噂。
「――ちょ、先輩たち! こういうの良くないって!」
「えー、でも気になるでしょ? みそっちも」
「そりゃあ、気にはなるけどさ……」
校舎裏に呼び出された新波さんの後を、コッソリと覗く。
「あやなっちは普通に可愛いもんね」
「まぁ……男はほっとけないと思うけど」
「ああ。あれで自信ないの嫌味だぞ」
緊張気味の男子生徒。顔はどことなく赤い。
「俺と――」
ありきたりだが、実際に目撃する時が来るとは思わなかった。
罪悪感はあれど思わず胸が踊る。次に来るありきたりな言葉に期待が高まる。
「俺と――ヤってください‼」
――空気が凍った。
聞き間違いでなければ、そう言うことなのだろうが。
胸の中で明確な嫌悪感と、同時にようやくピースがハマった。
本当に時間が凍ったみたいに無音になる。
咄嗟に心美を制そうとするが――
「ちょっと、あんた!」
「うわぁ⁉ 誰だよお前⁉」
それより先に、二階堂が飛び出していた。
「二階堂さん⁉」
「あんたは何⁉ 猿かなんかの⁉」
すごい剣幕で男子の胸倉を掴む。
「待て待て!」
止めに入るが、猛犬の如く威嚇してる。
羽交い締めにしてようやっと抑えられた。
その隙に、男は転がるように逃げていった。
「さいっていっ! なにあいつ!」
「みそっちどうどう」
なおも怒りが収まらないようだ。
離したらたぶん、追って殴りに行くぞ、これ。
「二階堂さん、大丈夫だから」
そう言う割には、顔の青ざめ方が尋常ではない。
笑みを浮かべてはいても、恐怖が色濃く出ている。
その様子を見て冷静になったのだろう、二階堂が落ち着いてくれた。
「これが、原因か?」
「あはは………………うん」
誤魔化そうとしていたのだろう、作り笑いを強調していた。
だが、俺たちの目を見て観念したらしい。
「……知らない? 私が、その、貞操観念が緩いみたいに言われてるの」
「いや全く。これっぽちも」
「うん。ボクも聞いたことない」
「先輩たちが知らないなら、あたしが知る訳ない」
二階堂にも尋ねたが、不機嫌に答えた。
どうやら、あまり広まっている噂ではないらしい。
だが時折、妙な視線を感じることがあった。
「軽蔑するよね……そういう噂のある女の子って……」
ポツリポツリとしんどそうに言葉を連ねる。
どんどん気落ちしていく、このままだと帰ってこれなさそうだ。
「……あのなぁ、軽蔑する理由がないだろ」
「そうだよね。明らかに根も葉もない噂だもん」
「でも、私は……!」
「大体、引きこもってこそこそエロ――」
「わーわー! 何でもない! 何でもないよ! 二階堂さんは何も聞いてない!」
「う、うん。わかった」
血走った目で二階堂に迫っていた。
堪らずと言った様子で納得させられていた。
「とまぁ、この様に状況証拠が物語っている」
「うぅ……どうして擁護されてるはずの私が傷付いてるんですか……?」
「い、いいの⁉ こんな噂ほっといて⁉」
「今は誰かが言ってる下世話な話でしかないからな」
「ボクたちが動くと、却って広まっちゃうかもしれないからね」
この場合。消そうとすると、噂が広まりかねない。
「今は触れずに、聞かれたら否定するだけに留めた方がいい」
「それはそうかもだけど!」
「ううん。二人のいう通りだから」
「けど……」
さっきの話が相当頭に来ているらしい。
だが、新波さんの作り笑いに二階堂が折れた。
問題なのは……いつものネガティブな詠唱が出ていないこと。
愚痴を言えない。それだけ、精神的に参っていると言うこと。
だからといって俺たちができることはないだろう。
人の噂も七十五日。自然消滅を待つしかない。
評価してくれると、モチベが爆上がりします。




