第37話 あり得ないはず
その夜。
ソフィアは窓辺に立ち、
静かな夜空を見上げていた。
(落ち着きましょう)
(まだ証拠はありません)
リアネは、
ベル商会の一人娘。
誰にでも優しく、
困っている人がいれば迷わず手を差し伸べる。
少し天然で、
思ったことをそのまま口にしてしまう。
そんな、
どこにでもいる少女。
少なくとも、
ソフィアにはそう見えていた。
(私の考えすぎなのでしょうか)
歴史が好きで、
想像力が豊かなだけなのかもしれない。
文献を何度も読み返し、
その時代の情景を頭の中で思い描いているだけなのかもしれない。
そう考えれば、
すべて説明がつく。
――はずだった。
しかし。
ソフィアは静かに目を閉じる。
(一つだけ……)
(一つだけ説明できる仮説があります)
教会には、
前例がある。
だからこそ、
その可能性を完全に否定することもできなかった。
(まさか……)
(そんなことが、本当に……)
ソフィアは小さく首を横へ振る。
まだ、
答えを出すには早い。
証拠がない。
すべては推測に過ぎない。
ただ一つだけ、
確かなことがあった。
リアネが何気なく漏らす話は、
空想や思いつきではない。
そのほとんどが、
歴史や教会に残る記録と一致している。
そして時には、
文献にも記されていない事実まで語っていた。
(リアネさんは……)
(存在しないはずの記憶を持っている)
それだけは、
もう疑いようのない事実だった。
ソフィアは静かに息を吐く。
(あなたは、一体……)
(何者なのでしょう)




