第23話 葡萄ジュース事件
「乾杯!」
会場中へ、乾杯の声が響き渡る。
リアネも待ちに待った最高級葡萄酒を口へ運んだ。
「いただきます!」
こくり。
一口含む。
「……あれ?」
思わず首を傾げる。
甘い。
爽やかな葡萄の甘みが口いっぱいに広がる。
「……甘い?」
もう一口飲んでみる。
「え?」
「これ……」
「葡萄酒じゃない」
その時だった。
会場のあちこちから戸惑いの声が上がる。
「……何だこれは」
「甘いぞ」
「酒じゃない」
「おい」
「これは……」
一人の神官が驚いたように呟く。
「……葡萄ジュース?」
その一言で、
会場中が騒然となった。
「葡萄ジュースだと!?」
「どういうことだ!」
教会関係者も慌てて杯へ口を付ける。
「そんな……」
「本当に葡萄ジュースです!」
確かに教会は、
ローズフィールド王国産の最高級葡萄酒を発注していた。
しかし、
会場へ届けられたのは、
色も香りも本物の葡萄酒と見分けがつかない高級葡萄ジュースだった。
乾杯して口に含むまで、
誰一人として気付かなかったのである。
すると、
ドワーフ使節団代表が勢いよく立ち上がった。
「懇親会の乾杯で葡萄ジュースだと!」
「わしらを馬鹿にしておるのか!」
怒声が会場へ響き渡る。
続いて、エルフ使節団代表が静かに席を立つ。
「教会は、本当に我々を歓迎する意思がおありなのでしょうか」
穏やかな口調。
しかし、その瞳には明らかな怒りが宿っていた。
さらに。
白竜使節団代表ラグナスも静かに口を開く。
「正式な外交の席です」
「これでは白竜皇国へ説明がつきません」
三種族代表の言葉に、
会場の空気は一変する。
「どういうことだ!」
「最高級葡萄酒を用意すると聞いていたぞ!」
「確認もしなかったのか!」
疑念の視線が、
一斉に教会関係者へ向けられる。
壇上では、
懇親会を取り仕切る神官が顔を真っ青にして立ち尽くしていた。
先ほどまでの和やかな雰囲気は消え去り、
会場は張り詰めた空気に包まれる。
その様子を見つめていたソフィアは、
静かに席を立った。




