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私が着られなかったロリータ服を、異世界で広めます。  ―転生令嬢のドレス革命―  作者: 烏斗
第8章:庭園のお茶会

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第54話 四様式の競演

王都の庭園。


お茶会はすでに、やわらかな賑わいに包まれていた。

令嬢たちは席にとどまらず、庭を歩きながら互いの装いを楽しんでいる。


「そのドレス、とても素敵ですわ」


声をかけたのは、深い紺のドレスの令嬢だった。

整えられたシルエットに、控えめなフリル。


「ありがとうございます」


応じた令嬢は、少し嬉しそうに裾を整える。


「私はこういう落ち着いた装いが好きで」


その言葉に、紺の令嬢は穏やかに微笑んだ。


「分かりますわ。長く着られる美しさがありますもの」


静かな共感。

その場には、落ち着いた空気が流れていた。


だが――


少し離れた場所では、明るい声が弾ける。


「まあ、そのドレス可愛い!」


桃色のドレスがふわりと揺れる。

幾重にも重なるフリルが、動くたびに軽やかに表情を変えた。


「やっぱりフリルは外せませんわ」


「ええ、見ているだけで楽しくなりますもの!」


先ほどとは違う、弾むような空気。


その様子を見ていた一人の令嬢が、小さく呟いた。


「……ああいう華やかな装いも、素敵ですけれど」


少しだけ言葉を選ぶように続ける。


「私はやはり、落ち着いた方が好みですわね」


その言葉に、隣の令嬢がくすりと笑う。


「私は逆ですわ。あれくらい華やかな方が、気分が上がりますもの」


視線が交わる。


否定ではない。

ただ、違うだけ。


そしてその違いが、どこか心地よかった。


さらに歩みを進めると、ふと空気が変わる場所がある。


黒を基調とした装いの令嬢が、静かに立っていた。


深い色。

光を抑えたレース。

余計な装飾を削ぎ落とした佇まい。


「……綺麗」


誰かが小さく息を呑む。


「華やかではないのに、目を引きますわね」


その言葉に、周囲も静かに頷いた。


かつてなら、地味と評されていたかもしれない。


けれど今は違う。


その静けさそのものが、美しさとして受け入れられている。


そして――


庭園の奥。


ひときわ視線を集める装いがあった。


大きく広がるスカート。

幾重にも重なるフリル。

光を受けてきらめくレース。


思わず足を止める令嬢たち。


「……あのドレス」


「初めて見ますわ」


豪華でありながら、ただの派手さではない。

どこか夢のような雰囲気をまとっている。


「少し……大胆すぎる気もしますけれど」


一人が、遠慮がちに言う。


だが、すぐに別の声が重なる。


「でも、あれだけの広がり……一度は着てみたいですわ」


小さな笑いがこぼれる。


「確かに、それは分かります」


評価は一つではない。

だが、否定でもない。


庭園を見渡せば――

それぞれの場所に、異なる美しさがあった。


静けさを纏う装い。

軽やかに弾む装い。

影のように引き立つ装い。

光のように広がる装い。


それらは競い合うのではなく、ただ並び立っている。


その光景に、一人の令嬢が小さく息をついた。


「……こんなにも違うのに、不思議ですわね」


少し間を置き、微笑む。


「どれも、選びたくなってしまいます」


誰かが頷く。


「ええ」


「だから、見ていて楽しいのですね」


その言葉に、自然と笑みが広がる。


好みは違う。

感じ方も違う。


けれど――

それでいい。


違うからこそ、並んだときに美しい。


庭園には、そんな空気が満ちていた。


そして、この日。


王都において、装いはただの流行ではなく――

“選べるもの”として、確かな形を持ち始めた。


誰かに合わせるのではなく。

自分の好きな姿を選ぶということ。


その楽しさが、静かに、しかし確実に広がっていく。


まだ名も定まらない流れ。


だが確かに――


新しいドレスの時代は、ここから始まろうとしていた。

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