発覚。
『――ほい。現国の授業』
『ありがとうございます』
丁寧で、端的なメッセージのやり取り。
……と思ったら、謎の兎のスタンプが送られてきた。
約束通り、合間に授業中の空気なんかを送っている。
『現国の先生は去年と一緒だぞ?』
『三組から五組は、違う先生でしたので』
そうなのか。他クラスに友達いないから知らなかった。
「……ねえ知ってる?」
「カキは生涯で複数回性別を変えるらしいぞ」
「ホントに意外な豆知識⁉ つまりカキは男であり女……男の娘の可能性も⁉」
「貝を開けるまでわからない。シュレディンガーだな」
「つまりカキの擬人化は二度美味しい、一挙両得……!」
「虻蜂取らずって知ってるか?」
こいつはどういう思考回路してんだ。
乗っておいてなんだが、発想の飛躍がオリンピック選手。
そのままどっか飛んでけ、と思ってたら急に自分の世界から戻ってくる。
「で、何の話だ?」
「あ、忘れてた。宇宙人だよ宇宙人。この学校にいるんだって」
「宇宙人?」
本当に宇宙にまで飛び立ってしまった。
「なんか、宇宙人を探してる人がいるんだって」
「それ、変な電波受信してないか?」
「ボクもそう思う。もしいたらどうする?」
「美少女だったら握手。血が酸性だったらバッドエンド」
「人間って業が深いよね」
「宇宙人と言っても人によって解釈が違うからな」
ゲテモノだったり、虫だったり、逆に人間と瓜二つだったり。
「学校キャトりに来たのかな」
「攫うのはアブダクションな。家畜は聞いたことあるが学校はないぞ」
キャトルミューティレーションは攫われた後だ。
ふと、メッセージを打つ手を止める。
「……お前、新波さんと会いたい?」
「うん」
迷いの無い即答だった。
正直、女子の部屋に一人で行くのは気を遣って疲れるのだ。
友達を連れていきたいとそれとなく伝えると、返信には間があった。
『どんな人ですか?』
「……今から一分間、自己PRをしなさい」
「可愛いの権化、化身。可愛いこそボク。ヴィーナスの生まれ変わり」
「自己肯定感バグってる奴……っと」
ヴィーナスは美の化身だが、そこは置いておこう。
流石に冗談で、同じでクラスであることと名前を伝える。
『彼女さんですか?』
『違う。中学からの同級生。俺たちと同じ穴の狢』
再び間が空き、それならと返信が返ってくる。
「やりぃ」
心美が横で指を鳴らす。
「ところでだけど、特典とかある?」
「ケーキが食える」
「やりぃ」
再び指を鳴らしていた。
「――こんにちは!」
「こ、こんにちは」
玄関先でぎこちない挨拶がされる。
取り敢えず部屋に通して貰って、改めて紹介する。
「こいつが前川心美。元引きこもり」
「イエス。マイネームイズ、ミミマエカワ。可愛いもの大好き!」
「新波 綾那です。よろしくお願いしますね、前川さん」
ふざける心美とは対称的に、座ったまましっかりと頭を下げる新波さん。
「わお、本当に引きこもりっぽくないね」
「えっと……そうですか?」
「うん。ボクの時はキレッキッレのナイフだったよ」
「そうだよな。人類滅亡とか願ってたよな」
「「ねー?」」
仲良くハイタッチ。
「え、怖い……」
「安心しろ。新波さんもいつかわかる日が来る」
「とてもわかりたくないですよ……」
「ていうか、心美でいいよ?」
「あ、えっと、その、下の名前で呼ぶのは慣れていないので」
「そっか、ボクはどう呼ぼう。新波……新しい波……ニュウウェーブ」
「笑いの?」
「――今夜、会場を笑いの渦に巻き込むのは、この女ァ~!」
「え? え――⁉」
唐突な無茶振りにパニックになっている。
「だ、だっふんだ⁉」
……特にリアクションもせずじーっと見る。
じーっと圧を掛けると、比例して新波さんの顔も赤くなっていく。
「まぁ、うん。よく頑張った」
「お、面白かったよあやっち? うん、たぶん」
「中途半端に慰めないでください! どうせ――どうせ私なんかギャグのセンスないんですネットミームを擦るぐらいの知能しかないんです」
「あ、これが例の?」
「例の。この人、黒魔導士だから」
「見た目は白魔導士なのにね」
「大体ボケの振り方が古いんですよ最近の子っ、通じふ、なっふふ……」
徐々に笑いが零れ始めていた。
「ふふふ、ふひ、ふひひひひ」
「笑い堪えなくていいぞ?」
「逆にキモイ」
「す、すみません……で、でも、久しぶりに、何も考えてない人見て……ふふ」
