第15話 友達
ソフィアがベル商会へ滞在するようになって数日。
二人は自然と打ち解け始めていた。
王都を歩き。
市場を巡り。
祭りの準備を眺め。
気が付けば、笑顔で話す時間が増えていた。
そんなある日。
ソフィアが少し照れくさそうに微笑む。
「リアネ様」
「一つお願いがあるのですが」
「はい?」
「もっと普通にお話ししませんか?」
「いつも『大聖女様』と呼ばれることには慣れていますが……」
「リアネ様とは、もっと気軽にお話しできたら嬉しいです」
リアネは少し驚いた。
「えっ」
「いいんですか?」
「もちろんです」
「では……」
リアネは少し照れながら笑う。
「ソフィアさん」
ソフィアも嬉しそうに微笑んだ。
「はい」
「ありがとうございます」
リアネは思わず見つめてしまう。
(本当に謙虚な人だなぁ)
(優しい人)
(私なんか、ソフィアさんからしたらただの商人の娘なのに)
(今まで一度も偉そうな態度を取らない)
(歴代最高の大聖女)
(史上最年少、十八歳で大聖女になった人なのに)
数日間一緒に過ごしたからこそ分かる。
ソフィアは誰に対しても分け隔てなく接し、
困っている人がいれば自然と手を差し伸べる。
(なるほど)
(史上最年少で大聖女になった理由が分かったかも)
(偉業だけじゃない)
(きっと、この人柄も認められたんだ)
リアネはしみじみと頷いた。
そして。
思わず本音が漏れる。
「本当に……」
「エリアネ様も見習うべきですよね」
ソフィアはきょとんと首を傾げた。
「え?」
リアネは真面目な顔で続ける。
「お酒ばっかり飲んでないで」
「もう少しソフィアさんを見習うべきだと思います」
「…………」
数秒の沈黙。
ソフィアは少し驚いたように尋ねる。
「エリアネ様は、お酒を嗜まれていたのですか?」
「…………」
リアネの笑顔が固まる。
(しまった)
(また私だ)
「あ、いや!」
「確か昔読んだ本に……」
「そう書いてあったような気がして!」
「えっと……」
「他種族間の宴会で」
「お付き合いとして、お酒を飲まれていた……とか何とか」
ソフィアは納得したように微笑んだ。
「なるほど」
「四種族融和という偉業を成し遂げるためには」
「数え切れないほどの会談や宴があったのでしょう」
「きっとエリアネ様も、ご苦労なさったのですね」
「…………」
(いや)
(楽しんでただけなんだけど)
(宴会、大好きだったし)
(ガンドール様の麦酒、美味しかったなぁ)
(アルディオン様の蜂蜜酒も絶品だったし)
(オルド様とは会うたび乾杯してた気がする)
(……飲みたい)
思わず遠い目になる。
そんなリアネの様子を見て、
ソフィアは小さく笑った。
「リアネさんは、本当にエリアネ様がお好きなのですね」
「はい!」
リアネは満面の笑みで頷く。
「大好きです!」
(本人だけどね)
その言葉に嘘はない。
三千年前の自分も。
十六歳の今の自分も。
きっと根っこの部分は何も変わっていないのだから。
ソフィアはそっと手を差し出した。
「では改めて」
「これからもよろしくお願いします」
リアネも笑顔でその手を握り返す。
「はい!」
「よろしくお願いします!」
こうして。
現代最高の大聖女と、
ベル商会の一人娘。
二人は少しずつ、
友達になっていくのだった。




