戸惑った。
「ですが……」
「時間がありません」
リアネは振り返り、にっこりと笑う。
「一人じゃ無理でも」
「みんななら、きっとできます!」
一瞬、静寂が訪れる。
そして――
「嬢ちゃん!」
最初に声を上げたのは、町の大工だった。
「俺も手伝うぜ!」
「木仕事なら任せろ!」
続いて花屋の女性が駆け出す。
「花ならまだあります!」
「すぐに持ってきます!」
巡礼者の青年も袖をまくった。
「私もお手伝いします!」
「エリアネ様へ捧げるお祭りですから!」
さらに。
エルフ族代表エルヴィンが一歩前へ出る。
「植物のことなら、お任せください」
エルフたちは風と植物の魔法を用い、踏み荒らされた花壇を次々と整えていく。
ドワーフ族代表ボルドも豪快に笑った。
「がっはっは!」
「壊れた燭台くらい、儂らがすぐに直してやる!」
鍛冶師たちは工具を取り出し、壊れた燭台や装飾を手際よく修復し始めた。
白竜族代表ラグナスも静かに頷く。
「我らも協力しましょう」
白竜族は高所へ軽やかに飛び上がり、天幕や装飾を整えていく。
町人。
巡礼者。
実行委員。
そして四種族。
誰一人、指示を待つ者はいなかった。
自然と役割を見つけ、互いに助け合いながら動き始める。
リアネも花を抱えて走り回る。
「ありがとうございます!」
「本当に助かります!」
花屋の女性が笑う。
「何言ってるの!」
「いつもリアネちゃんには助けてもらってるんだから!」
大工も笑顔で頷く。
「そうだ!」
「嬢ちゃんには借りばっかりだからな!」
ボルドも豪快に笑う。
「昨日教えてもらった麦酒、工房の連中にも大好評だったぞ!」
「礼をするなら今しかあるまい!」
エルヴィンも穏やかに微笑んだ。
「あなたの心遣いには、私たちも何度も救われています」
ラグナスも静かに続ける。
「困った時は、お互い様です」
「友とは、そのためにいるのでしょう」
その言葉に、リアネは嬉しそうに笑った。
「はい!」
誰かに命じられたからではない。
誰か一人のためでもない。
皆が自然と手を取り合い、一つの祭壇を修復していく。
やがて――
「できました!」
祭壇は元の美しい姿を取り戻していた。
責任者は時計を見る。
「開始まで……あと一分」
思わず目を見開く。
「間に合った……」
会場から大きな拍手が湧き起こる。
予定どおり。
式典開始の鐘が高らかに鳴り響いた。
その光景を少し離れた場所から見つめていたソフィアは、小さく息を吐く。
(また……)
懇親会。
四種族代表会談。
贈答品。
そして式典。
祭典の重要な場面ばかりを狙った妨害工作。
偶然で済ませられるものではない。
(誰かが、この祭典を壊そうとしています)
しかし――
ソフィアは祭壇へ視線を向ける。
そこには、汗を拭いながら町の人々や四種族の代表たちと笑い合うリアネの姿があった。
(ですが……)
(その度に、リアネさんは人と人を繋いでしまう)
誰かが壊そうとするたびに。
人々の絆は、より強く結ばれていく。
ソフィアは小さく微笑んだ。
(もしかしたら――)
(初代大聖女エリアネ様が成し遂げられた四種族融和とは)
(このようなことだったのかもしれませんね)




