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私が着られなかったロリータ服を、異世界で広めます。  ―転生令嬢のドレス革命―  作者: 烏斗
後日談

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クロスオーバー第2話 形と感覚のあいだ

仕立て屋の奥。


作業台の上に置かれた一着を前に、エリーは静かに立っていた。


窓からの光が布の表面をなぞり、

縫い目の細やかさと、構造の整いを浮かび上がらせている。


「……」


美しい。


それは疑いようがなかった。


柔らかく広がるスカート。

計算されたフリルの重なり。

控えめでありながら確かに存在する装飾。


(ロリータ……)


心の中で、もう一度その言葉をなぞる。


前の世界で見た、あの“可愛い”の形。


だがこれは――


(少し違う)


甘さは抑えられ、色も落ち着いている。

過度な広がりはなく、全体はどこか“整えられている”。


(この世界に合わせてる)


その意図が、はっきりと感じられた。


「少しだけ、遠いですね」


ぽつりと呟く。


形は完成している。


けれど――


(体に、入っていかない)


針を手に取る。


エリーの作業は、大きく変えるものではない。


むしろ、整える。


「……ほどきますね」


そっと、縫い目に刃を入れる。


最初は、肩まわり。


「ここで、少しだけ緊張していますね」


ドレスは本来、体を包むもの。


だがこの一着は、わずかに“乗せている”感覚がある。


ほんの少し、余裕を持たせる。


それだけで、力の抜け方が変わる。


次に、胴まわり。


「……締めすぎてはいませんが」


指で軽く押す。


「動きに、ついてきていませんね」


呼吸。

姿勢。

わずかな体の揺れ。


それらを受け止める余白を作る。


スカートの重なり。


エリーの指が止まる。


「綺麗ですけど……」


フリルの配置を見つめる。


「少しだけ、意識させますね」


動いたときに、ほんのわずかに遅れる。


その“遅れ”が、着る人に気を遣わせる。


重なりを調整する。


流れを揃える。


裾。


「迷わない長さに」


床に触れそうで触れない、曖昧な位置。


それを、ほんの少しだけ変える。


足が自然に出る位置へ。


内側。


見えない部分。


「……ここですね」


小さく息を吐く。


「綺麗に作ってあるけど」


指先でなぞる。


「着る人が、少しだけ頑張る形です」


(惜しいな)


本当に、あと少し。


その差が、着心地を分ける。


針が進む。


静かに、確実に。


布が、少しずつ変わっていく。


やがて。


「……こんなところでしょうか」


手を止める。


見た目は、ほとんど変わらない。


だが――


「呼吸は、できるようになりましたね」


小さく、そう言った。


「お待たせしました」


客が呼ばれる。


現れたのは、若い女性だった。


どこか品のある佇まい。

だがその表情には、少しの不安が残っている。


着替え。


布の音。


そして――


姿を現した瞬間。


空気が、わずかに変わる。


同じドレス。


同じ形。


それでも、違う。


女性は、そっと立っている。


そして――


「あれ……」


小さく、声を漏らした。


「どうでしょうか」


エリーが穏やかに問う。


女性はゆっくりと動く。


一歩。

二歩。


スカートが、自然に揺れる。


「……さっきより」


少し驚いたように、


「楽、です」


「見えないところだけ、少し変えています」


エリーは静かに言う。


「体が先に動けるように」


女性はもう一度、歩く。


今度は迷いがない。


「……考えなくていい」


その言葉に、エリーは小さく微笑む。


「装いは」


ゆっくりと続ける。


「意識しないくらいが、ちょうどいいんです」


女性はその言葉を静かに受け止める。


そして、少しだけ姿勢を正す。


無理なく、自然に。


「……不思議です」


ドレスに触れながら言う。


「さっきより、綺麗に見える気がします」


エリーは少しだけ目を細める。


「はい」


静かに頷く。


「楽になると、無理がなくなりますから」


女性は鏡を見る。


そこに映る自分を、少しだけ長く見つめる。


「これなら……」


小さく息を吸う。


「着て出かけたいです」


その言葉に、エリーは静かに頷いた。


ドレスを整えながら、女性がふと口にする。


「これを作った方に、お見せしたいですね」


エリーの手が、一瞬だけ止まる。


(やっぱり)


この服には、意志がある。


誰かの考えが、確かに込められている。


「……そうですね」


穏やかに答える。


(会ってみたいな)


その思いが、静かに形になる。


王都で生まれた“可愛い”。


ここで整えられた“着心地”。


まだ交わっていない二つ。


だが確かに――


同じ場所へ向かっている。


店の外。


風がやわらかく吹き抜ける。


その流れは、やがて人と人を繋ぐ。


まだ見ぬ出会いへと。

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