第17話 市場
市場。
エリアネ大祭を数日後に控え、
王都最大の市場は朝から大勢の人で賑わっていた。
野菜。
果物。
香辛料。
鮮魚。
肉。
世界各国から集められた品々が店先を彩っている。
リアネとソフィアが市場へ姿を見せると、
あちこちから歓声が上がった。
「大聖女様だ!」
「ソフィア様がいらっしゃったぞ!」
「本物だ!」
「こっち見てー!」
「今年も来てくださったんですね!」
子どもたちは目を輝かせ、
商人たちも笑顔で手を振る。
ソフィアは立ち止まり、
一人ひとりへ優しく微笑み返した。
「皆様、お久しぶりです」
「今年もエリアネ大祭でお会いできて嬉しく思います」
「祭典まであと少しですね」
その柔らかな笑顔に、
市場中がさらに明るい空気へ包まれる。
「今年もよろしくお願いします!」
「祭典、楽しみにしてます!」
リアネはその様子を見て思わず笑った。
(やっぱり人気者だなぁ)
(本当にみんなから愛されてる)
その時だった。
大量の野菜が入った木箱を抱えた老人が、
ふらりとよろめいた。
「あっ!」
リアネは迷うことなく駆け寄る。
「おじいさん!」
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ」
「ちょっと重くてね」
リアネは木箱へ手を掛けた。
「持ちます!」
「いやいや、お嬢さんには重いだろう」
「腰、大事にしてください」
「遠慮しないでくださいね」
「私、こう見えて力持ちですから!」
そう言って、
ひょいっと木箱を持ち上げる。
老人は目を丸くした。
「おおっ!」
「本当だ」
「じゃあ、お嬢さんに甘えようかな」
「ありがとうね」
リアネはにっこり笑う。
「いえいえ!」
「困った時はお互い様です!」
二人で荷物を店先まで運び終えると、
老人は何度も頭を下げた。
「助かったよ」
「無理しちゃ駄目ですよ?」
「腰は一度悪くすると大変ですから」
「ははは」
「気を付けるよ」
リアネは満足そうに笑った。
ただ、
困っている人を手伝った。
本人にとっては、それだけだった。
一方。
少し後ろから見守っていたソフィアは、
静かにその姿を見つめていた。
(迷いがありませんね)
(困っている方を見つけた瞬間)
(呼吸をするように手を差し伸べている)
見返りを求めない。
褒められようとも思っていない。
助けることが、
リアネにとっては当たり前。
ソフィアは小さく微笑んだ。
(本当に……)
(優しい方ですね)
その優しい眼差しに、
リアネはまだ気付いていなかった。




