第53話 装いのお茶会
王都の庭園。
春の花々が咲きそろい、やわらかな風が木々を揺らしていた。
整えられた芝生の上には白いテーブルが並び、紅茶と菓子が丁寧に用意されている。
今日は――
令嬢たちのためのお茶会の日だった。
庭園の入口に、馬車が一台止まる。
扉が開き、一人の令嬢がゆっくりと降り立った。
そして、足を踏み出した瞬間――
彼女の動きが止まる。
「まあ……っ」
思わず息を呑む。
視界いっぱいに広がる、色とりどりの装い。
淡い桃色のドレスが風に揺れ、
深い紺のドレスが静かに佇み、
黒の装いが落ち着いた存在感を放っている。
そしてその中には――
ひときわ大きく広がる、華やかなスカート。
「本当に……こんな装い、見たことがありませんわ」
隣に降りた友人も、同じように目を見開いた。
「ええ……まるで、別の世界のようです」
二人は顔を見合わせ、そして自然と笑みをこぼす。
胸の奥に、わずかな高鳴り。
ゆっくりと、庭園へと歩き出した。
近くでは、柔らかな色合いのドレスを纏った令嬢たちが楽しそうに笑っている。
ふわりと広がるスカートに、軽やかなフリル。
「見ているだけで、心が浮き立ちますね」
その少し先では、落ち着いた色の装いの令嬢たちが穏やかに紅茶を口にしていた。
整えられたレースと控えめな装飾が、静かな品を感じさせる。
さらに視線を巡らせれば――
黒を基調とした装いの令嬢が、静かに立っている。
派手さはない。
だが、その佇まいから目が離せない。
「……綺麗」
思わずこぼれた言葉に、友人も小さく頷いた。
同じ庭園の中で、まるで異なる空気が共存している。
「不思議ですわね」
一人が小さく呟く。
「どれも違うのに……どれも、目を奪われます」
その言葉は、すぐに心の中で形を持った。
やがて令嬢たちは、それぞれ席へと着き始める。
「今日は、どんな方がいらっしゃるのでしょう」
「きっと、まだ見たことのない装いもありますわ」
期待を含んだ声が、あちこちで交わされる。
紅茶が注がれ、会話がゆっくりと広がっていく。
笑い声と、カップの触れ合う小さな音。
華やかでありながら、どこか穏やかな時間。
この庭園には今――
それぞれの“好き”が、そのまま並んでいる。
そして誰もが、心のどこかで感じていた。
(まだ、何かが起こる)
胸の奥に生まれた、かすかな予感。
やがて――
王都で初めての、装いを楽しむお茶会は、
期待を抱いたまま、静かに幕を開けた。




