高めの壁。
朝の騒ぎも落ち着き、昼休みに入った。
とはいえ、新波さんの周りには人が集まっていた。
心美もどっか行っているので、一人で席を立つ。
二人がいないうちに確認したいことがあった。
「三上君!」
教室を出ようとしたところで声をかけられる。
わざわざ周りに断りを入れてまでこっちに来た。
「お昼、一緒にどうですか?」
「おうおう? 人気者さんは、俺みたいな日陰者に声を掛けてくれるのか」
「むー……そういうこと言うんですか?」
ぷくりと頬を膨らませる。
それこそリスみたいに膨らませている。
「ぷふっ⁉ 何するんですか!」
「はは。悪い」
思わず突っ突いてしまった。
「もう! 三上君なんて知りません!」
わざとらしく顔を逸らされる。
そのままプリプリと怒って、戻ってしまった。
「さてと」
今度こそ教室を出て目的地に向かう。
……苦手なんだよなぁ、他学年の廊下。
自分の学年と同じ風景、同じ構造。なのに、不思議と異世界感がある。
それこそ、去年までここで勉強してたはずだというのに。
耳の早い生徒はどうやら俺のことを知っているらしい。
それがさらに居心地を悪くさせている。
「あの人、何やってるのかな」
「さぁ……?」
二階堂を探しているのだが、困ったことにクラスを知らない。
あの日、二階堂も影ながら頑張ってくれていた。
放送に注目がいっていたとはいえ、あの貼り紙を全部剥がしたんだ。
もしかしたらクラスで浮いてるかもしれない。
そう思ったが、明らかに今の俺は不審者だ。
三人で来れば浮くと思って一人で来たのだが。
「ごめん、そこの君」
「あ、俺っすか?」
「二階堂楚御詩さんって、どのクラスかな?」
「に、二階堂っすか……?」
名前を聞いた途端に言い淀む。
「さ、三組っすね……」
「そっか、ありがとう」
……今の反応、俺じゃなくて二階堂に対してだよな。
まさか、既に火の手が回っているのか?
焦燥に駆られながらも、そーっと三組を覗く。
――そこにいた少女はあまりに大人びていた。
カーテン越しの淡い日差しが彼女を照らし出す。
目を細め、物思いに耽る姿には雅があった。
絵画に収めたいぐらいだ。絵、描かないが。
二階堂さんからは時々、気品みたいなの感じるんだよな。
新波さんの清楚(頭の中は除く)とは、違う静謐さがある。
一人っきりだが、それを苦にしてる様子はない。
杞憂だったか? いや、まだ断定するのは早いか。
「……あ」
目が合う。数秒だが目が離せなくなった。
思わず顔を引っ込める。
「……なにしてるの?」
怪訝な顔で今度は逆に覗かれた。
「よ!」
「よ、じゃないって」
じっと見られている。完全に怪しまれてる。
普通に見惚れてたとは言えない。
「その、なんだ、大丈夫だったか?」
「……何が?」
「あんなことがあっただろ? クラスで浮いてないかと思ってな」
これは本当、嘘は言ってない。
バレてしまってはしょうがない。
変に誤魔化すより正直に言った方がいいだろう。
「それは……全然平気」
「そうか? 今も一人だったが」
「あー……」
一瞬、目を逸らされた。
「いつもこんな感じだから、大丈夫」
「大丈夫って」
「それより、そっちは大丈夫だった?」
「こっちは……一瞬騒ぎになったが、なんか丸く収まった!」
「ぷっ、何それ?」
自信満々に言ったら、クスりと笑われた。
二階堂自身はいつも通りだ。そこは安心すべきだろう。
だとしたら……この居心地の悪さは何だ?
周囲の壁というか、二階堂の様子を窺うような視線。
俺じゃなくて、二階堂なんだ。
「……何?」
突然、苛立ちに満ちた声で首がキュッとなる。
二階堂は俺ではなく、俺の背後に向けている。
「見世物じゃないんだけど」
「あ、あはは……」
睨み付けられた生徒たちは蜘蛛の子を散らすように退散する。
「いいのか、あれ?」
「別に……先輩、早く戻ったら? もう予鈴鳴るよ?」
「そう、だな。悪い、邪魔したな」
「ううん。こっちこそありがと」
照れ臭そうに言い、手を振られる。
二階堂の行動は、意識的にやってるように感じてしまった。
うーむ……これは周りが壁を作ってるというよりは……




