第18話 港
次に二人が訪れたのは、
王都リリアの港だった。
エリアネ大祭を目前に控え、
港はかつてないほどの活気に包まれている。
各国から到着する大型船。
食料。
酒樽。
祭典で使用する資材。
港湾労働者たちは汗を流しながら、
次々と荷物を運び込んでいた。
リアネは元気よく手を振る。
「皆さん、お疲れ様です!」
「おっ!」
「ベル商会のリアネ嬢だ!」
港中から笑顔が返ってくる。
すると、一人の港湾労働者がソフィアを見て目を丸くした。
「おお!」
「もしかして、ソフィア様の案内役をしてるのか?」
「はい」
リアネが頷くと、
港の男たちは一斉に笑った。
「ははは!」
「夢が叶ってよかったな!」
「昔っから言ってたもんな!」
「『いつかソフィア様をエリアネ大祭でご案内するんだ!』って!」
リアネは苦笑いを浮かべる。
「は、ははは……」
(お願いだから)
(その話はもうやめてぇぇぇ!)
(前世を思い出す前の私ぃぃぃ!)
(余計な夢を見るなよぉぉぉ!)
ソフィアは少し照れくさそうに微笑んだ。
「レオン様も、そのようなお話をされていましたね」
「面と向かって言われると、少し気恥ずかしいですね」
港の人々は豪快に笑う。
「いやいや!」
「リアネ嬢の夢だったんだからな!」
「今年は最高の思い出になるぞ!」
リアネは顔を真っ赤にしながら頭をかいた。
「も、もう!」
「皆さんまで!」
その時だった。
「危ない!!」
港中へ怒鳴り声が響く。
高く積み上げられた木箱が、
大きく傾いた。
その下には、
一人の小さな男の子が立ち尽くしている。
誰もが息を呑んだ。
しかし。
「危ない!」
リアネは真っ先に駆け出した。
近くにいた港湾労働者も同時に飛び出す。
「そっちを支えろ!」
「子どもを!」
「はい!」
リアネは男の子を抱きかかえ、
木箱の下から飛び退く。
同時に港湾労働者たちが木箱を押さえ込み、
荷崩れを食い止めた。
数個の木箱は地面へ落ちたものの、
幸い誰一人怪我はなかった。
一瞬の静寂。
そして、
港中が安堵の息を漏らす。
リアネは男の子をそっと地面へ降ろした。
「大丈夫?」
男の子は涙目で何度も頷く。
「うん……」
リアネはほっと笑顔を浮かべた。
「よかった!」
「無事で本当によかった!」
それだけだった。
自分が危険だったことなど、
まるで気にしていない。
港湾労働者が深々と頭を下げる。
「リアネ嬢!」
「助かった!」
「ありがとう!」
リアネは照れくさそうに首を横へ振った。
「いえいえ!」
「皆さんが一緒に支えてくれたからですよ!」
「私一人じゃ助けられませんでした」
その姿を、
少し離れた場所からソフィアは静かに見つめていた。
(迷いがありませんね)
(困っている方を見つけた瞬間)
(何も考えずに身体が動いている)
見返りを求めない。
感謝されるためでもない。
助けることが、
リアネにとっては当たり前なのだ。
ソフィアは優しく微笑んだ。
(本当に……)
(優しい方ですね)
その眼差しに、
リアネはまだ気付いていなかった。




