第11話 案内役
昼食後。
ベル商会。
リアネは父に呼ばれ、貴賓室を訪れていた。
部屋には、
父レオン。
母エマ。
そして、現代大聖女ソフィア・アルテミスの姿があった。
レオンは穏やかに口を開く。
「リアネ」
「ソフィア様は、エリアネ大祭まで数週間リリア王国へ滞在される」
リアネは頷いた。
「はい」
「そこでだ」
「滞在中は、お前がソフィア様をご案内しなさい」
「えーーー!!」
思わず大声が飛び出した。
(よりによって!?)
(一番正体がバレたら困る人なんだけど!)
現代大聖女。
ソフィア・アルテミス。
前世を思い出す前のリアネにとって、
彼女は憧れの人の一人だった。
歴代最高の大聖女。
教会最高幹部。
そして、希少な光魔法の使い手。
(つまり……)
(私の光魔法や正体がバレたら)
(人生詰む)
脳裏に最悪の未来が浮かぶ。
『リアネさん』
『あなたには素晴らしい光魔法の才能があります』
『ぜひ教会へ』
『聖女を目指しましょう』
(うわぁぁぁぁ!)
(未来が見えるぅぅぅ!)
「お父さん!」
「他に案内役いるでしょ!」
必死に訴える。
しかし、レオンは首を横に振った。
「いや、お前以上の適任はいない」
「どうして!?」
「お前は昔からエリアネ大祭が大好きだっただろう」
「初代大聖女様についても誰より詳しい」
「ソフィア様をご案内できるのは、お前しかいない」
さらにレオンは懐かしそうに微笑んだ。
「それにリアネ」
「君は昔から、よく言っていたじゃないか」
「ソフィア様がまだ大聖女になられる前から」
「いつか聖女ソフィア様をエリアネ大祭でご案内するんだ」
「それが私の夢なんだって」
レオンは嬉しそうに頷く。
「よかったな」
「夢が叶って」
リアネは笑顔のまま固まった。
「…………」
(前世を思い出す前の私ぃぃぃ!!)
(余計なこと言うなよーー!!)
(なんでそんな夢見ちゃったの!?)
(今の私が一番困るやつじゃん!!)
レオンは娘の心境など知る由もなく、さらに続ける。
「もしリアネがソフィア様に気に入っていただけたら」
「また初代大聖女エリアネ様ゆかりの品を見せていただけるかもしれないぞ?」
(私、そんな大層な人間じゃないよー)
(恥ずかしいからやめてよー)
(ていうか)
(そのエリアネ様、私なんだけどー!)
心の中で絶叫する。
一方、事情を何も知らないソフィアは優しく微笑んだ。
「リアネさん」
「これから数週間、どうぞよろしくお願いいたします」
その笑顔は、
まさに大聖女そのものだった。
リアネは引きつった笑みを浮かべる。
「は……はい」
「こちらこそ、よろしくお願いします……」
(お願いだから)
(絶対に私の正体だけは気付かないでください!)
こうして。
リアネにとって人生最大の綱渡りの日々が、静かに幕を開けた。




