オルタナティ部。
「……うぅ、エロゲどころかバイト先まで知られた……もう生きていけません……」
「バ先ってそこまで深刻?」
「だって『お友達価格な』ってたかるつもりじゃ……」
「俺たちをいったい何だと思ってるんだ」
そこまで意地の悪い性格はしていない。
やっても、シフトの度に足繁く通うぐらいだ。
「てか、ホントにやってるんだ……その、あれ」
「こふっ」
「あ、吐血した」
「ご、ごめん! 別に否定したいわけじゃ!」
二階堂、それは逆効果だ。
本気で庇われて、死んだ目をしている。
「まぁ、不登校とエロゲ趣味がバレただけで済んでよかっただろ?」
「明らかに前者は必要ないですよぉ……」
ケーキを食べているのに「明日からどんな顔を……」と、苦い顔をする。
「にしても、せーじんのあれ気持ちよかったね!」
「……あまり言うなよ。結構、恥ずかしいんだ」
頭に血が上っていたのもあって、勢い余ってやってしまった。
「……そうですね。かっこよかったですよ?」
「お、何だ仕返しか? 趣味が悪いな」
「三上君には負けますよ」
わざとらしくニヒルな笑みを浮かべる。
「ようし! 我ら不登校児―ズを祝して凱旋だー!」
「待てよ、別に二階堂は不登校じゃないだろ」
「というか、もう少しまともなネーミングがいいです」
「あ、そうだよね。ごめんみそっち」
「えっと……」
大袈裟な素振りの謝罪に、何故かどもり始める。
言いにくそうに口を開いた。
「……その、実はあたしも、学校行けなかった時期あったから」
「へー、そうなんだ――そうなんだ⁉」
「うん……だから、せーじん先輩の言葉はすごいスッキリした」
思わず、ケーキを突っつく手が止まる。
俺も新波さんも、心美の反応がなかったら声を出していただろう。
「二人もそうだけど、全然そんな風には見えません」
「そうだな、結構しっかりしてる子だもんな」
「昔の話だから……けど、あたしだけ言わないのは失礼かと思って」
別に失礼も何もないが。真面目な彼女らしい。
もしかしたら、疎外感を与えてしまったのかもしれない。
「なら、改めまして!」
「名前も改めて欲しいかな?」
「あたしも、その名前はちょっと」
「うーん、やっぱり駄目? せーじんなんかない?」
「無茶振りをするな。共通点が不登校だろ?」
しかし、締まりがないのも微妙な気分だ。
「――オルタナティブスクール」
「うん? 何それ?」
「あたし知ってる。海外の思想を取り入れたっていう」
「ああ。普通の学校と違って、個性を伸ばすための日本の学校だ」
長所を伸ばすということに重きを置いた考え方。
短所を潰していくという考えの日本では、あまり馴染みがないだろう。
「学校に馴染めなかった、そんな人たちの言わば逃げ先だな」
「つまり、私たちのような……」
「そもそも海外では『不登校児』をそこまで烙印として扱っていない」
確かに海外でも、不登校に類する言葉や問題は存在している。
だが、そんな人たちのための居場所も存在している。
「じゃあ、オルタナティブガールズで行こう!」
「おーい、いきなり俺を仲間外れにするなー?」
「プラスアルファ!」
「取って付けるなよ」
「あ、それなら――」
新波さんがスマホに打ち込みだす。
『オルタナティ部』
「……なんていうのは、どうですか?」
恥ずかしそうにおずおずと見せてきた。
「ダジャレかよ」
「けど、前川先輩よりはいいと思う」
「うーん、悔しいけど真っ当」
別に部活を作る訳じゃないが、クソダサネームで呼ぶよりマシだろう。
「それじゃ、オルタナティ部! カンパーイ!」
全員でグラスを突き合わせる。
「あ、みんなをメッセのグループに招待したから」
「仕事が早いのな」
「みそっちも、連絡先交換しよ?」
確認してみると『オルタナティ部』から確かに招待が来ていた。
蹴ってみようかと思ったが、本当にハブられそうなのでやめた。
「悪い。俺はお暇するわ」
スマホの時間が目に入り席を立った。
「あれ、もうそんな時間?」
「何か用事があるんですか?」
「そろそろ帰って晩飯作らないと、親父が拗ねる」
「……それなら、あたしもそろそろかな」
「オッケー。また明日―」
片手間に手を振る心美。
その横で、新波さんが難しそうな顔をしていたのが、帰り際に見えた。
「――先輩はやっぱすごいね」
駅までの道のりを二人で歩く。
「あんなに堂々と『逃げてもいい』って言えるの」
「そうか? 俺は思ってることを口にしただけだぞ」
あの時は「これしかない」そう思って動いた。
今でも、あれ以外の選択肢は思いつかない。
それこそ無我夢中だ。だからこそ、あの言葉は嘘じゃない。
「俺はそれよりも、諦める方がよっぽど悪だと思う」
「それは……どう違うの?」
不思議そうな顔で覗き込まれる。
「全然違うぞ。諦めるっていうのは完全に足を止めることだ」
もう駄目だ、もう無理だ、と思考放棄する行為。
即ち、足を止めること。
「逃げるってのは、要するに……問題に対するアプローチを変えるみたいな?」
「アプローチ……それこそ、さっきのオルタナティブスクールがそう?」
「ああ。足を止めたんじゃなく、ただ、歩く道を変えただけだ」
それは他の人とは異なる道なのかもしれない。
「それを理由に後ろ指を差されても、諦めるよりはよっぽどいい」
人と違う=間違いではない。
それが正しいことなら、尊重されるベき選択だ。
「……オルタナティ部」
「どうした? やっぱり嫌だったかその名前?」
「あ、いや……なんかいいなと思って」
「……そんなに気に入ったのか?」
新波さんの渾身のダジャレだぞ。
「そうじゃなくて! なんか、仲間みたいでいいなって」
「仲間、ねぇ?」
神様の悪戯か、ひょんなことから集まった。
共通点は不登校なんて、おかしな理由だが。
「……ま、悪くはないか」
来週からは最低週一更新になります。




