勉強会?
全員分の飲み物を入れて、お盆に乗せる。
経緯は何であれ、あれでも俺の客人だからな。
みんな荷物を片付け終え、とりあえず俺の部屋に集まっている。
「――ふい~、困った困った」
さっきまで、二階堂さん家に電話していた親父が戻って来た。
「どうだった?」
「どうだったも何も、大変だったぞ成人君」
「やっぱお冠?」
「電話越しでもわかるほど頭下げられた」
何でも電話口は母親の方だったらしい。
事情を説明すると、それはそれは謝り倒されたようだ。
伝聞だけだが、父親とは随分と様子が違うようだ。
「もうなんか、こっちが申し訳なくなった」
「悪い。迷惑かける」
「なーに! お父さんは日々会社で平謝りしてるからな!」
「……悪い」
「待ちなさい待ちなさい。笑うとこだからな?」
なんかこう、社会人の苦労をまざまざと聞かされた気がする。
「とにかく、だ。成人君は何も気にすることはない。大人のごたごたは大人が片付ける」
頼もしいサムズアップを見せてくれる。
ちょっと涙目でなければ決まっているのだが。
「――うわぁーん! 勉強やだー!」
「わ、ちょ! 前川先輩、邪魔だから」
自室の扉を開けたら死体が一つ。
心美が、各々が広げた教材の上に突っ伏す。
背の低いテーブルを三人で囲っている。
これだけ見ると、少し役得な気がしなくもない。
「心美、少しは二階堂を見習え」
「だって普通、お泊り会で勉強する⁉」
「それは普通にすると思うんですが……」
「違うの! ボクの夏休みはもっとこう、楽しくて爛れてるの!」
「爛れてるって……何する気?」
「反応しなくていい。新波さんが変な妄想してる」
顔を赤くして戻ってこない。
ジュースを並べると、顔だけ上げてストローを咥えた。
ついでに、みんなの進捗も覗いてみる。
二階堂は躓いた形跡すらなく、心美は心美なりに頑張っている。
「新波さんは読書感想文か。難しいの選んだな」
「うん。一番苦手なのからやっていこうと思って」
言う通り、筆があまり進んでいないようだ。
『主人公の言い回しが面白いと思いました』『ヒロインの仕草が可愛いと思いました』
「犯人の動機が……って、小学生の作文か?」
「わお。これは確かに酷いね」
「だから苦手なんですってばぁ」
これには担当の西澤先生も苦笑いするだろ。
「ほら、いつものあれで無駄に豊富な語彙力を発揮してるだろ?」
「え? あれは世界を呪ってたら勝手に出ませんか?」
「なんかすごい闇の深いこと言い出したね」
「普通は出ないって……」
これは二つの意味で目も当てられない。
語彙自体は持っているから、あとはどう引き出すかだ。
「もっとこう、比喩表現とか使ってみろ」
「比喩表現?」
「例えばだけど『何処までも続く海を見たような、胸躍る瞬間でした』みたいな感じかな」
「要するに、最近ドキドキした瞬間を使えばいい」
「最近ドキドキした瞬間……」
新波さん熟考する。
どうしよう。これで「ないです」とか、悲しいこと言われたら。
流石の俺もフォローできない。
「――まるでエロRPGのスラム街に来たみたいです?」
「二階堂、どこかわからないところないか?」
「え、あ、今は大丈夫……?」
「おーい? 手に負えないからって放棄するなぁ?」
「だってこの人、最近ただのセクハラおじさんになってきてんだよ」
「みなさんがドキドキした場面って言ったんじゃないですか⁉」
「新波先輩……よくわかんないけど、それはドキドキじゃなくてムラムラだと思う……」
「こひゅ」
死体がもう一つ増えた。
吹っ切れたのか、元からこうなのかは知らない。
「ボクもなぁ、ラノベだったらいくらでも感想書けるんだけど」
「うん? 西澤先生は好きな人はラノベでもいいって言ってたぞ?」
「デジマ⁉」
「あたしのクラスも。感想にネットの引用とか、AI使わなければ何でもいいって」
「……は!」
「は、じゃない。何でもいいわけじゃないからな?」
あえて聞かないが、恐らく即刻、生徒指導室だ。
「――フハハ! 怯えろ、竦め! 環境最強のおハム様に蹂躙されて死んでゆけ!」
「おいやめろ。こっちは最弱キャラ使ってるんだぞ」
「だって君、最高ランクの虹帯じゃん。これぐらいはハンデないと」
気が付けば話は盛大に逸れていて、勉強はそっちのけでゲームをしている。
「新波先輩、そのマシン強いよ」
「本当? 二階堂さんありがと~」
「あ、こら! せーじんは伝説マシン禁止でしょ⁉」
「完成させるのはな? パーツを保持していけないルールはない」
「こういう時の君は割と姑息だよね! おら、寄越せ!」
三つ揃えないと完成できない以上、持ち逃げは立派な戦略だ。
「あれ? なんかすごいのできたよ?」
「先輩それ伝説……」
「「完成させるのそっちかーい」」
ゲーム好きが四人も集まれば、こうなるのも止む無しと言えるだろう。
多分もう、誰も家出のことなんて覚えてない。
「あはは」
まぁ、でも。今はそれがいいのかもしれない。
二階堂にも、何も考えない時間が必要だ。




