第21話 商いで人を幸せにする
数日にわたる挨拶回りも、
いよいよ最後の日を迎えた。
市場。
港。
孤児院。
鍛冶屋。
教会。
祭典を支える人々へ感謝を伝え歩き、
王都リリアの準備は着々と整っていく。
夕暮れ。
二人は王都を一望できる小高い丘へ立っていた。
街には祭典を彩る旗が揺れ、
露店にも明かりが灯り始める。
祭りを待ちわびる人々の笑顔が、
街中へ溢れていた。
ソフィアはその光景を眺めながら、
静かに口を開く。
「リアネさん」
「はい?」
「リアネさんは、不思議な方ですね」
リアネは首を傾げた。
「え?」
ソフィアは穏やかに続ける。
「困っている方をご覧になると」
「何も考えずに手を差し伸べていらっしゃるように見えます」
市場でも。
港でも。
孤児院でも。
鍛冶屋でも。
教会でも。
誰かが困っていれば、
リアネは迷うことなく動いていた。
リアネは少し照れくさそうに笑う。
「えっと……」
「こんな言い方すると、偉そうに聞こえちゃいますけど」
「困ってる人がいたら助けるのって」
「普通のことじゃないですか?」
「だから」
「あんまり深く考えたことないんです」
そう言って笑う。
その笑顔には、
気負いも誇らしさもなかった。
ソフィアは静かに微笑む。
(この”普通”が)
(どれほど難しいことか)
(リアネさんは、分かっていないのでしょうね)
困っている人がいても、
見て見ぬふりをしてしまう人もいる。
損得を考えてしまう人もいる。
身分や立場によって、
接し方を変えてしまう人もいる。
けれどリアネは違う。
相手が誰であろうと、
自然に寄り添い。
自然に笑い。
自然に手を差し伸べる。
それは意識してできることではない。
この少女の生き方、そのものだった。
リアネは夕暮れに染まる王都を見渡し、
満足そうに微笑む。
「みんな笑ってますね」
「はい」
ソフィアも穏やかに頷く。
「皆様、本当に幸せそうです」
リアネは嬉しそうに笑った。
「ベル商会の理念は」
「『商いで人を幸せにする』ですから」
「この景色を見ると」
「頑張ってよかったなって思えるんです」
ソフィアはその横顔を見つめ、
胸の奥が温かくなるのを感じた。
(商いで人を幸せにする)
(教会は祈りで人を幸せにする)
(形は違っても)
(目指しているものは同じなのですね)
夕日に照らされた王都には、
祭典を待ちわびる人々の笑顔が広がっていた。
その景色を眺めながら、
ソフィアは改めて思う。
(リアネさんは)
(本当に素敵な方ですね)
そしてリアネは、
そんなソフィアの想いなど知る由もなく、
いつものように屈託のない笑顔を浮かべていた。




