第10話 絶対秘密
翌朝。
目を覚ましたリアネは、自分の身体に違和感を覚えていた。
「……何これ」
昨日までとは違う。
理由は分からない。
けれど、不思議と分かる。
光魔法が使える。
誰かに教えられたわけでもない。
魔法書を読んだわけでもない。
それでも、
どう魔素を扱えば光魔法になるのか、
まるで昔から知っていたかのように理解できた。
「これ……前世の記憶?」
試しに指先へ魔力を集める。
淡い光が、
ふわりと灯る。
「やっぱり」
「使えちゃうんだ……」
リアネは思わず頭を抱えた。
光魔法。
それは極めて希少な魔法体系。
かつて前世のエリアネも光魔法を扱っていた。
その影響なのか。
それとも偶然なのか。
定かではない。
しかし、リアネが学んできた歴史では、
初代大聖女エリアネ以降、
歴代の教皇。
歴代の聖者。
歴代の聖女。
その多くが光魔法の使い手だった。
いつしか、
光魔法は教会において、
「神に選ばれし聖者の証」
と考えられるようになったのである。
「つまり……」
「前世の私が光魔法を使ってたせいで」
「後の聖者様や聖女様も光魔法を使うようになって」
「光魔法が聖者の象徴になっちゃったってこと?」
数秒、固まる。
「……え?」
「前世の私」
「今世の私の首絞めてない?」
がっくりと肩を落とした。
「光魔法なんて知られたら」
「教会へ来てくださいって絶対言われるよね」
「しかも現代の教会って」
「めっちゃ厳しそうだよね?」
リアネはふと思い出す。
「ていうか」
「私、そもそも教会に入ってないんだけど」
「聖女になった覚えもないし」
「なんで初代大聖女になってるの?」
首を傾げる。
思い返してみても、
やっていたことと言えば、
友達を作って。
一緒に旅をして。
一緒にお酒を飲んで。
笑い合っていただけ。
「……功績だけ見て」
「後の人が勝手に初代大聖女って呼び始めたのかな?」
「いやいや」
「盛りすぎでしょ」
ぶんぶんと首を振る。
さらに、
ベル商会の一人娘という立場もある。
「しかもベル商会の娘だから」
「縁談とか」
「政略結婚とか」
「外交問題とか」
「無理無理!」
その瞬間。
リアネの頭の中で、最悪の未来が勝手に始まった。
◇
「リアネ様」
「本日より教会へお入りいただきます」
気が付けば、
真っ白な修道服を着せられている。
「今日から厳しい戒律を守っていただきます」
「恋愛は禁止です」
「もちろん飲酒も禁止です」
「ええぇぇぇぇ!?」
リアネは絶叫した。
場面が変わる。
父レオンと母エマが、
ソフィアの前で深々と頭を下げている。
「ソフィア様」
「うちの娘をよろしくお願いいたします」
父は涙ぐみながら言った。
「立派な聖女になってくれるなんて」
「親としてこれ以上の幸せはありません!」
母も目元を押さえる。
「寂しいけれど……」
「頑張るのよ、リアネ」
「えぇぇぇ!?」
「お父さん!?」
「お母さん!?」
「止めてよぉ!」
「私、絶対預けられるじゃん!」
さらに場面が変わる。
「ベル商会の令嬢!」
「希少な光魔法の使い手!」
「ぜひ我が家へ!」
「ぜひ我が国へ!」
「結婚してください!」
「王家へお迎えしたい!」
「皇室へ!」
「聖女様!」
「ぜひ!」
次々と押し寄せる縁談。
貴族。
王族。
各国の使者。
リアネは涙目になって叫ぶ。
「絶対いやーーー!!」
◇
「はっ!」
リアネは勢いよく飛び起きた。
「……妄想か」
胸をなで下ろす。
そして。
最も重大な問題を思い出す。
「私!」
「今年やっとお酒飲める年になったのに!」
前世では、
友達とお酒を飲み交わす時間が何より好きだった。
ようやく今世でも、
その楽しみを味わえる年齢になったのである。
「もしみんなと会った時に」
「ガンドール様と麦酒飲めないじゃん!」
「アルディオン様と蜂蜜酒も飲めないし!」
「オルド様とも乾杯できない!」
「せっかく今年から飲めるのに!」
ベッドの上でじたばた暴れた末、
リアネは大きく息を吐く。
「よし!」
「絶対に正体は隠そう!」
「前世と同じように」
「友達作って」
「商いで人を幸せにして」
「好き勝手生きる!」
こうして。
友達を作って旅をしていただけの少女は、
三千年後も何一つ変わることなく、
普通の女の子・リアネとして生きることを固く決意したのだった。




