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友達を作っていただけなのに、三千年後には初代大聖女と呼ばれていました!?  作者: Atelier Lotus


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第38話 来賓席

 祭典二日目。


 四種族代表会談当日。


 王城の大会議場では、実行委員会が朝早くから慌ただしく準備を進めていた。


 席順。


 来賓名簿。


 案内図。


 すべて各国から事前に提出された正式資料をもとに確認され、会場は寸分の狂いなく整えられている。


「準備完了です!」


「代表の皆様をご案内いたします!」


 受付が始まり、四種族の代表たちが次々と入場してくる。


 しかし――。


 最初に違和感へ気付いたのは、白竜族代表ラグナスだった。


 案内された席を見つめ、穏やかな口調で問いかける。


「失礼ですが……」


「私は構いませんが、本当にこちらでよろしいのでしょうか?」


 案内係は慌てて資料を確認した。


「は、はい……」


「資料ではこちらとなっております」


 そこは、本来なら最上席へ座るべき白竜族代表が、下座へ案内される配置だった。


 会場がざわつく。


「どういうことだ?」


「白竜族代表が下座だと?」


「あり得ないぞ」


 さらに。


 エルフ族代表エルヴィンが声を上げた。


「こちらも違います」


「私の席へ、ドワーフ族の名札が置かれています」


 すると今度は、ドワーフ族代表ボルドも困惑したように辺りを見回した。


「儂の席が見当たらんぞ」


 確認すると、エルフ族とドワーフ族の席は完全に入り乱れていた。


 会場のあちこちから不満の声が上がる。


「今回の大祭、不備が多すぎるぞ」


「懇親会といい、一体どうなっている」


「事前確認もしていないのか?」


「運営は何をしている!」


 実行委員たちは青ざめながら資料を見返した。


「そんな……」


「資料どおり設営したはずなのに……」


 席順表。


 来賓名簿。


 案内図。


 すべて同じ内容になっている。


 つまり――。


「資料そのものが違う……?」


 誰かが小さく呟いた。


 その時だった。


 リアネが一歩前へ出る。


 そして深々と頭を下げた。


「皆様!」


「大変申し訳ございません!」


「どうやら資料に不備があったようです!」


「確認が取れ次第、すぐにご案内し直しますので、少々お時間をいただけますでしょうか!」


 明るく落ち着いた声が、張り詰めていた空気を少しずつ和らげていく。


 リアネはすぐにエルヴィンのもとへ歩み寄った。


「エルヴィンさんですよね!」


「去年もお越しくださいましたよね!」


「もちろん覚えています!」


「こちらのお席です!」


 エルヴィンは驚いたように目を見開く。


「……覚えていてくださったのですか?」


 リアネは満面の笑みを浮かべた。


「当たり前じゃないですか!」


「今年もよろしくお願いします!」


 エルヴィンも柔らかな笑みを返す。


「ええ」


「今年もよろしくお願いいたします」


 その様子を見ていたラグナスが静かに感心する。


「一度会っただけの相手の顔と名前を覚えているとは……」


「見事です」


 リアネは少し照れくさそうに笑った。


「商会の娘ですから!」


「一度見たお名前とお顔は忘れません!」


 すると、ボルドが豪快に笑った。


「がっはっは!」


「懇親会の時も見事な手際だったな!」


「ところで後ほど、あの麦酒のことを教えてくれんか?」


「国への土産に持ち帰りたい!」


 リアネは嬉しそうに頷く。


「もちろんです!」


 ボルドは胸を張り、どこか誇らしげに語った。


「我らドワーフは山の精霊だからな!」


「火山帯で鍛冶仕事をする者も多い!」


「毎日、炉の熱に囲まれて汗だくよ!」


「だから、よく冷えた麦酒は水代わりみたいなものなんだ!」


 豪快に笑いながら続ける。


「皆にも飲ませてやりたい!」


「きっと大喜びするぞ!」


 リアネも思わず笑みを浮かべた。


「それは嬉しいですね!」


「その時は、ぜひベル商会をご贔屓にしてください!」


 ボルドは何度も大きく頷く。


「うむ!」


「約束しよう!」


 代表たちから笑いが起こる。


 先ほどまで険しかった空気は、いつの間にか穏やかなものへ変わっていた。


 実行委員たちも落ち着きを取り戻し、リアネと共に席順を修正していく。


 一方、その様子を静かに見つめていたソフィアは、提出資料へ視線を落とした。


(席順だけではありません……)


(来賓名簿も、案内図も……)


(すべて正式な記録と違います)


 偶然ではない。


 誰かが意図的に資料を書き換えている。


(懇親会での葡萄酒の件といい……)


(やはり一連の出来事には、何者かの悪意があります)


 ソフィアは静かに資料を閉じる。


 そして、笑顔で代表者たちへ声を掛け、一人ひとりの名前を呼びながら場をまとめていくリアネを見つめた。


(それよりも……)


(リアネさん、本当にすごい方ですね)


 たった一人で。


 混乱しかけた四種族代表会談の空気を和らげ、誰一人不快な思いをさせることなく場を立て直してしまった。


 その姿はまるで――


 人と人を自然に結び、四種族を笑顔で繋いだと伝えられる、初代大聖女エリアネそのもののように、ソフィアの目には映っていた。

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