はみ出し者。
「――やれやれ」
輪になって踊る人たちを眺めながら、一安心する。
その中にはなぎ君も混ざっている。
「ありがとう」
二階堂から紙コップを手渡される。
「先輩が歌ってくれなかったら、あたし何もできなかった」
「二階堂の歌を聞いた後だと、恥ずかしくて堪らないがな」
「そんなことないって。歌詞、よく覚えてるね?」
「――昔、祭りの帰り道で口ずさんだんだ」
恥ずかしがって、音頭に混ざれなかった俺を母さんは手を引いてくれた。
母の見本を見ながら、必死に踊っていた。
「祭りの熱が冷めなくて。何度も一緒に歌ったんだ」
それこそ、疲れて眠るまでずっと。
「……羨ましいな」
「羨ましい?」
「お母さんたちのこと、そんなに好きなんだ」
そう言われて、気恥ずかしくなって頬を掻く。
この年になって親が好きとは、あんまり口にできない。
ただ、否定もできない。今思うことは一つだけ。
「……会いたいな」
「え?」
「――凪!」
突如として、悲鳴に近い声が響いた。
女性はなぎ君を見るや否や、強く抱きしめていた。
「おーい! せーじんたち!」
後から心美たちがやってきた。
「見つかったみたいだな」
「はい。皆さんが楽しく踊る中、一人だけ慌てていたので」
どうやら、意図せずして心美たちの助けになっていたらしい。
二階堂の肩を軽く叩くと、照れくさそうに笑っていた。
「さっきの歌、みそっちだよね?」
「そ、そうだけど……」
「とっても素敵でした。思わず足を止めちゃいましたから」
「うんうん。プロ顔負けってヤツだね」
「や、やめてってば……そんなことないから」
「いや、すごいと思うぞ」
元から良い声だと知っていたから、尚更だ。
「声だけで人を動かすのはそう簡単じゃない」
事実として、俺の声では誰も動くことはなかった。
「二階堂の歌は人に届く。もっと誇っていい」
「そうですよ。謙遜はむしろ嫌味です」
「だよね! 今度カラオケ行こ! 歌ってほしいアニソンあるから」
「あ、あんまり褒めないで! 何か恥ずかしいから……!」
二階堂は卑下する訳じゃないが、自分を過少評価している所がある。
まるで、『自分の力じゃない』そんな風に。
だから、正面から褒めるのが一番だ。
「あ」
全員で褒めつくしていると、顔の色がカラフルに輝く。
空を見上げると、大輪の花が音ともに花開く。
「楽しい時間はあっという間ですね」
気が付けば、祭りも終わりが近づいている。
「……あたし、明日帰るよ」
「そうか」
「えー! 帰っちゃうの? もっとお泊り会したかった!」
「趣旨が変わってるだろ」
「いいんですか?」
「これ以上、みんなに迷惑をかけられないし」
一瞬、口を結んだ後に「それに」と続ける。
「いつまでも、逃げてる訳にもいかない」
堂々と花火を見つめる姿。
その姿を一つ上の先輩として優しく見守った。
祭りも終わりが近づいている。
熱の余韻を冷ますように、寂しさが訪れるように。
夏の夜の風が終わり知らせてくる。
「……なんかいいよね、こういうの」
「ああ。そうだな」
「そうですね、この感じは」
「今のボクたち、すっごく」
「青春っぽいね!」「ラブコメっぽい」「ギャルゲみたいだ」「エロゲっぽいですね」
「「「「え?」」」」
異口こもごもの言葉が出てくる。
「えー……ここはみんなで合わせようよ」
「うごご……」
「せーじん先輩⁉ どうしたの⁉」
「発想が、発想が新波さんとほぼ同じ……うごごご」
「大丈夫だよせーじん! あやなっち程、重症じゃない!」
「あのお二人とも? とても失礼なこと言ってますからね?」
いい雰囲気も台無し。
それも仕方がないことである。
何せはみ出し者の集まり。それがオルタナティ部なのだから。




