歌。
「……それで? 君はどうしたんだ?」
「……おかあさん、いなくなっちゃった」
「つまり、迷子ということですよね?」
たこ焼きを食べながら、ポツリポツリと話し始める。
「仕方ない。俺たちで探すか。誰かこの子のこと……」
再び服を摘ままれる。
「先輩、懐かれてる?」
「何で?」
「さぁ? 同族だと思われてるんでしょ」
「おい、どういう意味だそれは?」
「私たちで親御さん探してきますから」
やばい。俺が御守りを任せられる流れになっている。
二階堂に縋るように、視線で助けを求める。
「そんな目で見ないで。あたしも残るから」
「ありがとう。持つべきは後輩だ」
そうして、二階堂と二人で待つことに。
少年はというと、泣きべそかきながら食べるばかり。
どう面倒を見ればいいものか。
「その、ボク君。名前はなんて言うの?」
「……なぎ」
「そう、なぎ君って言うんだ」
二階堂がぎこちなく話し始める。
初対面の相手に牙剥き出しでも、子供には優しいらしい。
それもそうだ。あれは周りを遠ざける、言わば防衛手段。
子供相手にする必要はない。これが普段通りの二階堂だ。
しかし、また涙が溢れそうになっている。
「おかあさん……ぼくのことおいていっちゃったのかな?」
「そんなこと――」
「そんなことある訳ない」
なぎ君は浴衣を着ている。心美たちでも苦戦する衣装だ。
それを、小学生くらいの子が自力で着れるとは思えない。
「それ、お母さんが着せてくれたんだろ?」
「……うん」
「なら、大丈夫だ」
「ほんとに?」
「ああ。お姉ちゃんたちが、必ず見つけてきてくれる」
頭を大袈裟に撫でてやる。
不安が消えたのか、初めて笑顔を見せてくれる。
「だからそんな辛気臭い顔するな。ほら、これも食べていいぞ」
「うん! もぐもぐ」
「一気に頬張るな。口元ソース塗れだぞ」
口を拭っていると、二階堂の視線が気になった。
「……この子が先輩を頼った理由、わかった気がする」
「何だ? 二階堂まで心美と同じこと言うのか?」
「違うって。子供に優しいんだなって。案外」
「案外は余計だ。何か懐かしいんだ」
「懐かしい?」
「昔、母さんとここに来たことを思い出してる」
朧気な記憶。
最早、当時の母の顔にも影が差してしまっていた。
それでも、とても大切な思い出として仕舞ってある。
「小さい先輩、ちょっと想像つかないな」
「これでも可愛い時期があったんだぞ?」
「それこそ想像できないよ」
「あ!」
放送機器から、古めかしい音楽が流れ始める。
それと同時に、嬉々として俺たちを引っ張り始めた。
「お、おい?」
「おんど! たくさんれんしゅうしたの!」
「どうしよう、あたし踊れないけど……」
「俺の見様見真似で何とか」
うろ覚えだが、周囲の振り付けを見れば思い出すだろう。
いざ、と構えを取ったその時。不協和音が耳を裂く。
「何これうるさっ⁉」
「スピーカーがイカレてやがる!」
「これじゃあ……!」
祭りの場にどよめきが生まれる。
不安や落胆が伝播する。特に子供は空気に敏感だ。
「何とかならないかな!」
「何とかって言ってもな」
「だって、この子沢山練習したって言ってるんだよ⁉」
何時になく必死な懇願だった。
正常に音楽が流れない以上、踊りも何もない。
突如、頭にノイズが走る。
それは放送機器からではなく、頭の中に砂嵐が起きたような、そんなモノ。
……待てよ? 音源さえあれば何でもいいのか?
「――五万石の~」
確か、歌い出しはこれで合っていたはずだ。
合っているはずだが、周囲の視線が酷く刺さる。
緊張で喉がつっかえて、いつも以上に声が出ない。
呼吸が乱れて、普通の汗と嫌な冷や汗がべったりと張り付く。
結果、途中で声が途切れてしまった。
「先輩続けて!」
だが、背中を押される。
剣幕に押され、半ばやけくそ気味に歌い終わる。
――綺麗な声が響き始めた。
それは、民謡にしてはあまりに透き通っていた。
透き通って、人の芯に響く歌声だった。
俺と同じように、誰もが聞き入ってしまう。
歌いながらチラリとこちらに合図を送る。
意図を理解して、歌のテンポに合わせて踊り始める。
俺たちに釣られて、踊る人が増えていく。
次第に、歌を口ずさむ人は増えていく。
気が付けば音頭は自然と生まれていたのだった。




