誰にも見られない俺だけが、人魚の歌と“彼女たち”を見つけた
気づいたら、誰とも目が合わない。
話しかけられない。
ぶつからない。
存在してるのに、誰にも認識されない。
――そんな状態で辿り着いた王都で、
俺は“おかしなもの”を見つけた。
人魚の歌。
そして、なぜか隣にいる六人の美少女。
……いや、さすがにこれはおかしいだろ。
異世界に来て、一つ分かったことがある。
――俺は、ここでもモブらしい。
誰とも目が合わない。
ぶつかりそうになっても、避けられる。
まるで――
最初から“いないもの”みたいに。
◇ ◇ ◇
「……でけぇな」
思わず、そんな言葉が漏れた。
目の前に広がるのは、巨大な城壁に囲まれた都市。
門の前には人の列。
商人、旅人、兵士らしき連中。
ざわざわとした空気。
生きてる世界の音。
なのに。
――やっぱり、誰も俺を見ていない気がする。
列に並んでみる。
前の男は、一度もこちらを振り返らない。
後ろの女も、距離を取るでもなく、自然にそこに立っているだけ。
門番が順番に確認していく。
「次」
呼ばれる。
俺の番だ。
……のはずなのに。
「次」
もう一度。
門番の視線は、俺の後ろの女に向いていた。
「あ、え?」
女が前に出る。
そのまま通される。
俺は――
その流れに紛れて、一緒に中へ入った。
何も言われなかった。
止められもしなかった。
「……マジかよ」
笑うしかない。
いや、笑っていいのかも分からないけど。
◇ ◇ ◇
中は、もっとすごかった。
石畳の道。
両脇に並ぶ店。
行き交う人々。
声、匂い、色。
全部が濃い。
「……」
けど、やっぱり。
誰とも、目が合わない。
店先で立ち止まっても、呼び込みは来ない。
横を通っても、ぶつからない。
存在してるのに、関わられない。
「……楽っちゃ、楽だけどな」
ぽつりと呟く。
日本にいた頃だって、似たようなもんだった。
違うのは――
ここが異世界ってくらいだ。
それだけで、全部許されてる気がするのは、ちょっとズルい。
――そのとき。
ざわり、と空気が揺れた。
人の流れが、一方向に動く。
ざわめきが広がる。
「なんだ……?」
音が近づいてくる。
車輪の軋む音。
楽器の音。
そして――
歌。
◇ ◇ ◇
それは、奇妙な一団だった。
派手な装飾の馬車。
見たこともない動物。
色鮮やかな布。
まるで、旅芸人の集団。
いや――サーカス、か。
「へぇ……」
人だかりができている。
けど、その中心。
ひときわ目を引くのは――
水槽。
大きな、透明な水の箱。
その中で。
歌っている。
「……人魚?」
上半身は人。
下半身は魚。
ありえないはずの存在が、そこにいる。
そして――
歌っている。
声は、綺麗だった。
けど。
「……なんか、変だな」
周りの反応が、薄い。
人はいる。見ている。
でも、どこか――微妙な顔をしている。
「好み、分かれるやつか……?」
そう思った瞬間。
また、歌が流れ込んできた。
耳に。
頭に。
奥のほうに。
「……あ」
息が、止まる。
心臓が、ゆっくり鳴る。
言葉にできない。
でも――
「……いいな、これ」
好きだと思った。
理由なんて分からない。
ただ、そう思った。
ふと、横を見る。
――視線が、あった。
六人。
いつの間にか、隣に立っている。
年齢も、雰囲気もバラバラ。
けど、全員。
綺麗だった。
そして。
同じ顔をしている。
人魚の歌を、じっと聴いている顔。
「……」
声は、かけない。
かける理由もない。
ただ、並んでいるだけ。
それだけなのに。
不思議と、違和感がない。
むしろ――
「……まあ、いっか」
そのままでいい気がした。
歌は続く。
風が吹く。
人のざわめき。
水の揺れる音。
隣には、六人の少女。
誰も何も言わない。
それでも、成立している何か。
意味も理由もないまま、ただ流れていく時間。
――そのときだった。
「――ヒゴロ」
声がした。
すぐ後ろ。
誰もいないはずの位置から。
「ヒゴロ!!」
今度は、はっきりと。
振り向く。
――いない。
なのに。
“いる”。
視界の端。
空気の歪みみたいに、
黒い何かが、立っていた。
「目を覚ませ」
低く、乾いた声。
「考えろ。これはおかしい」
心臓が、ドクンと鳴る。
「こんな都合のいい状況――」
そこで、
別の声が重なった。
「あー……別にいいんじゃね?」
間延びした、気の抜けた声。
いつの間にか、
もう一つ“何か”がいる。
「夢でも、現実でもさ」
「楽しいなら、それで」
ヒゴロは、何も言えなかった。
六人の少女たちは、
ただ、歌を聴いている。
まるで――
最初から、そこにいたみたいに。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回から少しずつ、
ヒゴロの「内側」が見え始めます。
あの声は何なのか。
六人の少女たちは偶然なのか。
それとも――
もし少しでも「気になる」と思っていただけたら、
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次話、少しだけ“ズレ”が大きくなります。




