第2話 竜王たちの贈り物
四種族融和の盟約が結ばれた日。
人族。
竜族。
エルフ族。
ドワーフ族。
四種族の代表が一堂に会していた。
静寂の中。
白竜皇オルド・アルカ=ヴェルが一歩前へ進み出る。
「友好を未来へ残そう」
その言葉には、竜族の頂点に立つ王としての威厳と、一人の友を想う優しさが込められていた。
オルドは静かに胸へ手を添える。
次の瞬間。
一枚の白銀に輝く竜王鱗が、ゆっくりと宙へ舞い上がる。
「これは我からの贈り物だ」
エリアネは目を丸くした。
「えっ?」
「いいの?」
オルドは穏やかに微笑む。
「友へ贈る物に、惜しむ理由はない」
その言葉を聞いた黒竜王ゼノン・ノワール=ヴェルが静かに前へ出る。
漆黒の竜王鱗を差し出し、短く告げた。
「異論はない」
「我も捧げよう」
続いて。
紅竜王ヴォルカン・フラム=ヴェルが豪快に笑う。
「がはははっ!」
「祝い事だ!」
「俺も出すぜ!」
燃えるような紅色の竜王鱗を豪快に放る。
エリアネは慌てて受け止めた。
「わっ!」
「ありがとう!」
「大切にするね!」
「おう!」
「遠慮なんざするな!」
今度は。
碧竜王レヴィアス・アズール=ヴェルが静かに歩み出る。
澄み切った湖のような碧い瞳。
冷静沈着な王は、小さく頷く。
「未来へ残す価値はある」
その一言だけ残し、
碧く透き通る竜王鱗を差し出した。
「ありがとう!」
レヴィアスは照れたように目を逸らした。
そして最後に。
翠竜王アルヴェイン・シルヴァ=ヴェルが、
杖を突きながらゆっくりと歩み出る。
五大竜王最年長。
長い白髪と白い髭を蓄えたその姿は、
まるで孫を見守る祖父のようだった。
「ほっほっほ」
「若い者たちは気前がよいのう」
「ならば、わしも一枚出そうかの」
そう言って、
翡翠のように美しい翠色の竜王鱗をそっと差し出す。
エリアネは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう!」
「おじいちゃん!」
一瞬。
その場の空気が止まる。
相手は五大竜王の一柱。
しかも最古の竜王である。
しかし。
アルヴェインは楽しそうに笑った。
「ほっほっほ」
「おじいちゃんとは」
「可愛らしい呼び方じゃのう」
「気に入ったぞい」
オルドは苦笑する。
「お前だけだ」
「翠竜王を初対面で『おじいちゃん』と呼ぶ人族は」
「え?」
「だって、おじいちゃんじゃん?」
きょとんと首を傾げるエリアネ。
その無邪気な一言に、
五大竜王は一斉に笑い声を上げた。
こうして。
五大竜王は、
自らの竜王鱗を一枚ずつ捧げる。
竜王鱗は長い年月、魔素の影響を受けることで、それぞれ伝説の金属となる資質を秘めていた。
白竜鱗 ―― アダマンタイト
黒竜鱗 ―― 黒曜鉄
紅竜鱗 ―― ヒヒイロカネ
翠竜鱗 ―― オリハルコン
碧竜鱗 ―― アポイタカラ
竜族にとって、
竜王鱗は力と誇りの象徴である。
その大切な鱗を惜しみなく差し出したのは、
一人の友へ贈るため。
そして、
四種族の未来へ友好を残すためだった。