変なツボに入ったのか、腹を抱えて前のめりに笑っている。
「ボクたちのこと脳足りんって言いましたよ。不敬じゃない?」
「どうする心美? 処す? 処す?」
「ちょっ……! ちょっと本当に止めてください……! 笑いがっ、止まらなっ……!」
呼吸困難に陥りそうになっていたので、流石に止めた。
深呼吸をし、笑い切った顔は実に晴れやかだった。
たぶん、これが彼女本来の明るさに近いんだろう。
落ち着いたのか、ゆっくりと口を開く。
「二人はとても、私と同じだったとは思えませんね」
「いや、これは内輪でゲラゲラやってるだけだぞ」
「そうだよ。ボクたち根っからの陰キャだから」
仲間がいるから早口になってるだけである。
「遊びには自分から誘わないしな」
「そうだね。相手から挨拶されないと返さないし」
「休日の話し相手は?」
「チャットAI!」
「愚痴の零し相手も?」
「チャットAI!」
「「イェーイ!」」
「やっぱりこの人たち怖いですよぉ……」
ドン引きしつつも、笑みは崩れてない。
「――二人のいる学校は楽しそうです」
「いやぁ……来ない方がいいぞ?」
「そうだよ。先生うるさいし、勉強面倒臭いし、エトセトラ」
「え、ここ学校に誘う流れではないんですか⁉」
「やだー! 学校の話なんかしたくなーい! ゲームしよ、ゲーム!」
どっちが不登校かわからないセリフを吐きながら、棚を漁り始める。
意外にも、棚には本と共にゲームのパッケージが少々。
それより上は仕切りがあって見えないが、心美が手を伸ばそうとする。
「――駄目!」
「え⁉ ごめっ――いだっ⁉」
驚いた拍子に、上の棚から何かの箱が心美に直撃する。
「おいおい。勝手に漁るからだぞ」
「いたたた……ごめーん新波っち」
謝りながら落ちてきた箱を拾おうとする。
しかし、その箱のタイトルには見覚えがあった。
いや、まさか。と思いながら新波さんの方を見る。
「あばばばばばば」
「あ、ギャルゲーだ! 新波っちもこういうのやるんだ!」
「あばば」
「そんなに動揺しなくてもいいよぉ! ボクも可愛い子は好きだし」
「待て――その先は地獄だぞ」
主に新波さんの名誉が。
「……ボク、理解のある女。下手な詮索はしない」
「……ほっ」
「でも、好奇心が止まらなーい!」
容赦のない宣言が箱の裏面を暴く。
そこには、女の子の一糸纏わぬ姿があった。
硬直する心美。果たして新波さんの運命は!
「こふっ!」
「あ、血を吹いた」
こういうのって、裏面に男のロマンが詰まってるんだよな。
「……も、もう駄目です……見られたからには二人をピラニアの生贄に……」
「おい、なんか怖いこと言い出したぞ」
「なんでピラニア?」
全ての闇を煮詰めたような瞳でこちらを見てくる。
「大丈夫だって! 女の子がエロゲの一つや二つ持ってても普通だって!」
身の危険を感じたのか、変な擁護をしだした。
「普通か?」
「そこは話合わせてよ」
「ふっ――二人ともっ‼ 出ていってくださーーーい‼」
新波さんの悲鳴と共に思い出す。
そういや、むっつりスケベって言われてたなぁ……
「――どうするかな……」
学校の席で突っ伏す。
昨日追い出されたっきり、新波さんからの返信がない。
「お前のせいだからな?」
「好奇心はキャッツを殺すんだね」
「他人事みたいに言ってからに」
「他人事だよーん」
あ、コイツ。今日来ないつもりだな。
どうするかと考えていると、ほんのちょっと、教室がざわめく。
廊下をチラッと見ると――制服姿の新波さんの姿が。
ざわめきと言っても、一部だけ。気が付いてもノーリアクションの人もいる。
「おい、来たぞ?」
「あらやだ、ボクたちピラニアの餌食?」
――こちらから出向くことはしない。
新波さんが教室の目の前で固まっていても。
この一歩が遠い。恐ろしく遠いのだ。
ここで逃げ出しても良い。俺は決して咎めない。
それが、生きるために必要なら。
小さな深呼吸と共に、勇気を持って歩みだす。
「……おはようございます」
「おはよう!」
「おはよう。よく来れたな?」
「いえ……まだ怖いけど」
大きく息を吸って、ため息を吐く。
「……あれがバレることより怖いことないな、って……」
「「それはそう」」
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