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夏の前に。

「その飾りはあっちだそうです」

指示を出しながら、額から垂れる汗を拭う。

「三上君、こっち終わったよ」

 新波さんが体育館の壇上に上がってくる。

 室内とはいえ、夏場なので互いに汗ばむ。

 なるべく見ないようにして、指示書に目を落とす。

「ああ、新波さん」

「二年わるーい! これどこだー?」

「あ、それなら体育館入り口です。重いので複数人で運んでください」

 慌てて指差しながら案内する。

 ふと、新波さんが不思議そうな顔で見ていた。

「新波さんどうしたって、なにひゅんだにゃぐるぞ」

 いきなり頬を引っ張られた。

「あ、ちゃんと三上君だ」

「ちゃんとってなんだ、ちゃんとって」

「あまりに真面目過ぎて、別人に見えて」

「だよねー、せーじんはオンとオフハッキリしてるから」

 どこからともなく現れた心美。

 二人して俺のことを何だと思ってるのか。

「にしてもさ! にっしーもボクたちの扱い荒いよね!」

「しかたないだろ。俺たち前科者なんだ」

 むしろ、これだけで済んでるだけマシである。

「西澤先生には感謝ですね」

 因みに、新波さんは実はその対象ではない。

 学校側としては、例の騒動の被害者という扱いになってるらしい。

 ここにいるのは単純に、本人の意思である。

「大会かー」

 作業が一段落をしたのを見て、そう呟く。

 現在しているのは、運動部の応援会のための準備。

 なんでも、県大会に進出した部がいくつかあるとか。

「オルタナティ部も出る? 大会」

「そもそも、部じゃないだろ。急にどうした」

「いやね? せっかくだからオルタナティ部で夏っぽいことしたなー、って」

 要は遊びたいだけらしい。

「そうだ!」

 名案でも思い付いたのか、手を叩く。

「あれ! あれやろ! 強化合宿!」

「何を強化するんですか」

「カードゲームで反射神経や記憶力を鍛える!」

 それを人はお泊り会と呼ぶ。

「大体、夏休みまでお前らと一緒は勘弁願いたい」

「あー、そういうこと言うんだ。どいひー」

「そうです。どいひー、です」

 二人で身を寄せ合って非難轟々だ。

 最近、新波さんまで結託するようになったんだよな。

「うるさい。俺は夏休み中に堕落の限りを尽くすんだ」

「見たまえ綾那君。これがアオハルに見捨てられた男の姿だよ」

「三上君、夏休みと言っても自堕落な生活は駄目ですよ?」

 こういう時、正論が一番心に来る。

「そう言う二人は夏休みどうするんだよ?」

「私は、バイトと積みゲー消化ですね」

「ボクは姉弟と過ごすよ」

「この中にまともに青春できる奴はいないのか」

「それがオルタナティ部ですから」

 三人で嫌な納得の仕方をする。

 言われてみればそういう集まりだった。

「新波さーん?」

「西澤先生? 今行きます」

 新波さんがたったっと走っていく。

「うん?」

 壇上から見渡していると、違和感に気が付く。

 指示書と照らし合わせると、応援旗が一つ足りない。

「ちょっと、倉庫行ってくる」

「ならボクも行くよ。暇だし」

 体育倉庫とは別の、備品の入った建物の中に入る。

「うへぇ。埃っぽいし錆臭いね」

 埃っぽい空気を払う。

 建物だけでなく、備品の老朽化具合が年月を物語っている。

 棚を一つ動かすだけで咳き込みそうになる。

「にしても、よく気が付いたね?」

 別々で探していると、そんな声が飛んでくる。

「君って案外、周り見えてるよね。全体視野ってヤツ?」

「そうか? たまたまだろ」

「そうだよ。普段から割と気を遣ってくれてるし」

 埃のせいか鼻がむずむずする。

 心美から褒められると変な気分だ。

「だからにっしーは、君を指示係にしたんだろうね」

「あの人、そこまで考えてるか?」

 基本的に良い先生だが、俺には割と嫌がらせをしてくる。

 単純に面倒くさいことを押し付けられた可能性がある。

「よっ!」

 心美がジャンプして棚にしがみつき、上の方を確認し始める。

「おい、そこは俺が見るぞ?」

「いいよいいよ。ボクでも――」

 瞬間、嫌な音が響く。

 数秒後には、心美の体は宙に放り出されていた。

 反射的に体が動く。

気が付いた時には、落下地点に滑り込んでいた。

「うごっ⁉」

 腹部に強い衝撃が走る。

 あまりの衝撃に意識が明滅する。

「いってぇ……あ、せーじん大丈夫⁉」

「……何とか」

 慌てて飛び降りてくれたが、その動きが少し響く。

 不安そうに側で見てくるので、軽く肩を回す。

「ごめん。無茶した」

「気にするな。そっちこそ怪我ないか?」

「うん、ボクは……むぎゅ」

「顔中埃まるけだぞ」

 ハンカチで顔を拭ってやる。

 借りてきた猫のように大人しく受け入れていた。

「せっかくの可愛いが台無しだぞ」

「……君、そういうことするよね」

「は? 何が?」

「あーあ! みそっち可哀想!」

「なんで二階堂が出てくる?」

 パンパンと埃を払って立ち上がる。

「誰彼構わず、女の子に優しくするのも気を付けた方がいいよ?」

「ん? 女の子には優しくするものだろ?」

「急にまとも面するのやめてくれない?」

 呆れたように軽口を叩かれる。

 目的の物を見つけ、戻ったころには大分時間が過ぎていた。

 心配してくれた西澤先生に事情を説明しておいた。

 新波さんが「倉庫で二人っきり⁉」と顔を赤くしてたのが印象的だった。


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