イジメ。
――そう思っていた。
たまたま校門前で会った新波さんと心美と登校していた時。
掲示物が張り出される場所に、人混みができていた。
――新波 綾那はパパ活して不登校。
そう、掲示板を覆うほどの紙で貼りだされていた。
流石に言葉を失うしかなかった。
何よりも、生気を失った新波さんの表情に。
「あ! 待ってあや――⁉」
耐えられずに新波さんが逃げ出す。
それを止めようと声を掛けた心美を、咄嗟に止める。
「むごご……何するのさ⁉」
「馬鹿! この状況で名前を呼んでみろ!」
ハッとして押し黙る。そのままただ俯いた。
幸いにも気が付かれていない。みんな、掲示物に夢中だ。
だが、おかげで、新波さんがどこに行ったのかわからなくなった。
取り敢えず剥がそうと、人波を縫って前に進もうとした時。
「せーじん先輩!」
「二階堂」
「見たあの紙……って、こっちにもあったの⁉」
「みそっちの所にもあったの?」
「うん。ビリビリに破いてきたけど」
「だとしたら、厄介なことになったぞ……」
つまり、もうほとんどの生徒が目撃していると言うこと。
被害を最小限に抑えるには、既に遅い。
困惑の中に侮蔑の言葉もチラホラと聞こえてくる。
「――二階堂、放送室の鍵あるか?」
「え? えっと、一応あるけど」
「なら貸してくれ」
「まさかせーじん先輩……⁉」
渡そうとしてくれた鍵を、胸に引き戻してしまう。
決心か観念か、俺の空っぽの手を見て頷いた。
「ボクはせーじんについていくよ」
「いいのか?」
「複数犯の方が罪は軽いよね?」
苦笑いを浮かべている。きっと察したのだろう。
「二階堂、悪いが剥がせるだけ剥がしといてくれ」
「……すごいね、先輩は。こんな状況で冷静なんだから」
「……そうでもない」
「え?」
鍵を受け取って、放送室に走り出す。
このまま行けば、真偽はどうあれそういう目で見られる。
彼女は、謂れのない役割を背負わされることになる。
そうなれば、また逆戻りだ。
「ええっと? これが放送スイッチか?」
こんなことなら、二階堂さんに教えてもらえばよかった。
とは言っても、こんなことに巻き込むわけにはいかない。
「ボク、扉を押さえておくから。たぶん、あんまりもたないけど」
心美に向かって頷いて、マイクを前にする。
――視界が歪んでいく。
中心に向かって渦を巻くように、視界が狭窄していく。
冷汗が止まらない。震えで、机に手をつけないと安定しない。
呼吸器官に凹凸のあるものを押し込まれたような不快感。
そのせいで、呼吸が浅く活発に。逃げていく酸素の方が多い。
それら一切を飲み込む。震える手も、強く握って止める。
冷静に見える。そう見えているならいい。
「……大丈夫そ?」
「吐瀉物ASMR始めるかも……」
「全校生徒の耳を汚染は草」
あくまでも、いつも通りでいよう。
放送のスイッチをオンにした。
……俺は普通じゃないといけないんだ。
評価してくれると、モチベが爆上がりします。




