第47話 日常に混ざる憧れ
ミレーユの装いが披露されてから、数日。
王都では、その呼び方が自然と決まり始めていた。
「最近、よく聞きますわね」
「ええ。“姫ドレス”」
特別な説明はいらない。
その一言で通じる。
「確かに、あの雰囲気……そう呼びたくなります」
笑いが混じる。
だが、少し首を傾げる者もいた。
「でも、あれほど華やかですと……日常には少し難しくありません?」
すぐに返る。
「形をそのまま真似しなくても良いのでは?」
「え?」
「スカートの広がりを少し抑えたり、フリルを減らしたり」
「なるほど……」
会話の方向が変わる。
“着るかどうか”ではなく、
**“どう取り入れるか”**へ。
そのとき。
「ミレーユ様がいらっしゃいます」
視線が集まる。
現れたミレーユは、あのドレスをまとっていた。
広がるスカート。
重なる装飾。
だが——
前回ほどの圧はない。
視線を奪うのに、どこかやわらかい。
「……あら」
一人が小さく声を漏らす。
「思っていたより、落ち着いて見えますわね」
別の令嬢も頷く。
「ええ。もっと派手な印象でしたけれど」
見方が変わり始めている。
令嬢たちが近づいた。
「ミレーユ様」
「“姫ドレス”と呼ばれているそうです」
「そうなのですか」
ミレーユは軽く笑う。
「悪くない名前ですね」
それだけで、呼び名が定着する。
一人が遠慮がちに尋ねた。
「このようなドレスは……やはり特別な場で?」
ミレーユは首を振る。
「いいえ」
即答だった。
「日常でも問題ありません」
一瞬、沈黙。
「ただし——」
言葉が続く。
「そのまま着る必要はありません」
空気が緩む。
「少し軽くするだけで、十分に馴染みます」
スカートに軽く触れる。
「広がりを抑える」
「装飾を減らす」
短く示す。
「それでも、雰囲気は残りますから」
納得の気配が広がる。
一人が言う。
「……取り入れられそうです」
「ええ」
「全部でなくてもいいのですね」
ミレーユは頷く。
「好きな部分だけで構いません」
やわらかい答え。
押しつけはない。
だが、広がる余地はある。
別の令嬢が少し楽しそうに言う。
「リボンだけでも、それらしくなりそうですわ」
「スカートも、もう少しだけ広げてみようかしら」
会話が具体的になる。
流行の入り口が開く。
ミレーユはそれを見て、満足げに微笑んだ。
「ドレスは、選べるものです」
静かな声。
「気分でも、場面でも」
一歩、歩く。
スカートがやわらかく揺れる。
「その中に、少しだけ“憧れ”を混ぜる」
それだけでいい、と言うように。
令嬢たちは頷く。
もう迷いは少ない。
こうして王都では、新しい装いが言葉とともに広がっていく。
可愛い装い。
美しい装い。
そして——
憧れを取り入れる装い。
“姫ドレス”。
それは特別なものではなく、
日常の中に選べる一つとして、静かに根づき始めていた。




